表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/98

渇望~リーリア目線~

翌日、学校が休みなのを口実にリーリアは部屋から一歩も出ずに引きこもった。留学に付いてきてくれた口うるさい乳母のクララも、リーリアの顔を見ると何も言わなかった。


その日は一日中泣きながら、昨夜アルフォンスが言った言葉を考えた。今まで必死に考えないようにしていたエミリアへ醜い気持ちが、心のなかから湧き上がってくるのをどうしても抑えることが出来なかった。


その次の日は、クララに促されしぶしぶ朝食に出向いた。アルフォンスはいつも通りだったし、リーリアも必死に何事もなかったかのように明るく振る舞った。朝食を食べ終わる頃、アルフォンスが、


「実はエミリアが昨日風邪をこじらせて肺炎になったようなんだ。エミリアがいないのだから、エミリアが治るまでは別々に登校しよう。」


と優しく言い、リーリアの返事も聞かずに立ち上がると部屋を出ていった。


学校でも必死にいつも通り振る舞った。メアリー達はあの後のことを聞きたそうだったが、笑って曖昧にはぐらかした。お昼はアルフォンスとシャイルと3人で食べた。リーリアがエミリアの溶体を聞くと、『命に別状はないが高熱が続き意識が戻らない』とシャイルが教えてくれた。


リーリアは、自分よりずっとか弱くて常にアルフォンス達に心配されるエミリアを妬ましく思う気持ちを止められなかった。リーリアは一国の姫である。自国では自分が最優先されるのが当たり前なのに、エドガー王国では王家の姫でもなくただの一貴族の娘でしかないエミリアを誰もが最優先するのを不満に思った。だが、それでも自分はアルフォンスの側にいたいのだと考え、必死にその不満を胸の奥にしまいこんだ。


それから一週間、アルフォンスはエミリアと会うことが出来ないようだった。アルフォンスは毎日公爵家に放課後寄っているようだったが、一国の王子に感染る大変だからと家に入れてもらえないようだった。リーリアはそれを密かに喜んだ。


エミリアが学校に復帰する日、リーリアは当たり前のようにアルフォンスと迎えに行った。少しやつれていたが、元気そうで心底安心した。エミリアを見ると妬ましく思った気持ちが萎んでいき反省せざるを得なかった。エミリアはリーリアよりずっとアルフォンスにお似合いだと思った。


昼休みになると、『エミリアが話があるそうなんだ。だからサロンで話してくるよ。また後で。』と言いアルフォンスが教室を出て行った。


シャイルは気になっているようだったが、他の仲の良いクラスメートと教室を出て行った。仕方なく、リーリアもメアリー達とカフェテリアに向かうことにした。


階段を降りている時も、2人の話が気になって仕方がなかった。『リーリア様!』と呼ばれはっとした時には遅く、気づけば足を踏み外していて浮遊感の後地面に叩きつけられ、リーリアは意識を失った。


次に目が覚めた時は、保健室にいた。傍らに何故か兄のセシルが居た。驚くリーリアに、『妹の顔が早く見たくてこっそり学園に来たら階段から落ちたと聞き驚いた』と教えてくれた。慌てて起き上がろうとしたリーリアは、頭がひどく痛み起き上がれなかった。


それに慌てたのはセシルである。保険医は『頭を打ち付けたためです。数日こぶになって痛みますが、しばらくしたらよくなりますよ。』と言うのも聞かず、『妹は痛がっているではないか!王医に見せる!』と言い出した。


授業に出ていたアルフォンスを呼びつけると、『妹を王医に見せたい。手配してくれないか。』言う。アルフォンスは戸惑いながらも『分かりました。』と言い護衛にリーリア達を連れて行くように言ったのだが、セシルは妹の気持ちを汲み『僕と殿下が会うのも久しぶりじゃないか。募る話もたくさんある。授業などでなくても変わらないだろう?君も一緒に帰るぞ。』と言い、『約束があるから、後ほど!』と嫌がるアルフォンスを強引に連れ帰ったのである。


結局、王医も保険医と同じことを言った。夜、部屋で休養しているリーリアのもとに、アルフォンスと会食を終えたセシルがやって来ると言った。


「なんだか、リーリアは元気ないみたいだね。殿下と何かあったのかい?」


あれ以来どこか孤独だったリーリアは、優しい兄に安心し堪えていたものを泣きながら吐き出した。


「私ね。いつかアルが私のことを好きになってくれることを期待してたの。童話に出てくる姫は最後王子と結ばれるでしょう?」


「そうだね。」セシルは優しく言う。


「だから、アルに好きになってもらおうと努力したわ。でも、アルは私の事振り向いてくれない。」


「うん。」


「それに、エムだって・・・。私がどんなに優しくしてもどこか冷たいわ。私に心を一切許してくれないの・・・。エムはずるいわ。」


「うーん。」


「お兄様。私本当に辛いの・・・。ずっと願ってるの。アルのエムへの気持ちは同情で、本当は私を愛しているってアルが思ってくれることを・・・。」


「そうか。リーリアはそんなに殿下が好きなんだね。じゃあ、まず気持ちを伝えてごらんよ。」


「出来ないわ・・・。アルは私のことなんとも思っていないもの。嫌われるのが怖いわ。」


「いいかい。リーリア。君の考えもわかる。だけど、このままでは何も変わらない。決断しなさい。このまま殿下と友情を貫くのか。それともどうにかして手に入れ結婚したいのか。」


「・・・。」


「今決断しなさい。さぁ早く」


「お兄様・・・。私どうしてもアルを手に入れたいわ。」


「分かった。それなら、僕が必ずリーリアと殿下を結婚させてあげよう。」


「お兄様・・・。どうやって・・・?アルはエムを愛しているわ。」


「それならば、エミリア嬢を結婚できなくさせるまでさ。」


「お兄様!エムに何をする気?」


「落ち着きなさい。いいかいリーリア。殿下とエミリア嬢どちらも手に入れようなんて無理だ。エミリア嬢のことは捨てなさい。」


「でも・・・。私エムの友達でいたいの・・・。」


「君はエミリア嬢が冷たいと言ったね?そんなの当たり前だ。エミリア嬢はきっと君の殿下への気持ちに気づいている。リーリアがエミリア嬢なら、そんな人に心を開けるかい?」


「・・・。」


「無理に決まってるだろう?君はいい子だ。僕は君が可愛くてたまらない。エミリア嬢がずるいとさっき言ったね?でも君もずるいんだよ?気のない振りをして、殿下の側にいるだろ?」


「・・・。」


「待っているだけじゃ手になんて入らない。言ってること分かるよね?」


「・・・。」


「リーリア。何かを手に入れようとしたいなら、必ず犠牲は伴うんだ。」


「うん・・・。」


「どうだリーリア。殿下の事諦めるかい?」


「・・・。」


「無理だろ?」


「うん・・・。私アルが欲しい・・・。」


「分かった。僕がどうにかしてあげるよ。君は今まで通り過ごしなさい。エミリア嬢が結婚できない状態になれば、国王も君との結婚を勧めざるを得なくなるだろう。エミリア嬢の次に殿下にふさわしい女性は君しかいないもの。」


「お兄様・・・。」


「ほら。元気出して!僕に全部任せて!今日はゆっくり眠りなさい。」


そう言うとセシルは部屋から出て行った。風が強く、リーリアの気持ちを表すかのように窓がガタガタ鳴っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ