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辛い片思い~リーリア目線~

18歳になる年、リーリアはようやく父と兄から一年間の留学の権利を勝ち取った。一年半ぶりに多くの人と再会を喜んだ。


一年半の間に、アルフォンスがエミリアと婚約したのを聞いていた。しばらく落ち込み食欲をなくしたリーリアを見ていた兄のセシルは、エドガー王国に行くのを強く反対したが、最終的にはしぶしぶ送り出してくれた。


リーリアには、各国の多くの王族たちから縁談が申し込まれた。どんなに良い条件でも、リーリアが首を縦にふることはなかった。


婚約者となった、アルフォンスとエミリアの仲は上手く行っているように見えた。エミリアは無意識にアルフォンスに甘えていて、アルフォンスも甘えられるのが嬉しそうだった。そんな2人を見るのが、リーリアは辛かった。


必死に片思いを隠しているリーリアは、人の気持ちに敏感だった。シャイルがエミリアを唯の幼なじみと見ていないのも分かったし、アリアンヌ王女がエミリアの兄ディアンのことを好きなのも分かった。シャイルの全神経はエミリアに向いていたし、また王宮に出仕してくるディアンをひっそりと見つめているアリアンヌ王女を頻繁に見かけた。


アルフォンスもシャイルもリーリアの気持ちに気づくことはなかった。学年で成績トップの2人は、頭の回転が早く女らしさを見せないリーリアを歓迎した。授業の空き時間には、よく王族専用サロンでくつろぎながら未来の国政について議論した。


アルフォンスとシャイルは、自分たちのせいでエミリアに仲の良い友達がいないことを気に病んでるようだった。人の悪意に鈍いエミリアを心配し、ずっと周りを排除してきたようだ。リーリアを信用するようになった2人は、エミリアと仲良くし女の子にしか言えないような相談を聞いてくれるように頼んだ。


もちろん、リーリアは快諾した。アルフォンスの頼みなら何でもしたかった。エミリアがアルフォンスに釣り合わないような子だったら、リーリアは2人の仲を引き裂こうとしたかもしれない。だが、エミリアは、リーリアよりも美しい上に賢くなによりも綺麗な心を持ち合わせていた。


エドガー王立学園は、高等部から特待生を引き受けていた。貴族令息令嬢しか入学権限はないが、特に優秀な貴族でない生徒を各学年50人近く引き受けていた。特待生クラスとして設置され、塔も別でめったに2つの集団が関わることはなかった。だが、それはあくまでも表向きである。特待生達は、貴族のいじめの格好の的となった。リーリアは一緒になって虐めたりなどはしなかったが、止めようとも思わなかった。関心もなかった。


そんな中、エミリアは特待生を必死にかばっていた。力強い言葉で令嬢たちを叱責するのを、リーリアは偶然見かけたことがあった。強者が弱者に無理を強いるのは当たり前だと思っていたが、エミリアは『納税させるかわりに彼らの暮らしを保証する責務がある。』と説いていた。


リーリアは、もっとエミリアと仲良くなりたいと思った。エミリアと話す機会が学年が違ったため少なかったので、一緒に昼食をとることをまずは望んだ。


ある日の事だった。カフェテリアに行くと、いつも本を読んでいるエミリアの姿が見つからなかった。授業が遅くなったのだろうと思い、アルフォンスやシャイルと談笑していたが待っても来なかった。


そんなエミリアをシャイルは探しに行った。アルフォンスも行こうとしたが、リーリアが私を1人にするの?と聞くとしぶしぶ座った。それからしばらくして、エミリアがやってきて食事になったが、何をしてたかも答えずどこかぼんやりしていた。


昼食後が終わり教室に戻ると、どこか騒々しかった。自分の席に腰を掛けたリーリア達に気づかないくらい、話が盛り上がっていた。


『エミリア様に告白した奴がいるらしいぞ!』


『エミリア様に?』


『クソ誰だ!』


『今日エミリア様が初めてお時間を作ってくれたらしい。』


シャイルはがたっと椅子から立ち上がり、アルフォンスは教科書を思わず落としていた。その音に気づいた生徒たちが『殿下・・・。』と顔色を変えた。アルフォンスが何事もなかったかのようにニッコリと笑ってその生徒達を見つめると、その生徒たちはすくみあがっていた。


エミリアにはどこか壁があった。壁をなくしたくて、しぶるアルフォンスを説得し登校も一緒にした。エミリアの誕生日に兄のディアンが出張になったと聞くと、リーリアは盛大な誕生日会を開いてあげたいと思った。


アルフォンスとシャイルはしぶったが、『私がエミリアなら盛大に祝われたい!』と言うと、最終的にはリーリアに任せてくれた。一国の王女であるリーリアは、誕生日を盛大に祝われることが当たり前だった。


2人婚約の経緯を知ったのは、アリアンヌに一緒にお酒を飲もうと誘われた時だった。酔いのまわったアリアンヌは、誰とは言わずに自身の長い片思いの話を始めた。


「ずっとね好きな人がいるのよ・・・。どうしても結ばれないわ。告白も許されないわ。10年以上の恋をどう諦めたらいいのかわからないわ・・・。」


と切なそうに言う。


「好きになったきっかけは何ですか?」


「気づいたら好きになってたのよ。ふふ。私も、もう21歳だわ。いい加減結婚しなきゃいけないのに・・・。」


「・・・。」


「忘れてちょうだい。聞いてくれてありがとうリーリア。なんだか今夜は誰かに話したくて。」


「いいえ・・・。あのアリアンヌ様。」


「なぁに?」


「その方はディアン様ですか?」アリアンヌの顔が強張る。


「・・・。違うわ。」


「誰にも言いません。ディアン様ですね?」


「そうよ・・・。ディアンよ。でも、エミリアとアルフォンスが結婚するもの。私は諦める他ないわ。」


「アリアンヌ様・・・。」


「ねぇ。リーリア。今から言う話を胸に秘めておくことはできる?」


「・・・。はい。」


「アルフォンスとエミリアを出会わせたのは、私とディアンなの。2人はすぐに仲良くなり、母もエミリアを王妃にしたいと考えるようになったわ。」


「はい。」


「私はずっとディアンとの結婚を望んでいたわ。エミリアがアルフォンスのことを好きだとは思わなかったし、ディアンも王家との婚約をずっと断ってたわ。エミリアを苦労すると分かっている王家へ嫁がせたくないようだったみたい。だから、アルフォンスがエミリアのことを好きなのを応援しようとどうしても思えなかったわ。そして私はあなたとアルフォンスが結婚することを祈っていたの。」


「え・・・。」


「アルフォンスは、ずっとエミリア以外の女の子に興味がなかったわ。でも、あなたにだんだん心を許すようになっていくのがみて分かった。それで・・・。私が高等部を卒業して、しばらくたった日にね・・・。」


「はい。」


「夜にね、突然ディアンが宮殿にやってきたの。もしかしたら私に会いに来たのかと期待もしたわ。でも、ディアンは父にエミリアとアルフォンスの婚約を頼みに来たの。」


「・・・。」


「もちろん父と母はすぐに快諾したわ。ディアンが帰った後、私はディアンと結婚したいから婚約を取りやめるよう泣きながら父に頼んだわ。でも、父が首を縦にふることはなかった。」


「・・・。」


「後から知ったのだけれど、エミリアは25歳上のコリン王国の王弟に、公爵家への支援との代わりに嫁ごうとしたらしいの。エミリアの叔父が借金をしたらしくてね。どうしても行くというエミリアを止めるために、ディアンは資金援助との引き換えに婚約を受け入れたみたい。」


「そうだったんですね・・・。」


「こんな話してごめんなさいね・・・。忘れて・・・。」


そう言うアリアンヌの顔は美しかった。
















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