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エミリアという女の子~リーリア目線~

リーリアは、エミリアのことが大好きだった。でも、アルフォンスのことはもっと好きだった。


リーリアがアルフォンスと出会ったのは6歳の時だった。黄金色の髪に綺麗な青色の目、絵本から飛び出してきたような綺麗な男の子に一目惚れした。王宮には一週間滞在したが、一緒に遊んでもアルフォンスは心ここにあらずだった。


何日かたち、心をようやく開いてくれたアルフォンスが話してくれたのは、1つ下の女の子のことだった。その女の子に会ってみたくて、アルフォンスに頼み込んだのがエミリアとの出会いのきっかけだった。


アルフォンスは、あまりエミリアとリーリアを会わせたくないようだった。1つ下のエミリアは、リーリアよりずっと大きかった。白金の髪が風にたなびいていて、エメラルドグリーンの目を生き生きと輝かせながら頬を真っ赤に染めるエミリアは、リーリアが今まで出会ってきた中で一番かわいかった。


2歳の時に事故で生みの母を亡くした末っ子のリーリアを、父の国王陛下、義母、姉、兄は目に入れても痛くないくらい可愛がった。エミリアに会うまでは自分が世界で一番かわいいと思っていたが、リーリアがエミリアに勝てるところといえば肌の白さくらいだった。


可愛いくて心優しいエミリアを、リーリアはすぐに大好きになった。アルフォンスはリーリアには見せない笑顔をエミリアに見せていたが、リーリアは悲しいと思わなかった。その代わり、自分もエムとアルと呼びたいと思った。エミリアは快諾してくれたが、アルフォンスはどこか不満気だった。


リーリアの恋を応援するといったエミリアの笑顔を、リーリアは国に帰ってもずっと忘れなかった。


それから六年後エドガー王国にリーリアは行く機会を得た。アルフォンスは記憶の中よりずっと綺麗に成長していて、リーリアは緊張した。アルフォンスは学校と勉強で忙しく、リーリアをあまり構ってはくれなかった。エミリアに会いたいと言ったが結局はぐらかされてしまった。


帰国前日にリーリアはこっそりと初等部に様子を見に行った。もしかしたらエミリアを見れるかもと期待を胸に膨らましていると、人混みが割れ校門からアルフォンスと男子生徒1人女子生徒1人が出てきた。


すぐに女生徒はエミリアだと分かった。アルフォンスともう一人の男子生徒に騎士のように守られるエミリアは、想像以上に美しく成長していてリーリアは驚いた。その後、アルフォンスが自分に見向きもしないのは無理も無いと思いながら帰国した。


それから毎年エドガー王国をリーリアは訪問した。会うたびに背が伸びかっこよく成長していくアルフォンスを、リーリアはどんどん好きになった。けれど、どんなに可愛く着飾ってアピールしてみても、アルフォンスはリーリアに見向きもしなかった。


14歳で訪問した時、嵐のような天気が襲いリーリアの帰国が伸びたことがあった。翌朝には小雨になっていて、朝起きて朝食に向かうと、国王がいなかった。不思議そうにするリーリアに、王妃が昨夜嵐で高速列車が脱線し対応に追われていると教えてくれた。嵐の被害状況を把握しきれていないので、リーリアにはもうしばらく滞在してほしいとのことだった。


朝食後、アリアンヌ王女とアルフォンスと3人で紅茶を飲んでいると、王妃が真っ青な顔で部屋に入ってきた。『脱線した列車にウェズリー公爵夫妻が乗っていて亡くなった。』と聞くと、アルフォンスとアリアンヌはすぐさま立ち上がった。


「ディアン達は?」と泣きながら聞くアリアンヌに、王妃は『夫妻の遺体に会いに公爵領に向かったみたいだ。』と言った。それを聞くと、アルフォンスは走って部屋を出て行った。リーリアが追うと、小雨の中門番に止められていた。


「離せ!ウェズリー公爵領に行く!」と雨の中叫ぶアルフォンスをリーリアは呆然と見つめていた。次の日は綺麗な青空だった。リーリアの帰国が決まったが、アルフォンスは見送りにいなかった。王妃が申し訳無さそうに「ごめんなさいね。朝、公爵領に向かってしまったの。」と言うのをぼんやりと聞いた。


それから、リーリアは死ぬ気で勉強した。どんなに着飾ってもアルフォンスが自分を見ることは決してないと悟ったのだ。だが、アルフォンスへの思いを捨てきれず魅力的な人になろうと努力した。どんな形でもいいから側に居たかった。


そんな健気なリーリアを見たフォスタ国王は、エドガー王国にリーリアとの婚約を申し込んだが、幼い頃から決めている相手がいると結局断られてしまった。きっとエミリアだろうなとリーリアは思った。


リーリアは16歳の時、三ヶ月だけエドガー王立学園高等部に短期留学した。本当は3年間したかったのだが、父と兄が許してくれなかった。勉強熱心なリーリアにアルフォンスは初めて関心を示してくれた。アルフォンスとリーリアは互いの意見を熱心に述べ合った。女を見せないよう努力したリーリアは女嫌いのシャイルとも自然と仲良くなった。


王子たちと対等に意見を酌み交わし、成績優秀さを鼻にかけず素直でさっぱりとした性格のリーリアは女子生徒から好かれた。友達もたくさん出来てアルフォンスの側にいられるリーリアは幸せだった。


一方で、リーリアは王立図書館でよくエミリアをみかけた。そこで10年ぶりに会話をしたが、エミリアはリーリアを覚えていた。そのことがリーリアを何より喜ばせた。リーリアよりずっとほっそりとしたエミリアは、儚い雰囲気を出していてひときわ美しかった。エミリアはいつも忙しそうにしていて、王宮でのお茶会でしかゆっくり話すことが出来なかった。


アルフォンスとシャイルが、月に何回かエミリアを中等部に迎えに行く話は有名だった。一部の子たちはエミリアのことを、男を誑かすのが上手だとか揶揄していたが、それでもエミリアは女生徒からの憧憬の的だった。


エミリアは高等部でも常に噂された。エミリアがいついつ中等部で倒れたとなど頻繁に回ってきたが、リーリアが会うエミリアはそんな気配が一切なく不思議に思っていた。


そんなある日だった。リーリアは、王立図書館にアルフォンスと来ていた。休日だったので、2人で史書を探しに来たのだ。ちょうどエミリアも来ていた。何時も通り明るく元気そうだったが、アルフォンスは『体調悪い?』と心配していた。


人の少ない日の当たらない席に座り、熱心に本を呼んでいるエミリアをアルフォンスは険しい顔で見つめていた。リーリアが『本探さないの?』と聞くと、ようやく探し始めたのだった。


本が見つかった頃にはお昼になっていたので、リーリアはまだ本を読んでいたエミリアを一緒の昼食に熱心に誘った。最初は渋っていたエミリアだが、最終的に承諾した。王宮で3人で和やかに食べていると、王妃とアリアンヌがエミリアに会いに来た。2人がエミリアをとても気に入ってることがすぐに分かった。『もっと遊びに来なさい。』と優しく言う王妃の笑顔は、リーリアには見せたことがないものだった。


昼食を食べ終え、『午後は予定があるので失礼します』とエミリアが立ち上がった時だった。数歩歩いたエミリアが鼻血を出し倒れたのだ。すぐにアルフォンスが慣れた手つきで抱きかかえ、部屋を飛び出していくのをリーリアは呆然と見送った。エミリアが出された食事にほとんど手をつけていないのが、王妃とアリアンヌの会話で分かった。


いつだって、アルフォンスの一番はエミリアだった。リーリアはアルフォンスと街に外出したりしてみたり、観劇に行きたかったが、それは叶わぬ夢だった。仲良くなった友達と街に出ると、時たまアルフォンスとシャイルがエミリアを連れて歩いているのを見かけ胸が痛んだ。














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