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『行かないで・・・』~エミリア17歳~

一週間経ちすっかり元気になったエミリアは、その日いつになく早起きをして念入りに化粧をしていた。どこか思いつめた表情が、より一層美しく見せていた。


アルフォンスからは見舞いの花が届いていたが、会うのは一週間ぶりだった。あんな別れ方をしてしまって気まずかったが、エミリアはある決意をしていた。


一週間ぶりに公爵家に王宮の馬車が止まり、エミリアが乗り込むとリーリアももちろん乗っていた。


「エム。肺炎だって?大丈夫?本当に心配したのよ。」


と心配そうに眉間に皺を寄せ聞いてきた。


「はい。風邪をこじらせてしまったようで。ご心配おかけして申し訳ありませんでした。」


「エム・・・。」アルフォンスが何か言いかけたが言葉を紡げなかったようだっった。


その後、馬車の中ではリーリアがずっとエミリアが休んでいた期間にあったことを話して聞かせた。校門に着くと、リーリアが友人達に囲まれ、アルフォンスとエミリアは二人になった。


「殿下あの。今日放課後お時間ありますか?」


「えっと、今日かい?」


アルフォンスが今日の予定を思い浮かべる。確か夜にリーリアの兄のセシル王子との会食があった。セシル王子はリーリアの2つ上の20歳で、妹のリーリアを溺愛していることで有名だった。


「夜に会食があるんだ。ごめんね。どうかしたのかい?」


「二人きりで今日どうしてもお話したいことがあるのです。」


「明日じゃ駄目かい?」


「どうしても今日が良くて・・・。」


エミリアはオースティンが来た日から、今日必ずアルフォンスと話そうと決意していた。アルフォンスを困らせているのは分かっていたが、どうし譲れなかった。今日話さなければ、二度と話せない気がしていたのだ。


思いつめた表情のエミリアを見たアルフォンスは、


「それならば昼休み王族専用サロンで話そうか。リーリアとシャイルには僕から言っておくよ。昼休みに迎えに来るね?」


そう言いエミリアを教室に送り届け自分の教室に向かって行った。


エミリアは、午前中の授業が全く身に入らなかった。アルフォンスに自分の思いを伝えた後、何を言われるのか、どう思われるのか、やはりリーリアを選ぶのか等考えての震えが全く止まらなかった。


昼休みになるとアルフォンスが1人で教室にやってきた。サロンに行くまで二人は無言だった。サロンに着きソファーに腰掛けると、アルフォンスが重い口を開いた。


「エム。話って何だい?もしかして、この前の誕生日会の時に口にしたことかい?先に行っておくけど、僕は君と婚約破棄は絶対しないよ。」


「殿下・・・。私は殿下と婚約破棄したいと思ったことは一度もありません。ですが・・・。」


「うん?」優しくアルフォンスが問う。


「殿下はリーリア様のことがお好きなのですか?」


「リーリア?好きってどういうこと?」不思議そうにアルフォンスが聞く。


「殿下はリーリア様のことを想っているのでは?」


「うん・・・?リーリアのことは好きだよ?でもそれは『アルフォンス!リーリア王女が階段からお落ちになられた!』」


その時シャイルが部屋に駆け込んできたのである。アルフォンスとエミリアは顔色を変え慌てて立ち上がる。


「意識は?状況は?」


「意識はない。」とシャイルが言う。


アルフォンスは部屋を出ていこうとしたが、エミリアに気づいた。


「エム。ごめん、行かなきゃ。僕は状況を確認しなければならない。」と申し訳なさそうに言う。


「あ・・・。殿下・・・。」エミリアは呆然と言う。


「エム本当にごめん・・・。」


「あ・・・。行かないで・・・。」エミリアは震える手でアルフォンスの服を掴む。


「エム・・・。それならば、ここで待っててくれるかい?リーリアの状況を確認したら戻ってくるよ。話ならそれからしよう?」


「はい・・・。待ってます。」


エミリアがそう言うと、シャイルとアルフォンスは部屋から出て行った。


エミリアはアルフォンスの立場をよく理解しているつもりではあった。リーリアは留学中とはいえ大切な国賓である。一国の王女に何かあれば外交問題になる。だからこそ、アルフォンスが取らなければならない行動も分かっていた。


それでも、今日だけは行かないで欲しかった。


結局、アルフォンスは戻ってこなかった。放課後になるとシャイルが来て、アルフォンスがリーリアと先に帰ったことを告げた。


エミリアの中で勇気がどんどんしぼんでいくのが分かった。


―アル・・・。―


エミリアには、聞けなかったアルフォンスの言葉の続きが、『リーリアのことは好きだよ?でも、君との婚約は破棄できないから諦めるしかない。』なのか。『リーリアのことは好きだよ?でもそれは友情だよ。』なのか、何を言いたかったのか分からなかった。


だが、戻ってこなかったのが全て物語っている気がした。


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