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衝撃~エミリア17歳~

夏の暑さは続いていたが、秋が近くまで訪れている気配がしていた。エミリアはその日17歳の誕生日だった。兄のディアンはどうしても外せない出張があると言い、アルフォンスに一緒に過ごしてくれるよう頼んでいた。


それを聞きつけたのがリーリアだった。『それならば王宮でみんなで祝いましょう』と言い、エミリアの知らない人も大勢招待していた。エミリアは断ることなど出来なかった。


エミリアは早く家に帰りたかったが、盛大にするために必死に準備してくれたリーリアを思えば言い出せなかった。


すでに18歳を迎えているアルフォンスとリーリアはワインを飲みながら、級友たちに囲まれ楽しそうに話していた。


―私の誕生日なのにな・・・。アルフォンス様はおめでとうもまだ言ってくれてないわ・・・。―


エミリアもまた、大勢の女性徒たちに質問攻めにあっていて、笑顔で返答するのに忙しかった。


エミリアが1人でお手洗いに行った時だった。リーリアを慕っている三年生の女生徒三人組に『ちょっとよろしいかしら?』と呼び止められたのだ。


空き部屋に連れて行かれると、次々に3人が口撃を始めた。


「あなたいい加減になさったら?」


「え・・・?」


「アルフォンス様とリーリア様は両思いですわ。身を引くべきではなくて?」


「アルフォンス様に婚約破棄を頼まれたのならば、身を引きます。ですが、あなた達に何故そのようなことを言われるのかわかりません。」


「ふん。あなた何にも知らないのね。アリアンヌ王女のこと。」


「何をですか?」


「アリアンヌ王女が、何故未だにご結婚なさらないのか知っていて?あなたのお兄様のディアン様がずっと好きだったからよ。ずーっとね。」


そう言われエミリアは、はっとする。別荘でのこと、婚約後『エミリアが妹になってくれるなんて嬉しいわ』と寂しそうに笑うアリアンヌ王女、盛んに兄の結婚のことを聞いてくるアリアンヌ王女を思い出し、初めて全て繋がったのだった。


「私達知っているのよ。何故あなたが殿下と婚約したのか。25歳も年上の男から支援との引き換えに結婚を求められたのでしょ?それで、ディアン様が幼なじみの殿下に頼んだのでしょ?」


「・・・。何故それを・・・。」


エミリアとアルフォンスの婚約の詳細は、ウェズリー公爵家と王家しか知らなかった。シャイルさえ知らないはずなのだ。


「全部殿下からリーリア様が聞いたのよ。殿下はあなたと婚約破棄したいけれど、大切な幼なじみだから自分からは言えない。って言ってるらしいわよ。」


「分かったなら、あなたから身を引き殿下の幸せを祈るべきだわ。」


そう言い残すと、3人は部屋を出て行ったのだった。


エミリアはあまりの衝撃に、涙も出ず呆然としていた。


―私がいなければアリアンヌ様とお兄様は結ばれていたのだわ。私がいなければ、アルフォンス様とリーリア様は学校で出会い恋に落ちて今頃婚約していたわ。私なんかよりも、リーリア様は身分・外見・教養どれをとってもすべて釣り合っているもの。どうしたらいいのだろう・・・。それでもアルフォンス様と一緒にいたい私はおかしいのかしら・・・。―


どれくらいの時間が経ったか分からない。


―そろそろ戻らなきゃ。私の誕生日だもの。家に帰ったら考えよう。―


そうエミリアが決意し部屋を出ると、シャイルが走ってくるのが見えた。


「おい!お前どこにいたんだ?中々帰ってこないから心配したじゃねーか。」


「ちょっと貧血起こしてしまって・・・。この部屋で休んでいたの・・・。」


「大丈夫か?そういえば顔色良くないな・・・。」


「休んだら良くなったわ。戻りましょう!」


「エミリア寒いのか?手震えてるぞ?」


「そうね・・・。寒いわ・・・。でも部屋に戻ったらショールがあるから大丈夫よ。」


「そうか、早く行くぞ。」そう言いシャイルはスタスタ歩き出す。


「ねぇシャイル。」


「なんだよ。」後ろを振り返らずにシャイルが言う。


「シャイルだけは、小さい頃からいつも私を見つけ出してくれるね。ありがとう。」


「何言ってんだお前。」


口は悪いがシャイルの優しい気遣いが、エミリアの冷えた心を温めてくれた。


会場に戻ると、何故かリーリアとアルフォンスが抱き合っているのが見えた。ちょうどエミリアとアルフォンスの目が合う。エミリアは部屋を出て走りだした。


―もういい。もういい。もういい!―


「エム!」


後ろからはアルフォンスの声が聞こえる。


―絶対止まらない。もういや。―


馬車に乗ろうとしていたエミリアの腕をアルフォンスが掴む。


「離して!」


「エム誤解だよ。リーリアが酔ってふらついて倒れそうなところを支えていたんだ。」


「関係ない!」


「エム!」


「もう殿下が何をしてもいいわ。婚約取り消しましょう?」


「急にどうしたんだ?簡単に取り消せるものじゃない。」


「好きな人と添い遂げたいでしょう?」


「エムまさか・・・。好きな人がいるのかい?最近すぐにいなくなるのも、さっきも部屋にいなかったのも男と会っていたからじゃないだろうな?」


「・・・・。殿下は残酷なことを言うのですね。」


「エム。君に例え好きな人が居ても、僕は君と婚約破棄はしない。」 


その時、少し離れた所にリーリアが先ほどの女生徒達に囲まれながら心配そうに見ているのが見えた。


「殿下。リーリア様は元気そうですよ?」


「え?」振り返ったアルフォンスは驚く。「さっきまでふらふらだったのに・・・。」


「殿下。私が今日一番欲しかったものなにか知ってますか?」


「・・・・。」


「殿下からのおめでとうただ一言です。」


「・・・。エムごめん。エム・・・。」


「もういいんです。今日はありがとうございました。」


そう言いアルフォンスの腕を振りほどき、馬車に乗り込む。


公爵家に帰宅してから土砂降りの雨が降りだした。夜中になり使用人たちも寝静まり、誰もいない家にいたくなくてエミリアは大雨の中、庭にあるクロのお墓に向かった。


「クロ・・・。クロ・・・。お願い戻ってきて。クロがいなくなって、私どう生きればいいのか分からないの!クロ!」


泣き叫ぶエミリアの声は大雨にかき消されていた。


翌朝はすっかり晴れていた。早朝に帰宅したディアンは、部屋にエミリアの姿がないことに驚き探しまわると、クロのお墓の上で倒れているエミリアを見つけた。慌てて医者に見せると、命に別条はないが風邪をこじらせ肺炎になっているとのことだった。


それから3日間エミリアは意識が戻らなかった。


三日後、ようやく意識を取り戻したエミリアに、ディアンはどうしてあんな所にいたのかと優しく問いただした。だが、その質問には答えず、


「お兄様ごめんなさい・・・。私、殿下と婚約破棄したいの・・・。」


そう言い、エミリアはまた眠り続けたのだった。



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