穏やかな時間~エミリア15歳~
ブルトン侯爵領の別荘では、穏やかな時間が流れていた。アリアンヌもクロエもキャサリンもエミリアを本当の妹のようにかわいがった。女友達のいないエミリアは、姉のような友達を心底喜んだ。そんなエミリアをアルフォンスとシャイルは嬉しそうに見守っていた。
初めは、ディアンが働いている間遊んでいる自分に嫌気が差しエミリアは元気がなかったが、アリアンヌたちの優しさに触れ心からの笑顔を見せていた。アリアンヌ達は、ショッピングに連れだしエミリアを着せ替え人形にして遊んだかと思えば、苺狩りやさくらんぼ狩りなどに連れて行き食欲のないエミリアに食べさせたしていた。
一方シャイルとアルフォンスは、文句を言いながらもショッピングの荷物持ちをしたり、エミリアを馬に乗せ遠出したり、庶民の格好に変装しお忍びで観光に連れ出していた。
5日目を迎えた晩、アリアンヌがお酒を飲みましょうと言い出した。三人のお姉さま方は18歳を超えていた。まだ、アルフォンス、シャイル、エミリアは飲むことは出来ないが、オレンジジュースを飲みながら付き合っていた。
すっかりお酒を飲みできあがった3人は、自然と好きな人の話になった。アリアンヌにはまだ婚約者はいなかったが、クロエとキャサリンには婚約者がいた。
クロエは幼き頃から交流のある、3つ年上の子爵家嫡男と、キャサリンは8つ年上の侯爵家嫡男の婚約者がいるらしかった。『8つ年上!』と驚くエミリアに対して、『年齢差なんて関係ないわ。夜会で出会ったのよ!』と嬉しそうに微笑んだ。
「いいわよね。二人には素敵な婚約者がいて。羨ましいわ。」
とアリアンヌが言うと、
「アリアンヌ様は好きな方がいらっしゃるではありませんか。」
とキャサリンが言う。
「そうなのですか?どなたですか?」と問うエミリアに、
「内緒よ。」と言う。
「アリアンヌ王女が好きになられる方なのですから、きっと素晴らしい方なのでしょうね!」
「とっても素敵な人よ。ところで・・・・。ディアンはどうなのかしら?」
「お兄様は・・・。多忙で・・・。実は私も心配しているんです。兄はもてるはずなのに浮いた話もないし・・・。」
「そ・・・そうなのね!」
「はい・・・。私が結婚するまで結婚しないと言っているのです。」
「そうなの?エミリア様はいい人いないの?モテるでしょう?」というクロエに、
「全くもてません・・・。たまに手紙をもらうことはありますが、話したこともない方なので。」
「誰?誰から手紙貰ったの?」というアルフォンスに、
「誰だったか忘れたわ。」というエミリア。
「きっと渡す相手間違えたんだろう。」というシャイル。
「そうね・・。きっとまちがえたのね・・・。」しょんぼりとするエミリアに、
「エミリア様はかわいいわ!自信持って!どんな殿方がタイプなの?」とキャサリンが聞く。
「そうですね・・・。特にありません。実は、私ずっと公爵家にいたいのです。兄と兄の奥さんを手伝い、兄の子供が成長したら修道女になろうかと思ってるんです。」
「ディアンが許すわけ無いわよ!」「エム!修道女なんて!」「お前何考えてるんだ!」と、アリアンヌ・アルフォンス・シャイルの声が飛んで来る。
「エミリア様、修道女はだめよ。エミリア様にはいつかいい人現れるわ!それか既に出会っているかもしれないわよ?」とクロエが言う。
「既に出会っている・・・?あ!小さいころオースティンが誰もいなかったら結婚してくれると言ってくれました。」と笑いながら言うエミリアに、
「まぁ、オースティン様が!素敵だわ!」とキャサリンが言う。
「二人共お似合いだわ!」とクロエがうっとりと言う。
「残念だったな。兄様には想い人がいるんだぜ!」と意地悪に言うシャイルに、
「そうなのね!嬉しいわ!やっぱりそれが普通よね・・・。ディアンお兄様が心配だわ・・・。」とエミリアが呟く。
「きっとエミリアがいい人見つけたら、ディアンも結婚するわよ!だからエミリア早く見つけてちょうだい!」と何故か頼むアリアンヌに、
「そうですね・・・。それならば、公爵家のためになるお方と縁があれば良いのですが・・・。でも出来れば本当に結婚したくないです!」とエミリアは言う。
「どうしてそんなに結婚したくないの?女性に生まれれば誰もが幸せな花嫁を夢見るわ!」と不思議そうに言うアリアンヌ。
「そうですね・・・。お兄様の幸せな姿を見届けることが私の夢なのです。お兄様は常に自分の幸せは後回しです。いつか・・・。お兄様の幸せを見届けて、私がお兄様のために役立てることが無くなったとき・・・。私は両親たちの元へ行きたいのです。」
「エミリアそれは間違っているわ!そんな考えだとディアンは悲しむわ!」
「そうですね・・・。変な空気になってしまいましたね!ごめんなさい。私はそろそろ寝ます!みなさんはまだ楽しんでください!お休みなさい。」
そういい部屋を出て行くエミリアを、残った四人は悲しそうに見ていた。
「エミリアは13歳の時に両親を亡くし、14歳の時に兄を亡くしているわ。想像を絶する悲しみを心に秘めているのね。」とアリアンヌが言うと、
「そうですね・・・。どんなにしっかりされていても、まだたったの15歳ですもの。ご両親に甘えたい年頃ですよね。」というクロエ。
「普段お見かけするときも、今回も、明るく元気なので気づきませんでした。」とキャサリンが悲しそうに言う。
そんな言葉を背に、アルフォンスとシャイルは部屋を出て行った。




