不思議な人~エミリア15歳~
デュークが亡くなってから半年がたった。あれからデュークをディアンとエミリアは火葬し、領地にある両親のお墓に埋めた。
計り知れない苦しみが二人を襲ったが、それでも二人には悲しんでいる時間がなかった。エミリアは中等部三年生になり、ディアンは高等部三年生になっていた。デュークが亡くなってから、より一層経営が悪化し負債が増えていく一方だったのである。
毎晩夜遅くまで働いているディアンが心配で、なにか手伝えないかと、エミリアは経営の資料のコピーをこっそりと取り今日は王立図書館で考えていた。
経営の本を探している時、40代の美中年とたまたまぶつかってしまった。慌ててエミリアは謝罪したが、白銀の髪の毛はどこか記憶にあり、不躾にも見つめてしまったのである。
「おや?君は・・・?」
「もしかして・・・・?」
「あの時のお嬢さんかい?」
「やはり、約8年前助けていただいた方ですね!ずっとお礼がしたかったのです!ここでお会いできるとは!」
「大きくなったんだね!見違えたよ。今日はどうしたんだい?」
「経営の勉強です。兄の役に立ちたくて。」
「そうか偉いね。私はこう見えて経営得意なんだ。これもなんかの縁だ。相談してみてごらん。」
赤の他人に公爵家の経済事情を話すことは、普段のエミリアなら考えられないが、命の恩人というフィルターもあり素直に資料を見せたのだった。
命の恩人リバーは、隣国コリン王国出身らしい。出生は教えてもらえなかったが、雰囲気からして上位貴族であることがエミリアには分かった。。
「いいかい?例えばこの運送費。この作物の賞味期限は長いのだから、わざわざ高い高速列車じゃなく、安い貨物列車で輸送すべきだ。次に、この資源だが・・・・」
―リバー様の提案は素晴らしいわ。早速お兄様に帰って話さなきゃ!だいぶ経費が削れたわ!当たり前のことってどうして気づかないんだろう。―
お礼を言おうと顔をあげると、リバーは既にいなかった。
―不思議な人だわ。二度も助けられるなんて・・・。―
王立図書館から出ようとした時、
「エム!」
と呼ばれた。振り返ると案の定アルフォンスがいた。王立図書館は、一般にも開放されていて王宮の中にあるのだ。王宮に住んでいるアルフォンスもしょっちゅう王立図書館に入り浸っていた。
「エム来てたんだね!もう帰るの?」
「うん!急いでいるの!すごくいい考えが見つかったのよ!」
「せっかくだから少し話そうよ。」
「殿下と会えたのはすごく嬉しいわ。高等部と中等部に別れてから中々会えないもの。でも本当にごめんなさい。今日は帰らなきゃ。」
「そっか。エムまた今度ね!」
「うん!それではまた!」
嬉しそうに去っていくエミリアの後ろ姿を、アルフォンスは姿が見えなくなってもなお見つめていた。
その夜エミリアがディアンに案を出すと、こっそり資料を見たことは怒られたが、今後は経営に口をだすことを許可してくれたのである。
そしてエミリアは遂に15歳の誕生日を迎えた。ディアンの努力のおかげで、領地経営も少しずつだが回復してきていた。
忙しいディアンは、誕生日プレゼントを用意できないことに申し訳無さそうだったが、それでも祝ってくれる兄がいることがエミリアは幸せだった。
15歳になり、ますます美しくなっていくエミリアに縁談の数は後を絶たず、誕生日には山のようにプレゼントが届けられるようになった。
ディアンは縁談のすべてをエミリアに伝えず断っていたが、一つだけ断れない縁談があった。それはコリン王国の王弟からのものだった。手紙にはエミリアとの婚約を条件に、資金援助すると書かれていた。
そんなこととは知らないエミリアは、アルフォンスとシャイルからもらったバレッタを、その夜嬉しそうにいつまでも眺めていた。




