悪化~エミリア14歳~
公爵夫妻の不慮の事故から一年たち、エミリアは明るさを取り戻していた。亡くなった両親に恥じないように、より一層勉強に励み常に学年で一番を維持していた。もっと賢くなって兄たちの経営を手伝いたいと考えていた。
そんなエミリアに対して、叔父や兄たちはただ明るく元気に過ごしてくれることだけを願っていた。いつもエミリアに言う口癖は『無理しないように』だった。
料理長と相談し叔父と兄の健康のために三食の献立を考え、時間さえあれば学校や王立の図書館に行き経営の勉強をしていた。そんなエミリアを、アルフォンスとシャイルは息抜きにどこかに連れだそうとしていたがことごとく断られていた。
中等部3年になった二人は、成長の止まったエミリアよりも頭一個分身長が高かった。常に見下されるようになったエミリアは悔しがったが、アルフォンスは嬉しそうであった。
もうすぐ冬を迎えようとした時に、長男のデュークが倒れてしまった。もともと病弱なのに加えて多くの心労が重なったのだろう。
どんどん痩せていく兄のためにエミリアは自ら料理をし、時間が許す限り看病を続けていた。しかし溶体は悪くなる一方で、医者にはとうとう今夜が峠だろうと言われてしまったのだ。ベッドのそばに座り、ディアンとエミリアが祈るように兄を見つめていた時、デュークの意識が突然回復したのである。
ここ数日意識がなかったので、エミリアとディアンは喜んだ。
「デュークお兄さま分かる?今お医者様を呼んでくるわ!」
「エミリア待って。ここにいてくれ。」
「うん?」
「ごめんね。僕はもう長くないみたいだ。ずっと父上と母上が夢の中で呼んでいるんだ。ディアンとエミリアを残して逝くことは出来ないと、先程も何とか振りほどいてきたよ。僕が死んだら君たちはどうなるんだろう?ディアンはまだ高等部ニ年生で遊びたいこと挑戦したいことたくさんあるだろうに。エミリアだってまだ14歳だ。これからますます美しくなっていくだろう。」
そう言うとデュークは泣き出した。
「兄様大丈夫よ。お母様とお父様がお兄様を連れて行くわけないわ。絶対連れて行かないわ。」
「そうだよ兄さん。今はゆっくり休んで。俺なら大丈夫。兄さんが良くなる頃には、黒字にしてみせるよ。」
「今眠ってしまったらもう二度と起きれないと思うんだ。ディアン。本当にごめんね。君にはどんだけ重いものを背負わせてしまうんだろうか。エミリアいいかい?ディアンを助けてあげるんだよ?僕がいなくなったら、ディアンを君が支えてあげるんだ。」
「兄さん、まるで死ぬような言い方しないでくれ。」
「お兄さま私は大丈夫よ。これからはもっと頑張って兄様たちを支えてみせるわ。」
「二人共今日は一緒に寝よう。小さい頃はエミリアを真ん中にしてよく3人で一緒に眠ったよね。今日は僕を真ん中にしてくれ。さぁおいで。」
「お兄様なんか懐かしいわ。」
「兄さん俺は恥ずかしいよ。」
「はは。今日が最後だよ。僕のお墓は領地にある両親のところに。絶対だぞ。ディアン頼んだぞ。」
その言葉を最後にデュークは眠るように亡くなった。顔には穏やかな笑みさえ浮かんでいた。その夜エミリアとディアンは冷たくなったデュークを抱きしめ泣きながら眠った。3人の最後の夜だった。




