悲劇~エミリア12歳~
エミリアが中等部に入学して三ヶ月経った。春に終わりを告げ初夏の気配を感じ始めた頃だった。その日は嵐のような天気で、普段なら決して外出しないのだが、どうしても明日の早朝に領地で外せない貿易の会談があると最終列車で父と母が領地に出かけていった。
今日はクロもさすがに玄関で待機していた。
何故が胸騒ぎが止まらずエミリアはベッドにも入らず窓の外を見つめていた。うとうとしかけてきた頃、クロの吠え声とともに
「大変です!」
という大声が聞こえて、本能的にエミリアは玄関にかけ出した。まだ勉強していたディアンも起きていたようで、二人で階段を駆け下りる。
「坊ちゃま。旦那様と奥様が乗られた列車が脱線して・・・。二人共亡くなられたご様子です・・・。」
エミリアとディアンは呆然としていた。言葉が理解できなかったのである。
「嘘だ!」
そう言いディアンが嵐の中家を出て行く。その後ろをエミリアも追う。二人共使用人に全力で止められ、今はリビングで毛布に包まれていた。長年勤めている執事のセバスがその後対応してくれていたようだった。
一睡もできなかった二人は、翌朝小雨の中馬車で領地に向かった。列車だと3時間だが、馬車だと半日以上かかるのだ。公爵夫妻の遺体は領地の屋敷にあるとのことだった。信じることが出来ず、二人は震える互いの手を握りしめながら久しぶりの領地の屋敷に足を踏み入れる。迎えに出てきた兄のデュークの顔がすべてを物語っていた。
父と母の遺体は綺麗だった。二人共ただ眠っているだけのようだったので、咄嗟にエミリアは
「お父様お母様。起きてよ。」
と呼びかける。
「ねぇ起きてよ。」
と揺すってみる。なんの反応もなく、手も冷たい。
「お父様お母様ーーーーー」
エミリアの絶叫が屋敷に響き渡った。その日は一日中三兄弟で寄り添い泣いた。三人とも涙が尽きることはなかった。
次の日は一昨日の天気が嘘みたいにきれいな青空が広がっていた。急遽集まった親族でひっそりと葬儀をし、今ちょうど火葬しているところだった。後方では、父の弟である叔父が兄たちとこれからのことを話し合ってるのが目に入ったが、エミリアはぼーっと登っていく煙を見つめていた。
「エム・・・。」
誰かが隣に座ったのが分かった。エムと呼ぶ人なんてこの世に1人しかいない。
「殿下・・・。お越しいただき、ありがとうございます。」
「エム・・・。」
それから、アルフォンスは何も言わずにずっと隣に座っていてくれた。何も言わないでいてくれるのが、エミリアにとって有り難かった。




