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幸せな日々~エミリア12歳~

今改めて振り返ると、エミリアにとって幸せなのはこの頃までだった。


本来エミリアはとても寂しがりやであった。夜は1人で眠れず、頻繁に両親や兄たちの部屋を訪ね一緒に眠ってもらうことも少なくなかった。中等部に上がるまでよ。と母にはしつこく言われていた。


また寂しがりやなのに、エミリアには学年に友達がいなかった。休み時間などは本を読んで周りなど一切気にしてないふりをしているが、友達とおしゃべりに興じる同級生たちを羨ましく思っていた。


エミリアの学年では、身分が一番高い唯一の公爵家のご令嬢であり、その上美しく頭も良いエミリアは、誰もが気軽に話がけにくい雰囲気を保っていた。


それに加えて、王子とシャイルの幼なじみである。また、エミリアに何かあれば兄のディアンが何をしてくるか分からなかった。そんなことに気づかないエミリアは、クラスのかわいい子たちは男の子に囲まれているのに対して、自分は誰も寄ってこないことに私の容姿は平凡なのねと思っていた。


アルフォンスとシャイルは中等部1年になったので校舎が別になった。そして、兄のディアンとオースティンは中等部3年で、またディアンは初等部の頃のように生徒会長を勤めていた。長男のデュークは体が弱く、高等部を卒業した後は領地で療養も兼ねながら仕事をしていた。


今日はエミリアの誕生日であった。そろそろ、デュークが王都の屋敷に着く頃だ。授業が終わりクラスメートに挨拶をしながら、早足でエミリアは歩いていた。


校門の長い階段を降りていると、門の所に人だかりが出来ていた。でも、デュークのことで頭がいっぱいなエミリアは特に気にもせず通りすぎようとした時、


「エム!」


と呼ばれ振り返ると、アルフォンスとシャイルが立っていた。


「アルフォンス様シャイル様。いかがいたしましたか?」


内心、―なんでいるの?―と思いつつ取り繕って質問すると、


「エム今日誕生日でしょ?だから一緒に帰ろうと思って。」


とアルフォンスが言うので、王族専用馬車にシャイルと一緒に乗り込む。


「びっくりしたわ!でも、二人共覚えていてくれたのね!嬉しい!」


と、ニッコリ笑いながら言うエミリアに対して、


「エミリアが何回も繰り返すから、たまたま覚えてただけだ。」


と、シャイルが偉そうに言う。


「エムの誕生日はさすがに忘れないよ。デューク帰ってくるの?」


「うん!そろそろ着いてる頃な気がする!一ヶ月ぶりに会えるのよ嬉しいわ!」


「俺達だって3週間ぶりだぞ。」


シャイルとアルフォンスが中等部に上がってから、五人で遊ぶこともなくなっていた。男女の友情が許されるのは初等部までであるのだ。高等部卒業までに貴族は婚約者を見つけなければならない。それから女性は、高等部卒業後、一年間婚約者の家に通いながら花嫁修行をし、20歳で結婚が普通だった。最近は晩婚化だがやはり貴族内では25歳を越すと行き遅れと呼ばれていた。


それでも、アルフォンスとシャイルは1ヶ月に1回は必ず初等部に迎えに来てくれていた。


「二人とも本当にありがとう!明日休みだし、今日はうちで晩ごはん食べて行ったらどうかしら?」


「そうするよ。」


「ディアンが多分兄貴連れてくるだろう。」


「オースティン来るの?嬉しい!久しぶりだもの!」


「ねぇ。気になってたんだけどさ、兄貴と俺らの態度違わない?」


シャイルが不満そうに言う。


「それはそうよ。オースティンのこと大好きだもの。」


「「え!」」


「でも同じくらい二人のことも大好きよ!私大人になりたくないわ!結婚したら二人にもオースティンにも会えなくなるもの。」


そうにっこり笑いながら言うエミリアを、シャイルとアルフォンスは静かに見つめていた。


その夜は家族みんなと、アルフォンス、オースティン、シャイルに祝ってもらいとにかくエミリアは幸せいっぱいだった。


両親からは欲しがっていた真っ白なワンピースをプレゼントされ、デュークからは詩集を、ディアンからはポーチを、そしてシャイルとアルフォンスからはブレスレッドをプレゼントされた。それらのプレゼントを抱きしめながら、秋の気配を感じる虫の音を聞きながらエミリアは眠りについたのである。


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