SS25 「花のパレード」
針葉樹の森を通る、真っ直ぐな道。
黒い雲。
……急がなければ。
平和を願うパレードが始まってしまう。
俺はネクタイを緩め、ハンカチで汗をぬぐった。
上着を脱ぎ、脇に抱える。
地面に下ろしたカバンを持ち上げる。
両足に進めとお願いをする。
後ろでクラクションが聞こえた。
振り返るとピンク色のオープンカーが近づいてきた。
鋼鉄でできた巨大な棺に車輪がついたような四角い車体と広い座席。
後部座席には色とりどりの花が山のように積まれていた。
車が止まり、運転席に座ったサングラスの男が道を尋ねてきた。
ラブアンドピースのロゴが入った派手な帽子を被っている。
助手席には幼い少女。
白く輝くドレスをまとい、編み込まれた栗色の髪に宝石の飾りをつけていた。
零れ落ちそうなほど大きな目で、面白くなさそうに森を眺めている。
ええ、広場はこの道の先にあるはずです。
俺も花のパレードに行くんです。一緒に乗せて行ってくれませんか?
運転手は大きく手を振った。
バカ言っちゃいけない。
花を運んでいるだ。人を乗せる余裕なんかない。
第一、花の女王が乗っているんだぞ、と。
助手席の少女が俺を眺めた。
ガラス玉のような黒い瞳。
天使みたいに美しい少女。
天空の高みから、俺を見下ろしている。
運転手は文句を言いながら車を発車させた。
少女は前方に目を向けた。
俺は車が走り去るのを見つめた。
道の向こうでは黒い雲が高くそびえ立っている。
……急がなければ。
俺は歩き出した。
車から落ちたピンク色の花が一つ、空を舞う。
手を伸ばしたが、届かなかった。