僕達はアホウドリ
「看守長攻略作戦を始める!みんな、配置につけ!!」
金髪の奴隷の声と共に、全員が動き出す。ミナスとミーは一人の奴隷の両脇に抱えられて、看守長から最も遠い機械の裏に隠された。
「絶対こっから動いちゃダメっすからねー」
そう言って一人の奴隷は離れていった。
看守長は奴隷達に圧されており、微かであるがダメージが蓄積している。
「ちょこまかとウザいですねぇー!蚊のように!」
奴隷達の闘いは至極単純、ヒットアンドアウェイの繰り返しで、機械の裏に隠れながら隙を見て、隠し持っていた尖らせた石を投げる。大人が全力で投げた石は一発一発が、普通の子供の頭に当たったら重症レベルのものであり、それが縦横無尽に襲いかかる。
「本当に汚いです!生ゴミのように!」
看守長は主人の工場の機械を切れないので、大きな刀で攻めに転じることができないが、全ての急所に来る石は全て叩き落としている。
このままでは決着が長引き、奴隷達の弾切れか、看守長が慣れてしまい、少しの判断ミスで殺されていく状況になる。
「おいらの!石を食らえ!!」
一人の奴隷の手には、投げてきた中で最大の大きさ、三十センチの尖った石を持っていた。
そのまま看守長に向かって走りだし、石を両手で持ち、胸の高さまで持っていく。
周りは援護するように石の量を増やした。
しかし、看守長は容易く向かってきた奴隷に刀を突き刺し、そのまま刀を高く上げると石が飛んでこなくなった。
「仲間思いですねぇ。ま、心臓に突き刺しましたけどねー。近ければボクの勝ちですー。止めて上げられなかったんですか、全員アホですねー。アホウドリのように」
「残念だな、突き刺したのは俺の右腕だ。まぁ、分かるぜぇ、こんなオイルだらけの所にいると、くっせぇ臭い嗅ぎすぎてクラクラするよな。……右腕はくれてやるよ」
自ら右腕を切り捨て、左手で石を掴み、看守長の顔面に突き立てた。
「んなっ!」
看守長は刀で巨大な石の先端を切り、頭突きで砕いたあと、空いていた大きな手で奴隷を掴み叩き落とした。
「もう慣れましたぁ。慣れれば狭いところでも切れますねー。次は体を真っ二つにしてあげますよー」
「そんなことさせねぇっす!」
「仲間思いですねぇ……!」
後ろから走ってきた奴隷に向かって、看守長は右足を軸に振り向き様に切りつけたが、そこに奴隷の姿はいなかった。いや、オイルに滑って転んだだけだ。
しかし、そのまま看守長は足下のオイルでバランスを崩してしまう。
ここの工場はオイルを主に使用し、雑な扱いのため地面には所せましとオイルが満ちている。
「あなたたち五月蝿いと攻撃できないんですか。エレクトリックビリビリー」
どこからか現れた一人の奴隷が配電盤から伸ばしてきた電線を、看守長に繋げた。
「なにコレえぇ、いイタイじゃないぃですか……!!」
電流を流されても看守長は動くのを止めなかった。
「……バカな!なんでその電流に耐えられるんだ!!君たち三人、逃げろ!!」
金髪の奴隷が大声で叫んだ。
「あアホですねぇ……!!アホウドリのように……!」
奴隷三人はその場から動けなかった。いや、動かなかった。何故ならこれからどう動こうが、死ぬことは変わらないと、なんとなく分かってしまったから。
「アアアアアアアアァァァァァアッッ!!!!」
突然看守長が悲鳴を上げ、広大な工場が光に飲み込まれた。
バチンというブレーカーが切れる音がなり、暗闇となるがすぐさま控えの電気に変わり、工場を照らし出した。
「はぁはぁ、電圧……たりた……?」
ミナスが配電盤を弄り、電圧を最大限に上げたのだ。
「……良かった、僕達の勝ちのようだね」
金髪の男は、全ての奴隷に指示を出しながら、三人の出るタイミングを戦闘中に全て考えていた。
「腕、大丈夫っすか?」
「死ぬほどいてぇけど、死ぬほど嬉しい」
「それならもう少しで死にますね」
金髪の奴隷は会話をしてる三人に向かって頭を下げた。
「本当に助かったよ。三人ともありがとう」
三人は呆然としたあと照れながら、いえいえ、と言った。
「それに、お嬢さんもありがとう」
「前に配電盤がおかしくなってた時があったから、もしかしたらと思って」
「気づいたのかい?僕的には完璧に戻したはずだったんだけどね」
「……これでも整備士だから」
ミナスは少しだけ、ここにいて良かったなと思った。
「でも、お嬢さんも共犯になってしまったよ。カメラは写してなくても、録画はしているはずだから」
「外までで良いからついていく」
「うん、僕もそれが良いと思う。なんならずっと一緒でも「ミナちゃんーー!!!カッコ良かった!!可愛かった!!大好き!!!」
金髪の奴隷は苦笑いをしながら、子供達を見てるよな優しい瞳になった。
その後皆は工場の部屋から出て、工場には最後の電撃で動かなくなった工場と看守長だけとなった。
「よし、君は機械に詳しすぎるほど知ってるから、ハッキングなんてお茶のこさいさいなはずだから、先に皆と外まで行っててくれ」
「了解しましたぞ」
ミナス、ミーを加えた奴隷達は外まで走り出した。
金髪の奴隷は一人工場の扉を開けた。
「こういうときのために残してた取って置きがあるんだよね」
汚れた作業服の内ポケットから一本の煙草とマッチを取り出した。
「良かった、まだ吸えそうだ」
工場の中へ入り、中央のもう動かない機械に身を預け、煙草を口にする。
マッチ棒をオイルのついていない機械で擦り合わせ、煙草に火を灯す。
金髪の奴隷の口から白い煙が吐き出される。
「やっぱうまいなー」
煙はやがて空気中に分散し、見えなくなった。
煙草が少しずつ短くなる。まるで何かの終わりへと向かうように。
「ひとつ教えて上げるよ、看守長。アホウドリっていうのは、地べたを歩くのが下手くそで、空から餌が降ってくると思ってるアホな鳥だよ。でもな、翼を広げれば二メートルを越して、飛翔能力が高い格好良い鳥なんだ。僕達は歩くのが下手でも、高く、上へ行ったら何かが変わるかもしれない。それに、今でも空から餌が降ってくると思うよ、上は餌の溜まり場だからね」
煙草が短くなる。
「これが、歩くのが下手な僕の最後の仕事だよ」
金髪の奴隷は最後の白い煙を吐き、煙草を天高く放り投げた。
「きっと、皆は降らしてくれると思うよ。
……世界がひっくり返るような大量の餌を!!」