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生まれ落ちて、我が身となる

この世界には羽を有する人間、羽人が生まれ落ちたんだって。


人間は少数の羽人を迫害し、ある者は奴隷とし、ある者は犯し人形とし、ある者は殺した。


羽があるなら自由な空へ飛べる、そう言って高台からダイブしてこの世からおさらばした羽人もいたそうだよ。子供から大人まで、三十センチも満たない羽なんて飾りでしかないのに。


そんな世界の地下街の下、それよりもっと下の世界の話。





鉄の扉が金切り声を上げて開き、青年が現れた。


「おーい、昼休みだから休んどけよ」


継ぎ接ぎが雑な布を身に纏い、不純物の多い黒いオイルをぶっかけられた様な風貌の少女に、真反対に小綺麗な青年は微笑みながら片手をあげる。


広い屋内に、青年と少女、そして幾何重もある機械のみが動いていた。


「……看守長」


少女は機械の整備を止めて頭を下げると、彼は困ったように頬を掻いた。


「昼休みは看守長じゃねぇから、気楽にしてくんないかな?」

「……できません」

「はぁ……。んじゃま、飯持ってきたぞ。たんと食え」


彼の整えられた赤髪に真っ白な肌は、暗く汚いこの部屋に浮いてる存在となっていた。


手にしていた、数ヵ月洗われていない銀の浅皿に濁ったスープとスプーンの先が入っていた。


地面に置かれると無機質な音が響いた。


「そんな怪訝な顔すんなって。俺みたいな下端が配給される食事を豪華絢爛にできるわけないだろ」

「そこまで言ってません」

「でも、これならあげられるよ。それよりは綺麗な固形栄養食、俺のご飯」


縦長の黒いゼリーだった。


「何が入ってるか分からないので、いりません。きっとそれも材料は酷いものですよ」


黒いゼリーを彼は迷いなくたいらげた。


「毒の無い害虫を無造作に丸ごと砕いて、液体状にして固ませる、なんちゃってゼリー。栄養なんかとれるはず無いのに、人間つうのは信じちゃうんだよ」

「知っていて、どうして食べるんですか?」

「生きたいから。……あ、そろそろ昼休みも終わるから、お前を牢屋に入れるぞ」


彼が「お前」という俗称で呼ぶ行為、その度少女は理解できない痛みが走った。


「……はい。機械の整備がもう少しなので待ってください」

「はいよー、ミナスちゃん」


少女、ミナスは眉をヒクッと微かに動かしたが、何事も無かったように機械の配線に目を向けた。


「本当はミナスちゃんを助けてあげたいんだよ。俺の命の恩人だし。でも俺みたいな下端じゃ上には敵わないし、逃げ出したとしても外ですぐに捕まるよ」

「……外に行けば、飛べるから逃げれます」


ミナスの発言に、彼は呆れた表情を返した。


「今まで羽人が何千回も挑戦して失敗してることだろ。……そんな羽はなんの役にも立たない邪魔物なんだよ」


一つの音と共に彼の頬に重く痺れる痛みが走った。


「なにしてくれてんのー?本当の事なのに、ビンタしてくるなんて」

「私が親から貰った大事な『私』、悪く言うな」

「……あー、そうかい、そうかい!気分悪くした」


彼はスープを蹴り飛ばし、踵を返して扉を大きな音をたてて閉じていった。


ミナスは機械の整備を終えると服の一部を引きちぎり、機械にかかったスープを拭いとった後、地面が揺れを伝え、耳を塞ぎたくなるような大きな音で鐘が二回鳴らされた。


「はー、やるか」


ため息と共に筋骨隆々な一人の男が扉から現れた。


「ん?誰だお前、ここに女がいるなんて知らねぇぞ。しかも羽人。……あぁ、……迷いこんで来ちゃったのかなぁ?」


突然不気味な笑顔を作り、男は近づいてきた。ミナスは体全体に蛇が這いずり回るような寒気に襲われ、逃げなければ、そう思った瞬間には腰が抜けていた。


「理由は分からねぇが俺も色々溜まってんだ、他の奴等が来る前に一発ヤらせろよ。羽人ってどんな奴にも股開いてんだろ、いいじゃねぇか」


ミナスの小さな体に、大きな体が覆い被さる。男の口から出た涎が少女の頬に垂れる。


必死の抵抗は、首を振るのみしか出来なかった。


「あー笑いが止まらねぇ、久しぶりのがこんな上玉とできちま「ミナスに触んな」


男の頭上半分が銃の発砲音と共に散らかった。


「羽人、牢屋に入れ」


ミナスに向けられた彼、看守長の赤髪から覗く目は無機質で冷たいものだった。


昼休みにいつも来てくれる看守長であり、私の知らない人。


ミナスは顔を腕で拭い、鉄の扉とは反対にあるもう一つの扉に向かって走り出した。


しかし、ミナスは不快な気持ちではなかった。むしろ喜んでいた。


昼休みにいない看守長が名前を呼んでくれた、たったそれだけの事がさっきまでの恐怖を全て拭い去ってしまうほどの、嬉しいことだからだ。


だが、ミナスは何故、笑っているのか分からなかった。


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