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谷川あさひについて私が語れるところ(中)

 谷川あさひと出会ったのは、小学校の入学式直前、私の一家がこの町に越してきた時である。


 隣家との垣根はその当時から存在せず、それもそのはず、私の家は谷川家の敷地内を借り受けて建てられたものであり、両家はそれ以前からの知人、母親同士に至っては高校生時代からの親友同士という間柄だった。


 まだ記憶もおぼろげな幼き日に訪れた我が家は、私の目にはとても大きくまぶしく映り、その我が家に輪をかけて大きな隣の家から、とても綺麗な女性がにこやかな顔をして出てきては、私の母と懐旧を喜び、ぽかんと見上げる私の頭を優しく撫でて、大きくなったねと言った光景は瞼の裏に焼きつき、今でも鮮明に思い出せた。


 私の母と同い年であるが10歳は若く見える隣家の女性、谷川雪子は音大出身で、近所の子供たちにピアノを教えている先生であった。


 春の穏やかな日和に、開け放たれた窓から聞こえてくる美しいメロディに釣られて家の中を覗き見れば飛び込んできた優しい笑顔は、私の初恋であり、私のことを手招きして迎えてくれた彼女が出してくれた手作りのマドレーヌの味は、ほんのちょっぴり苦い思い出として記憶されている。


 そしてその女性のスカートにしがみついて、私のことを不安げに見つめていた少女が谷川あさひであった。体は大きいが気は小さいらしく、彼女の母が私を招きいれてから、ずっとビクビクと怯えるような瞳を私に向けて、迷惑そうにしていた彼女は、その母親が教えてくれなければ、とても同い年とは到底思えないデカ女であった。


 彼女の母が、「仲良くしてあげてね」と言わなければ、きっと話かけもしなかったろうと思う。


 私としては、谷川は暗くてどんくさくて、何を聞いてもあーとかうーとかし返事が無い、少々知恵遅れ気味で、おまけに女であるから仲良くしたくなかったのだが、彼女の母に頼まれた手前、断ることも出来ず、隣同士と言う関係性と、引っ越してきたばかりで他に遊び相手がいなかったからという理由で、私たちはなんとなく一緒に遊ぶことが多くなった。


「三郎君が将来お婿さんになってくれればいいのにね」


 彼女の母親は冗談にしては笑えない冗談を言った。私の母親もその言葉に迎合し、勝手に盛り上がる二人に白い目を飛ばしながら、背筋が寒くなる思いをしたものだが、対する谷川は真逆であったようだった。


 彼女は何が気に入ったのか(それとも母親から言われたからか)、私がどこへ行っても金魚の糞のようにくっついてきた。いつも泥だらけになって帰っては、私は母にぶん殴られて、彼女はそれを見てニコニコと笑っていた。


 そして困ったことに、谷川は一次的接触をやたらと好んだ。海外の血が混じっていたからかも知れない。とにかくことあるごとに、そうしていないと落ち着かないように、私の体のあちこちに触れてくるのだ。抱きつき頬ずりはもちろん、男女の体の違いにも興味があるのか、一度羽交い絞めにされて物凄く相棒をにぎにぎされたこともあった。


 私はこのとき涙ながらに誓った。こいつは敵であると。


 その関係は小学校に入学してからも続き、女と仲良くしているということは、私の学校生活を危うくさせたが、彼女が私に対しての好意を隠そうとしないので、なにやら触れてはいけない腫れ物として扱われていたように思う。なにしろ、べた付き方が尋常でなく、おまけにからかっても逆に喜ぶのだ。嫌がるのは私だけだ。


 今思えばおそらくは、彼女の気を惹きたかった少年たちには、酷な現実として受け止められていたのかも知れない。


 ともあれ、そんなことが繰り返された結果、私は彼女をイジメにイジメた。なんとしても彼女を自分から遠ざけたくて、イジメにイジメ抜いたのだった。


 そもそも彼女は虐められる要素が満載だった。今でこそ飛ぶ鳥を落とすような勢いの彼女であるが、小学校時代は私以外に対しては根暗で引っ込み思案であり、運動も勉強も苦手、そして恐らくはあまりに顔立ちが整いすぎていたからだろうか、女子の友達もいなかった。そのくせ、発育だけは抜群に良く、初潮が来たのも、ブラをつけて登校して来たのも、彼女が最初の一人だったのだ。これをイジメずして誰をイジメよう。


 みんなが期待していた。


 今日はどんな悪さをするのだろうと。


 私は谷川を茶巾に縛り、ブラのホックを飛ばし、水泳の授業を見学中の彼女に、ねえどんな気持ち? 今どんな気持ち? といやらしく尋問した。


 それでも彼女は私にくっ付いて回ることを止めなかった。


 私がいたずらをするのは、男子が好きな女子に対してやってしまう、例の意地悪のようなものだと思い込んでいたのだ。


 あきれるよりも悩まされた私は、どうしたら彼女に嫌われることが出来るのだろうかと、涙目になりながら日夜嫌がらせの腕を磨き続けた。私たちはそんな具合に、クラスで浮いた存在として君臨し、浮かれた毎日を過ごしていた。そして私は、どこまでやっても彼女が私を嫌うことがないと言う事実に打ちのめされ……たわけではなく、いつしかあぐらをかき始めていたのだ。


 

 その関係性があっけなく終わってしまったのは、小学5年の秋のことである。


 私は大事故の後遺症に悩まされ、油断すると痛みをぶり返す体を整えるために、毎日のように整骨院に通う日々を送っていた。松葉杖やテーピングは外れたが、それでも毎朝の痛みが辛く、起き上がるのに難儀するような状態だった。


 そんなある日のことだった。谷川家の周りに、50人を超える報道関係者が殺到し、家を取り囲んだ。


 雨が近いのか、ずきずきと痛みだした足を引きずるようにして帰ってくると、通りの路側帯に人がごった返し、あちこちにゴミが散乱し、我が家の庭の芝生を踏みにじって三脚を立てたカメラマンや記者たちが、まだ小学生の私にまでマイクを向けてきた。


 何が起こったのか分かっていない私は返答に窮し、マイクを掻い潜るようにして家へと入ったが、聞こえてくる言葉を拾ってみると、彼らはどうやら隣の旦那のことを知りたいようであった。


 谷川あさひの父親は、日本人とどこか欧米の国のハーフであり、彫りの深い男前の顔をした、俳優にしてロックシンガーだった。元々はバンドブームに乗ってデビューしたロックバンドのボーカルだったが、だんだん俳優としての仕事が増えて、それが逆転したような格好だ。


 どうやら、その父親がやらかしたらしい。何をかと言えば不倫である。


 家に入りリビングへ向かうと、受話器を肩と頬に挟んでぺちゃくちゃやってる母親が、テレビのチャンネルをザッピングしていた。映し出されたワイドショーは、どこの局も谷川の父親と、最近良く見かける女優の写真を並べてなにやら鹿つめらしい顔をしてあーだこーだやっている。


 母親の声に耳を向けると、どうやら話し相手はお隣の母親で、彼女としても寝耳に水だった今回の出来事に、相当困惑している様子であった。


 カーテンの閉められたリビングの窓から、こっそり隣を見てみるが、そちらも全部の窓のカーテンが引かれて中の様子は窺えない。そうこうしてると、記者の一人が私のことに気づき、目と目が会ってばつが悪くなった私はカーテンを引いて引っ込んだ。


 結局、私の父が帰宅して、我が家の庭に不法侵入していた記者たちと言い争いになり警察を呼ぶまで、私たちは家から出ることも出来ず、じっと推移を見守るしかなかった。深夜になって少し落ち着くと、母が隣の家にこっそりと訪ねていって、これからのことを色々と話し合ったらしい。


 ともあれ、子供である私にはどうすることも出来ず、ふーん、隣の親父はろくでなしだなあ……などと文字通り小学生並みの感想を抱きながら、普段どおりに過ごしていた。


 結局、家の前が落ち着くのには三日がかかり、その間、隣の旦那は一度として帰ってくることはなく、そして谷川あさひは、一回も学校に顔を出さなかった。


 それから一週間が過ぎたが、隣の家は沈黙を保っていた。


 いつも午後になると聞こえてくるとピアノの音色は、ここ暫くまったく聞こえてこない。私の母が毎日、隣の様子を見に行ってはあれこれ世話を焼いていたようだから、生きてはいるのであろうが、人の気配がしない隣家はデカイだけあって不気味だった。


 元々、週に1~2回しか帰ってこなかった隣の旦那もまったく姿を見せることなく、ピアノのレッスンを受けているはずの谷川あさひも見ることが出来なかった。


 ある日の学校帰りに、彼女は一体どうしているのだろうかと、その彼女の部屋を見上げていると、カーテンがゆらりと揺れて、彼女が顔を覗かせた。そして私と目と目が会うと、すぐさまカーテンを閉めた。家から出てくるんじゃないかと思い、そのままその場で暫く待ったが、彼女が出てくることはなかった。


 私は小学生であったから、詳しい話はまったく聞かせてもらえなかった。しかし、小学校でもそろそろ噂が立ち始めており、ワイドショー好きの母ちゃんから詳しい話を仕入れたクラスメートの何某(なにがし)が、聞いてもいないのに色々と教えてくれるものだから、私も結局世間一般並みには、このすったもんだを理解していた。


 テレビから仕入れた情報によれば、谷川あさひの父親は、とんでもない浮気性であった。当初噂になった女優とも、もちろん抜き差しならぬ関係であったが、更に詳しく調べてみれば、出るわ出るわ、実は他にも女性の影がちらついていた。それは、いいお友達関係から、かつて無残に捨てられたと言う女や、果ては隠し子の存在まで、ありとあらゆる醜聞が散りばめられ、お茶の間を閉口させたのだった。


 思えば彼はロクに家に寄り付かず、週に1~2回しか帰ってこないのにも訳があったのだ。


 こうして騒ぎになった今も、別の女の軒を借りて、身を隠しているに違いなかった。


 他人事であれば、けしからんねの一言で済む話であるが、良く見知った隣人の話である。知ってしまって気分のいいものではない。私は、その父親のことに腹も立ったが、それより谷川あさひのことが心配になった。親父が女の家を渡り歩いていたのはショックだろう。おまけに見たこともない自分の兄弟姉妹が、何処かに存在するのである。こんなの、たまったものではない。


 かといって、小学生の私が話に加わらせてもらえるわけもなく、隣を訪ねてみたところで、出てきてもらえるわけもない。悶々とした気持ちを抱えたまま、ただ事態の推移を見守るしかなかった。


 そんな中、新たな火種は、意外と言えば意外であったが、谷川の父親の所属事務所から発せられたのである。


 ことの発端は谷川あさひの父親が、所属事務所を通して、谷川の母親との離婚の打診をしてきたことに遡る。


 それは一見すると、数々の醜態を晒し、巻き込んでしまってすまないという、謝罪の体裁を取ってはいた。しかし実際には、別の女と一緒になるための後始末に過ぎなかった。


 こんな虫のいい話が許されるものかと、義憤に駆られた事務所の社長が、谷川の母をけしかけて、共に立ち上がったのである。


「谷川の楽曲は、全て妻である雪子さんの手によるもの」


 社長は谷川の父親を即日契約解除し、今回の騒動と離婚の慰謝料、そして今までゴーストライターとして活動してきた上での著作権料の返還を求めて、訴訟を起こしたのである。


 寝耳に水の出来事に、世間はあっと驚かされた。いろいろとだらしない男であったが、ここまでやっていたのかと、もはや芸能界復帰も無理なほど、彼の名声は地に落ちた。


 この状況に際し、谷川の父親は国外へ逃亡すると言う逃げの一手を放った。マスコミから姿をくらましたいのか? と言えばそうではなく、裁判所から郵便を受け取らないという目論見があったそうだ。世間が、そのあまりの諦めの悪さに唖然とする中、彼は南米で消息を絶った。現地妻がいるとか、マフィアに殺されたとか、憶測が飛び交う中、騒動はこう着状態に陥り、ただ時間だけが過ぎていく。


 始めはただの低俗芸能人同士の浮気話でしかなかった。


 それが今や、一つの家庭をぐちゃぐちゃにした、だらしない男の下世話でドロドロな愛憎劇に変わり、日本全国のお茶の間は呆れ果て言葉を失った。


 しかし話はまだ終わらない。もう一段階あるのである。

 


 その日を境に、ワイドショーは連日この問題を取り上げて、世間の関心を煽った。


 報道協定が結ばれたのか、私の家の周りは当初とは違い、打って変わって静けさに包まれていた。時折、近所の人がひそひそ話をしながら通り過ぎるくらいのものである。


 小学校のPTAはかなり動揺したようだが、ヒスを起こせば寧ろ自分たちに矛先が向くと気づいていたのか、沈黙を保ったが、子供たちの口に戸は立てられず、私は不快な噂話を毎日聞かされては、気分の悪い思いをしていた。


 谷川あさひとはまったく会えなかった。


 彼女と久しぶりに再会したのは、事件から一ヶ月経つか経たないかの頃、それもとんでもない状況でである。


 リハビリがてらの整骨院通いの行き帰り、私は数分間だけ隣人の部屋を見上げてみるのが日課になっていた。


 来る日も来る日も窓を見上げた。


 かつて、一度だけカーテンの隙間から彼女が顔を覗かせたように、また私のことを見つけてくれるかも知れない。そうしたら、私が呼び鈴を押せば、もしかしたら出てきてくれるかも知れないと、淡い期待を抱いていたのだ。


 日が落ちるのも大分早くなった秋雨の季節だった。


 ようやく日常生活には差しさわりがないほど回復した私であったが、雨の日は何故か節々が痛んだ。私は腕や足をさすりさすり、整骨院へ出かけようと家を出て、いつものように数分間、隣家の窓を見上げた。


 行きは特に何事もなかった。私は整骨院でリハビリを終えると、もう暗くなった道を傘を差しながら帰ってきた。街灯がぽつぽつと点き始め、遠くのほうから夕焼け小焼けの音楽が響いてきた。隣家に差し掛かった私は、その歌を口ずさみながら彼女の部屋の窓を見上げ、おそらく今日も収穫なしであろうと思いながら、何の気なしにぼんやりとそれを見つめていた。


 突如、ドンッ! と言う衝撃波のような音が私の全身を震わせて、私の耳元の空気をヒューと音を立ててかき乱していった。


 驚いて音のするほうを見れば、隣家の玄関が勢い良く開けられていた。


 開け放たれた隣家の玄関から、音の洪水が流れ出してくる。それは防音の効いた家の中に閉じ込められていた、音の暴力だった。


 どこかで聞いたことがあるようなクラシックのオーケストラと、誰かの信じられないくらいでかい金切り声。


 開かれた玄関先から谷川あさひが駆け出してくる。


 久しぶりに見た彼女は血相を変えて真っ青になって、転がり出るようにして家から飛び出してきた。そして私の体にぶつかって止まった。肩で息をする彼女の吐息が、はあはあと私の肩に当たる。


「うおおおおおおおおおおおお……うおおおおおおおおお……」


 獣じみた声が家の中に轟いていた。そのあまりの迫力に私はドキリとして身を竦め、彼女はびくりと震えて私を突き飛ばすと、怯えるような目をして通りに向かって走り、坂を駆け下りて行った。


「あっ、おいっ!!」


 その後姿に声を掛けるが、彼女は振り返らずに先を急いだ。


 玄関の扉が徐々に勝手に閉じていく。うおおお、うおおおんと、獣のような声はまだ聞こえている。しかし、その重厚な扉が完全に閉まると、音の洪水はピタリと止んだ。まるで音の檻のようである。この中で起きた出来事は、決して外に漏れ出すことはないであろう。


 一体、今までこの中で、どんなことがあったのだろう。


 身震いしながら、私は中で何が起きているのか確かめようかと迷ったが、そうはしなかった。何かぬるりとした手の感触に違和感を持ち、とくと見つめてみれば、そこには真っ赤な血に染まった自分の手があった。


 私は悲鳴を上げた。この血は私のものではない。先ほどぶつかってきた谷川あさひの物だ。


 私は咄嗟に振り返ると、彼女が駆けていった方向を慌てて見下ろした。少し坂を下りた曲がり角に、彼女が入っていく後姿が見える。いま追いかければ、まだ間に合う。私はすぐさま駆け出すと、坂を下りて彼女の消えた角を曲がった。


 彼女はすぐに見つかった。


 ふらつきながら、ほんの数十メートル先を歩いており、空き地に差し掛かると、そこへ身を投げるように体を横たえた。


 私はそこへ駆け寄って、倒れ伏す彼女に手を伸ばした。


「おいっ! 谷川、平気か? 何があった!?」


 問いかけに答える言葉はない。対して、


「三郎君……助けて」


 聞こえてくるのは助けを求める呟きだった。彼女は腹部を手で押さえている。その手もスカートも真っ赤に染まっている。


「もういやだ。もういやだ。もういやだ。助けて……」


 その流れ出た血の量に驚いて、私は言葉をなくした。すぐに手当てをしなければ彼女が死んでしまうと思った。私はショックで固まりつつあった体を動かすと、自分の上着を脱いで、彼女の腹部の傷口にあてがい、ぐっと力を入れて押さえるように谷川に指示した。


 彼女は小さくうめき声を漏らし、そして泣きそうな声を振り絞って言った。


「ねえ三郎君、私を連れて逃げて。一緒に居てくれるだけでいいの。三郎君は何もしなくていいから。私が働いて、私があなたを養うから。だからずっと傍にいて。ねえ、お願いよ。この地獄から私を連れ出して。もういやだ。あそこには戻りたくない。もう誰も信じたくない。あなたさえ居れば、もう何もいらないから。だから私をあなたの物にして。私を奪って逃げてよ!!!」


 叫ぶように言い放つと、彼女は力尽きたようにぐったりとした。瞳はじっと私を見上げていた。


 しかしそんなことを言われても、小学生の私は何も出来ない。何が起こっているのかさえ、想像もついていなかったのだから。


 一体、彼女の身に何が起きたのか? 考えることもしないで、彼女を慰める言葉も、彼女を連れ出す勇気もなくて、ただ恐ろしい状況にぶるぶるぶるぶると震えながら、


「母ちゃん呼んでくる!」


 しがみ付くように私の洋服の(すそ)を握った彼女の手を強引に剥がし、私は一目散に駆け出した。


 それは怪我人を救うためには圧倒的に正しい行為だった。


 しかし彼女にとって、それは決別の言葉に他ならない。


 せめて何でもいいから、優しい言葉の一つもかけてやるべきだったのだ。


 私は泣きながら家に飛び込むと、血だらけの体で母親に助けを求めた。


 すぐに救急車が呼ばれて、谷川あさひは病院へ運ばれた。



 谷川あさひはうざかった。


 心底救いようのないストーカーで、私の都合などお構いなしの自分勝手な少女であった。


 どんなに私に嫌がられても、めげることなく私に着いて来て、そして私の気を引こうと躍起になった。


 だから私はどうすれば、彼女に嫌われることが出来るかと、頭を悩ましている振りをして……ずっとその関係に、あぐらをかいていたのだ。


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本作が映画になりました。詳しくは下記サイトにて。2月10日公開予定。
映画「正しいアイコラの作り方」公式サイト
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