ツルリン言うな!(後)
ともあれ、新学期はおおむね穏やかに始まった。
一体私のどこがいいのか分からないが、告白イベントは定期的に訪れた。しかしホモ疑惑を掛けられたおかげで、振られた女子の面子も立ち、特にこれといったトラブルには発展しなかった。
授業中は相変わらず寝っぱなしで、放課後になったらバイトに行く。クラスメートや名前の知らない上級生たちと、挨拶程度の会話を交わし、試験になると頼られる。私はそんなポジションを確立していた。
しかしいつまでもこのままで済むとも限らない。出る杭を打ちたがる輩はどこにでも居るのだ。そして、そのような危惧を抱いていたのは、私だけではなかったらしい。
新学期が始まるとすぐに生徒会長選挙があった。選挙と言っても特にやる気があるわけでなく、大抵の場合は立候補者、居なければ推薦者の信任投票で決まり、激しい選挙戦が行われるとかそう言ったことはない、軽いものである。
しかしその年は珍しく立候補者が二名おり、決選投票が行われる運びとなった。
北高では数年ぶりの珍事であったが、それでもやはり選挙戦自体は行われず、ある日いきなりどっちかに投票しろと紙が回ってきて、昼休みに体育館の投票箱に入れに行くといったアバウトさであった。
新生徒会長は赤石と言う二年の女子で、小柄な子供のような容貌の持ち主であり、女生徒からマスコットのように可愛がられているような人だった。と言うか、まんま子供な人であり、立候補の理由は、対立候補に身長のことでからかわれた腹いせに名乗りを上げたと言ったもので、その噂が広まっての圧勝劇であったのだから、この学校のいい加減さが窺われる。
私はどちらの候補も良く知らなかったので、無難に白票を投じて、後は忘れていた。
自分には関係ないことだと思っていたので当然だ。
ところが会長選が終わって数日後、私は昼休みに寝ているところを揺すり起こされ、生徒会室にいきなり呼び出されたので話が変わる。なにやら面倒ごとに巻き込まれたのかと、重い足を引きずりながら生徒会室へと出向いた。
生徒会室は普通の教室を縦に4等分したような細長い部屋で、狭い室内には長机を二台並べた会議テーブル、扇風機、石油ストーブ、冷蔵庫、電熱ポット、あとは何故か分からないがぬいぐるみがギッシリ並んでいる。隣室は放送室と音楽室で、無駄に防音が良く、入った瞬間に耳鳴りがするような気がした。
会長は部屋の奥、上座の位置にパイプ椅子を置いて、そこにふんぞり返るような横柄な態度で私を迎え入れた。「ちみちみ、まあ、座りたまえ」などとほざいているが、子供が背伸びをしているようにしか見えないので、さして腹も立たない。
入り口付近に立て掛けてあったパイプ椅子を開き座ると、ピンクのカーディガンを着た穏やかそうな顔をした女生徒が、お茶を差し出してくれた。副会長だろうか。
ともあれ、いきなり呼び出して何事かと問えば、私に役員をやってみないかと打診してきた。なんだそれはと疑問を呈すと、生徒会長選がこのざまであるのだから、副会長以下の役員選挙など行っても立候補者が集まらないので、会長に任命権限があるのだそうだ。だから、あんたやりなさいと。
もちろん、そんな面倒なことは御免被る。素直に身内で固まっていて欲しい。私はバイトで忙しいのでと固辞し、席を立とうとしたのだが、
「あんた、友達いないでしょ」
と会長が身も蓋もないことを言い出した。
「それが、なにか?」
ちょっとカチンとくる。私が機嫌を損ねたと気づくと、穏やかそうな笑みを浮かべて傍らに立っていた副会長らしき人物が慌てて、
「ごめんなさいね。悪気があったり、嫌味で言ってるわけじゃないのよ?」
と言う。悪気が無いならどういう意味だ。
「えーと、あんた目立つのに友達いないから、余計に目立つのよね。別に悪くないのよ。別にいいんだけど……だからさ、えーと、何とかしなさいよ」
「……いや、どっちですか。それに何とかと言われましても、具体的にどうしろって言うんですか」
「だから、生徒会に入ったらいいんじゃないかな?」
分けの分からない要求に首を捻っていると、難しい顔をしていた会長もうんうん唸って首を捻り始めた。なにを考えてるんだろう、この人は……と呆れていると、相方の女生徒が苦笑いしながら、
「ごめんなさいね。赤石さんは、ちょっと頭が残念な子なのよ」
とぶっちゃけた。見た目が優しそうだったので油断しきっていたが、この人も大概変である。椅子を半分引いて退路を確認する。
「私は副会長の大沢です。赤石さんとは中学の時からクラスが同じなの」
「はあ……」
「簡単に説明しますね? えー、例えば富岳さんは、ボッチのイケメンが居たらどう思いますか? イケメンなのに、どうしてボッチなんだろうって思いますよね。性格が悪いのかしら、ホモなのかしら、きっと精神の病気なのね」
「……いや、イケメンじゃないですし」
「いやですねえ、ものの例えに決まってるじゃないですか」
「帰っていいですか、もう」
「振られた子たちもね、今はホモだからって理由で諦めてくれますけど……」
「おい」
「これから先はどうなるか分かりません。と、赤石さんは言いたいわけですね」
「え、あたし!?」
突然、会話を振られた会長の肩がびくりと震える。
「えっと、うん、そうね、そうかも。だから生徒会に入りなさいよ」
「いや、どこをどうしたらそうなるんですか」
会長は、うーん……と唸った後、開き直ったように言った。
「目立つなら目立つなりの立場でいなさい。みんなが納得できるような行動を心がけなさい。人気者を目指しなさい。野球部のエースがモテても誰も気にならないけど、野球部の球拾いがモテたらおかしいでしょ」
「球拾いに厳しい意見ですね」
「でもそんなものよ。それに、なんの努力もなしにエースにはなれないわ。みんなそれくらいは分かるもの。あんたは一生懸命勉強したんでしょう。だったら、ちゃんとその対価を求めなさい」
「はあ……」
「みんな報われない努力が嫌いなのよ。だから、実力を示して何も求めない人が居たら、異様に映るの。人によっては寂しくさえ感じる。もしかしたら、そのせいでモテるのかも知れないけど、反感を買うことだってあるわ」
「……そんな向きがあるんでしょうか」
そう尋ねると、副会長の方が引き取って続けた。
「3年生に若干名いらっしゃるようです。学校で一番頭の良い子が、1年生の、それも授業中にずっと寝てるような子では、プライドも傷つきますよ。その上、友達も居なければ、人と積極的に関わろうともしない。そんな風に無気力で居られますと、これから受験シーズンに入ってきますし、イライラが募れば反感も買うかと」
「ふーん……」
穏やかな見た目とは裏腹に、なかなか歯に衣着せない人である。私は引きつった笑みを浮かべるのが精一杯だった。
「怖いのはですね、結局頭のいい人には何やっても敵わないんだって、みんながやる気をなくしちゃうことなんです。もちろん、あなたのせいじゃありません、自業自得ですけど、そう簡単に割り切れるものでもないでしょう」
「……それじゃ、まあ、取りあえず何か考えときますよ。わざわざご指摘ありがとうございました」
「待ちなさい」
私が副会長の意見に素直に礼を言い、生徒会室から去ろうとしたら、会長が止めた。
「考えるって言ってるけど、あんた、当てはあるの」
「……まあ」
正直なところ、まったく無い。
会長はそれを見透かしているのか、暫く黙った後、小さく溜め息を吐いた。
「明日もう一度来て。その時に返事が欲しいわ」
私は一礼して部屋を出た。扉を閉める際に見えたぬいぐるみに囲まれた会長の姿は、相変わらず子供にしか見えなかった。
「子供なのは、おまえの方だろう」
と呆れながら月山が言う。
バイト先である月山の家は、軽食も行う喫茶店であるから夜もそれなりに客が回転した。私はその喫茶店に、放課後何も用事が無ければ、18時から22時まで勤務していたが、勤務時間中に客足が途絶えることは滅多になかった。駅前の好立地なのは確かだが、中々大したものである。
客足が落ち着いてくるのは丁度私が仕事を終える22時過ぎで、その頃になると客の去ったカウンターに月山がやってきて教科書を広げ、まかないの夕飯を一緒に食べながら、いろいろと話すのが日課になっていた。
大概は前の学校の奴らの馬鹿話が多かったが、月山の食いつきが良いのは、やはり私の学校の女生徒の話だった。私の境遇や立場を考えて、面と向かって言ってはこないが、出来るなら女子の一人や二人紹介して欲しい……と言う本音が見え見えていた。可能であれば私もそうしてあげたかったが、いかんせん、私は学校で浮いていたし、そんな私が女子にナンパまがいのことをしようものなら、一体どんなことが起こるか、想像するのも恐ろしかった。
とまれ、そういうわけで、私の学校のロリっ子会長について喋っていたら、生徒会入りの話に飛び火し、呆れられたという始末である。
「それはどう考えても、好意で気を使ってくれてるだけじゃないか。わざわざ生徒会長さんが、守ってあげるからおいでって言ってるようなもんだろ。それを断るんじゃ、向こうも立つ瀬が無いだろうが。おまえは協調性を知らんのか」
「んなこたあ、分かってるんだよ。ただ、納得いかないんだ」
「なにが」
「テストの点数は偽装出来たんだ。全力で取りにいったのは、転校生ってことで目立ちたくなかったわけで」
「あー、いじめられっこ疑惑だっけ?」
「そうそう。それが急に逆転しちゃって、今度はさ、目立ちたくないなら逆にもっと目立てって言われてさ、本末転倒にも程があるだろう……俺は、誰にも邪魔されない穏やかな学校生活が送りたかっただけなんだよ? それが学校中から注目を浴びて、生徒会長から直々に役員就任を依頼されるって、どこの主人公だよ。気持ちの整理も必要だっての」
「まあ、多少は必要か……」
「だいたい、俺みたいなガリ勉って、普通目立たないはずだろうが。なんでこんなことになってんだ」
「おまえ、学校でガリ勉してんの? 大体寝てるって言ってなかったっけ。だとしたら、自業自得だよな」
「う、うーん……」
私は唸った。
カウンター内の液晶テレビでCMが終わり、番組が始まった。カラフルなクレイアニメのオープニングでは、二人組みのお笑い芸人と一人のアイドルの女の子がワイワイと楽しげに踊っている。
オープニング曲を歌うのは谷川あさひ。
「……なあ、チャンネル変えないか」
「やだよ。俺、これ楽しみにしてるの」
店内は、普段は店主選曲のクラシックが控えめな音量で流れているが、開店時と閉店間際にはテレビ番組を流していた。朝のモーニングの時間帯はBBCとロシア・トゥデイを流し、夜の閉店間際は民放のニュース番組。そうやってサラリーマン客を呼び込んでいるらしい。
元々は昼間の常連客に、オリンピック開催中に中継が見たいと言われて導入したらしいが、開催後に持て余して片付けようか迷ってるとき、試しにBBCを流してみたら評判が良かったので、そのままにしているのだそうだ。
閉店間際、クラシック音楽のストックが尽きて、ニュース番組が始まるまでの間、月山はそのテレビでローカル局の散歩番組を見るのを楽しみにしていた。お笑いコンビと売り出し中のアイドルが、英語禁止等のおかしな縛りを付けながら、街をぶらぶらと散策する番組である。
「俺さ、小学校のとき頭悪かったんだよ」
番組が始まったので、必然的に学校の話はそれで終わった。
私はまかないのピラフをかき込むと皿を脇に追いやり、カウンターに頬っぺたを付けるようにして突っ伏し、モニターを斜めに見上げながら、誰とも無し呟くように言った。
月山が意外そうに問い返す。
「……え、マジで?」
「いや、頭悪いってのも語弊があるかな。今ほど勉強が出来なかったんだ。テストではいつも平均点あたりで、クラスの奴らが塾とか通って勉強してる間も、俺は遊びほうけてたんだよね。通信簿は体育だけ5。あとは全部3以下でさ」
「そこから清開受かったの? ある意味凄いな」
「ガリ勉してた時期があってさ。つか、小学校卒業するまでずっとガリ勉だったんだけど」
「へえ、なんでまた」
「無視されてたんだよ」
オープニングが終わってCMに入った。月山は私のほうをチラチラと見ながら、テレビを消そうかどうか迷っているようだった。私が手のひらをヒラヒラさせて、そのまま見てろよとジェスチャーすると、彼は持っていたリモコンを置いた。
「始めは結構抵抗してたんだけど……いや、そんな悲惨なもんじゃないぜ? ほら、体育5だって言ったろ。だから、まあ、イジメって感じじゃあないの。純粋に無視。なにやっても反応がない」
「ああ、まあ、分かるよ」
「で、その内馬鹿らしくなってさ。何やっても反応ないなら、何もやらんどこうって。思う壺なんだけど。で、やること無くなっちゃったもんだから、後はもう、仕方ないからひたすらガリ勉。ガリ勉。ガリ勉。勉強してれば無視されてても言い訳立ったし、なんかさ、無視してる連中も中学受験とかやってるから、あいつら見返してやろうって。鼻で笑われてたけどな」
「じゃあ、結果的に見返したわけだ」
「どうかな……どっちかっつーと、決定的に溝を深めただけだった。それまでは、俺のこと無視しててもどっか罪悪感ありそうな顔してたけど、それが無くなった。学校以外で、例えば模試とかでなら、会って普通に話すような奴も居たんだけど、見事に手のひら返したね。別にそれでも良かったんだけどさ、どうせすぐに中学進学して別々の学校だし」
CMが明けた。今週は東京の世田谷区、世田谷線の周辺をぶらぶら散歩するようだった。始めは三人で和気藹々と楽しく散歩してるだけだが、大概、お笑いコンビの片方がアホなことを言い出して、やがて罰ゲームつきの対決が始まる。
「けど、なんか俺の悪口とか聞こえてくるんだよな。もう居ない人間の悪口。流石にうんざりするから、もう一切気にしなくなった。これっぽっちも大切なものじゃなくなったから。過去を振り返るより未来に生きようってな、ありがちだけど。けど、北高入ったら居るわけよ、昔の俺を知ってる奴らが、結構、まあまあ、たくさん」
「あ~……」
「多分、あの会長も知ってるんだろうよ。俺の評判が、ある日コロッと逆転しちゃうの。オセロみたいに」
今週は英語禁止の逆で、全部の会話をルー語で話そうということになった。一体どうなるのだろうとハラハラしたが、意外とまともな進行に、実は結構しょぼい回だったなと、ぼんやり眺めていたのだが、徐々に三人のボキャブラリの少なさからカオスな状態が始まり、やがてアイドルがユニセックスを一人エッチのことだと勘違いしていることが発覚して、一気に盛り上がり始めた。
「……生徒会には入るよ。多分、それより上手い方法はないだろうから」
「ああ、頑張れよ」
月山は私がぶつぶつ喋っている間、一瞥することも無く、ずっと液晶画面をまっすぐ見ていた。
お笑いコンビに散々からかわれ、顔を真っ赤にしながらアイドルが叫ぶ。春先から徐々にメディアに浸透してきた新人で、この番組が始めてのレギュラー番組だった。
結局、自爆してしどろもどろになったアイドルがゲームに負け、ふなっしーのようなきぐるみを着せられて、番組中に無計画に買いまくった荷物を全て背負わされて、屈辱的な格好で人通りの多い夕方の商店街を、よちよちと歩かされる。
お笑いコンビが腹を抱えて笑う。
「なんや、ツルリン。もう限界か」
アイドルが返す。
「ツルリン言うな!」
私はその姿を見て、くすりと声を漏らした。斜め上を見上げると、月山がちらりと横目だけでこちらを見ていた。
剱鈴とは半年くらい会っていない。春先に突然売れ始めてきた彼女とは、多分、会っても上手く話せないだろう。
前の学校の友達であった穂高と高尾は、私のそんな態度に呆れて離れていった。
月山だけがそれまで通り、普通に接してくれたが、こうして非難するかのように、毎週彼女の番組を私に見せて、無言の圧力をかけてきた。
翌日、私は生徒会室へ赴き、役員就任の件を受諾した。
そして忙しい日々が始まった。
生徒会は地味な見た目とは違い、多忙な雑務集団だ。毎週の朝礼に始まり、部活動の予算委員会、その部活同士のいざこざが起こらないよう各種折衝、職員室への報告連絡相談、それから文化祭委員会、体育祭委員会、果ては私には直接なんの関係もないのに、修学旅行の進行委員会にも出席させられた。
その上、他校との親睦会なるものがあると聞かされ、流石に音をあげた。校内へのプロパガンダで生徒会役員やってるのに、他校まで手を広げたくないと副会長に泣きついて、罵倒されながらもどうにかそれは回避した。
こうして生徒会活動による私のプロデュースは徐々に成果を上げ、私は学校の代表的な生徒として名を馳せ、悪評などものともしない地位を築き上げた。面白いもので、そうなると私にちょっかいを掛けてくる女生徒も減って、一時期はどんなスーパーホストだと言わんばかりに頻発した告白イベントも、殆ど起こらなくなった。
「脇が甘いのよ。だから告白なんかされるの」と会長が背伸びをしながら言う。「野球部のエースはモテるけど、そんな人気者に真っ向から告白する女子は中々居ないでしょ。あんたが球拾いなんてやってるから、勘違いさせちゃったのよ。気をつけなさい」
おっしゃる通りかも知れない。しかし野球部になにか思い入れでもあるのだろうか。
そして冬。様々なイベントで忙しかった2学期も残すところあとわずか。そんな時期になってまで、遊ぶことには余念が無い高校生たちのために、生徒会活動は相変わらず多忙を極めた。
期末試験が終わり、終業式を残すだけとなったこの時期に、かつての卒業生どもは一体何を考えていたのか、クリスマス会なる学校公認の合コンのようなイベントを詰め込んできた。
その内容はシンプルで、クリスマスに体育館に集まって、みんなでパーティしましょうといったもので、準備も有志(モテない男たち)が集まって率先して行ってくれるので、楽と言えば楽だった。しかし何せ時期的に、準備会は期末試験を挟んで変則的に行われるので、面倒な事態を引き起こした。
準備会の途中で試験期間に入るので、必然的に一緒に勉強しましょうとなるのだ。
必要以上に仲良くはなりたくないのだが、ここで断っては角が立つので引き受けると、結局準備会の全員で勉強会を開く羽目になり、私はクリスマス会までの長い期間、バイトを殆ど入れることが出来なくなった。
養育費は毎月振り込まれているので、金に困ることは無かったが、冬休みは殆どバイト漬けかな……などと溜め息を吐きながら、私は勉強会に出席した。そして、会長以下2年生も混じる勉強会で、私はかつてクラスメートに披露したように、山張り番長として君臨し、ついに『富岳さん』から『富岳様』と呼ばれるにまで至った。果たしてジャニーズで言うところの、なんであろうか。
ともあれ、そうして必要以上に仲良くなった準備会の面々の中で、私は女子に弄られ、男子に嫉妬され、久々に告白までされ、期末試験明け初めての会合を大遅刻して、ここに居る。
渡り廊下を通り抜けると、冷たい風が頬を掠めていった。木枯らしが吹き付けるグラウンドで、落ち葉がくるくると舞っていた。冬の足の早い太陽は沈み、インディゴブルーの空に一番星が輝いていた。
どこかで会長が、私を名指ししながら怒鳴り散らす声が聞こえた。
私は肩を竦め、苦笑しながら講堂へと急ぐのであった。




