イイワケ
カラン―――
グラスの中の氷が解けて、小さな音を響かせた。
その音は、どこまでも広がっていくかのように部屋全体に伝わっていく。
小さな、音の波が揺れている。
その波を追っていくと、また新しい波が生まれる。
小さな音はさらに小さな音を生み、そしてまたさらに小さな音を生み・・・
人が聞き取れないほどの音の波になるまで、部屋の中を音の波は揺れ続けた。
チリン―――
窓の方から微かな音がした。そっと耳を澄ませば優しい音だった。
たった1度だけのその微かな音でさえ、しっかりとした音の波を生み続け・・・
やがて消えていく。
静かに流れるこの音の波を、いつまでも眺め続けていられるほど綺麗であった。
音に色はないけれど、自然と笑みがこぼれる。
音に香はないけれど、自然と涙がこぼれる。
私は、この部屋の中で一体いくつの音の波を感じ続けていったのだろう
小さく微かで、聞き逃してしまいそうな音たちが再び生まれるまで、また私は静かに待っている。
私自身が音を出さない様に
私自身が音を作り出さない様に
自然と流れる音を聞き逃さない様に
私はまた、閉じこもる。
新たな音の波が、私を起してくれるまで―――
小さな脆い殻の中に。