相場の掲示板#3
午後零ベル、俺は西通りのセブン・ヴォルト両替屋に向かった。
店は、街の西側にある小さな建物だった。
中に入ると、受付に若い男が座っていた。
「いらっしゃいませ。両替ですか?」
「いえ、相場を確認したいんです」
「相場……?」
受付の男は、壁に貼られた紙を指差した。
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【セブン・ヴォルト両替相場】
クラウン → シルバ: 1クラウン = 22シルバ
シルバ → カッパ: 1シルバ = 9カッパ
クラウン → カッパ: 1クラウン = 198カッパ
手数料: 両替額の5%
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——やっぱりだ。
1クラウン=22シルバ——名目より3枚も安い。
しかも、手数料が5%——レギス・レジャーの五倍だ。
「この相場、なぜこんなに安いんですか?」
「市場が荒れてるからです」
「市場が荒れている……どういう意味ですか?」
「クラウンの需要が減ってるんです。だから、価値が下がってます」
「本当ですか?」
「本当ですよ」
受付の男は、にやりと笑った。
「信じられないなら、他の店にも聞いてみてください」
「……わかりました」
俺は、店を出た。
そして——他の両替屋を回った。
東通りの両替屋:1クラウン=24シルバ
南通りの両替屋:1クラウン=23シルバ
北通りの両替屋:1クラウン=25シルバ
——バラバラだ。
店ごとに、相場が違う。
しかも、どの店も「市場が荒れている」と言う。
だが——実際には、市場は荒れていない。
これは——意図的な相場操作だ。
セブン・ヴォルトが、他の両替屋に圧力をかけて、相場を下げさせている。
そして——商人たちを混乱させている。
「レギス・レジャーだって、相場を操作してるんじゃないか?」
そう思わせるために。
——だが、それも無駄だ。
俺は、レギス・レジャーに戻った。
そして——実務長に報告した。
「実務長、セブン・ヴォルトが相場を操作しています」
「相場を操作……?」
「はい。他の両替屋に圧力をかけて、相場を下げさせています」
「なるほど……」
実務長は、険しい顔をした。
「それで、商人たちを混乱させて、うちの信用を落とそうとしているのか」
「そうです」
「では、どうする?」
「掲示板を使います」
「掲示板?」
「はい。街中の両替相場を、全部調べて公開します」
「全部?」
「ええ。レギス・レジャーだけでなく、セブン・ヴォルトや他の両替屋の相場も、全部掲示板に貼り出します」
「それは……」
実務長は、少し驚いたように俺を見た。
「セブン・ヴォルトの相場も公開するのか?」
「はい。そうすれば、どの店が不当な相場を使っているか——誰でもわかります」
「なるほど……」
実務長は、満足そうに頷いた。
「それは、いい作戦だな」
「ありがとうございます」
俺は、事務室に戻り、新しい掲示板を作った。
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【グラン・バルト両替相場一覧表】
掲示日: 銀章暦三二年コナト月二九日 午後零ベル更新
店名 | クラウン→シルバ | 手数料
レギス・レジャー | 1=25 | 1%
セブン・ヴォルト西店 | 1=22 | 5%
東通り両替屋 | 1=24 | 3%
南通り両替屋 | 1=23 | 4%
北通り両替屋 | 1=25 | 2%
名目相場: 1クラウン = 25シルバ
注意:
相場は店ごとに異なります。
両替前に、必ず相場と手数料を確認してください。
不当な相場を使う店には、ご注意ください。
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「これなら、一目瞭然ですね」
ミラが言った。
「ええ。セブン・ヴォルトが、いかに不当な相場を使っているか——誰でもわかります」
「これを、広場に貼るんですか?」
「はい」
俺は、掲示板を持って再び中央広場に向かった。
そして——先ほどの掲示板の隣に、新しい掲示板を貼り付けた。
すぐに、商人たちが集まってきた。
「おお、これは……」
「全部の店の相場が載ってる!」
「セブン・ヴォルトは1クラウンが22シルバか……ずいぶん安いな」
「しかも、手数料が5%もある!」
「レギス・レジャーは1クラウンが25シルバで、手数料1%か。一番いいじゃないか」
商人たちは、口々に言った。
俺は、その様子を見ながら、思った。
——これで、セブン・ヴォルトの不正が、さらに明らかになった。
相場操作も、透明性の前には無力だ。
その日の夕方——午後三ベル——俺は城に呼ばれた。
侯爵様が、掲示板を見たらしい。
謁見の間に入ると、侯爵様が座っていた。
「レオン・ミナト、よく来た」
「お呼びいただき、ありがとうございます」
「お前が作った掲示板、見たぞ」
「はい」
「相場の一覧表——あれは、素晴らしい」
「ありがとうございます」
「市場の透明性——それこそが、街の秩序を守る鍵だ」
侯爵様は、満足そうに頷いた。
「明日の公開裁判でも、その透明性を示せ」
「はい」
「セブン・ヴォルトの不正を、民衆の前で明らかにする。そして、この街の金融を、正しい方向に導け」
「必ず、やり遂げます」
俺は、深く頭を下げた。
侯爵様は、立ち上がった。
「期待している」
俺は、城を出た。
外に出ると、夕日が街を照らしていた。
明日が、勝負だ。
公開裁判で、セブン・ヴォルトを裁く。
そして——この街の金融を、完全に掌握する。
俺は、拳を握りしめた。
その夜、俺は宿で最終準備をしていた。
証拠、説明台本、反論への対策——全部、もう一度確認する。
そして——もう一つ、重要なことを考えた。
相場の公開掲示板——これは、明日の裁判でも武器になる。
「セブン・ヴォルトは、不当な相場を使っている」
「証拠は、掲示板にあります」
「1クラウンが22シルバ——名目より3枚も安い」
「これは、商人を騙す行為です」
——こう主張すれば、民衆も納得する。
そして、セブン・ヴォルトの不正が、さらに明らかになる。
俺は、台本にその内容を追加した。
窓の外では、鐘が鳴っていた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
六回。
午前零ベル——深夜だ。
明日が、来る。
公開裁判の日が。
俺は、ベッドに横になった。
だが——なかなか眠れなかった。
頭の中で、明日の展開を何度もシミュレーションする。
セブン・ヴォルトの反論。
民衆の反応。
侯爵様の判断。
——全部、予想して、準備する。
ようやく眠りについたのは、午前二ベルを過ぎた頃だった。
そして——次に目を覚ましたとき、空はもう明るくなっていた。
銀章暦三二年、コナト月三〇日。
公開裁判の日が、来た。




