相場の掲示板#2
「実務長、相場の公開掲示板を作りたいんです」
「相場の公開掲示板?」
「はい。毎日の両替相場を、街の中央広場に貼り出します」
実務長は、少し考えた。
「それは……いい案だな」
「ありがとうございます」
「だが、誰が相場を決める?」
「それが、問題なんです」
俺は、正直に言った。
「今は、相場が曖昧です。店ごとに違う相場を使っています」
「ああ、そうだな」
「だから、まずレギス・レジャーの相場を基準にしたいんです」
「うちの相場を?」
「はい。レギス・レジャーは、公的な機関です。だから、うちの相場を街の基準相場にする」
「なるほど……」
実務長は、頷いた。
「だが、セブン・ヴォルトは反対するだろうな」
「反対されても構いません。公開裁判の後なら、セブン・ヴォルトの力は弱まっているはずです」
「そうか……」
実務長は、少し考えた。
「わかった。やってみろ」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
そして——事務室に戻り、相場掲示板の準備を始めた。
まず、掲示板の書式を作る。
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【レギス・レジャー公式両替相場】
掲示日: 銀章暦___年___月___日 午前___ベル更新
クラウン → シルバ: 1クラウン = ___シルバ
シルバ → カッパ: 1シルバ = ___カッパ
クラウン → カッパ: 1クラウン = ___カッパ
逆両替:
シルバ → クラウン: ___シルバ = 1クラウン
カッパ → シルバ: ___カッパ = 1シルバ
カッパ → クラウン: ___カッパ = 1クラウン
手数料: 両替額の1%(最低カッパ5枚)
注意事項:
この相場は、レギス・レジャー窓口での両替に適用されます。
相場は、需要と供給により変動します。
相場は、毎日午前三ベルと午後零ベルに更新されます。
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「これで、どうでしょう」
俺は、ミラに見せた。
「わかりやすいですね」
「ええ。これなら、誰でも相場がわかります」
「でも、レオンさん」
「はい?」
「相場は、どうやって決めるんですか?」
「それは……」
俺は、少し考えた。
相場を決める方法——それは、難しい問題だ。
現代なら、市場取引で自動的に決まる。
だが、この世界にはそんな仕組みがない。
だから——手動で決めるしかない。
「金庫の在庫を見て決めます」
「在庫?」
「はい。たとえば、金庫にクラウンがたくさんあって、シルバが少なければ——クラウンの価値を下げて、シルバの価値を上げます」
「なるほど……」
「そうすれば、商人たちはクラウンを持ってきて、シルバに両替します。金庫のバランスが保たれます」
「わかりました」
ミラは、頷いた。
「じゃあ、今日の相場を決めましょう」
俺とミラは、金庫の在庫を確認した。
クラウン:72枚
シルバ:1,850枚
カッパ:4,200枚
俺は、計算した。
名目レートは、1クラウン=25シルバ=250カッパ。
もしこのレートなら、クラウン72枚は、シルバ換算で1,800枚に相当する。
現在の在庫は、シルバが1,850枚。
ほぼバランスが取れている。
「今日の相場は、名目通りでいいでしょう」
「1クラウンが、25シルバですね」
「はい」
俺は、掲示板に書き込んだ。
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【レギス・レジャー公式両替相場】
掲示日: 銀章暦三二年コナト月二九日 午前三ベル更新
クラウン → シルバ: 1クラウン = 25シルバ
シルバ → カッパ: 1シルバ = 10カッパ
クラウン → カッパ: 1クラウン = 250カッパ
逆両替:
シルバ → クラウン: 25シルバ = 1クラウン
カッパ → シルバ: 10カッパ = 1シルバ
カッパ → クラウン: 250カッパ = 1クラウン
手数料: 両替額の1%(最低カッパ5枚)
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「完成です」
俺は、掲示板を持って街の中央広場に向かった。
中央広場は、街の中心にある大きな広場だ。
明日、ここで公開裁判が開かれる。
俺は、広場の端に木の板を立て、掲示板を貼り付けた。
すぐに、商人たちが集まってきた。
「何だこれ?」
「両替相場だ」
「レギス・レジャーの相場か……」
「1クラウンが、25シルバ……ふむ、名目通りだな」
「手数料は1%か。安いな」
商人たちは、満足そうに頷いていた。
俺は、その様子を見ながら、思った。
——これで、透明性が保たれる。
相場を公開すれば、不透明な手数料を取る店は淘汰される。
そして——市場が、もっと公正になる。
だが——その時、ある商人が俺に声をかけてきた。
「レオン殿、ちょっといいか?」
「はい、何でしょう」
「わたしは、昨日セブン・ヴォルトで両替をしたんだが……」
商人——ヴェルナー——は、困った顔をした。
「相場が、おかしかったんだ」
「おかしい?」
「ああ。1クラウンが、22シルバだった」
「22シルバ……それは、安すぎますね」
「だろ?名目では25シルバなのに、3枚も損した」
「なぜ、そんな相場だったんですか?」
「店員は、『今日は市場が荒れている』って言ってた」
「市場が荒れている……」
俺は、眉をひそめた。
「それは、おかしいですね。昨日は、特に市場が荒れるような出来事はありませんでした」
「だろ?だから、騙されたんじゃないかと思って……」
「セブン・ヴォルトの店は、どこですか?」
「西通りの両替屋だ」
「わかりました。確認してみます」
俺は、ヴェルナーに頭を下げた。
そして——心の中で、呟いた。
——セブン・ヴォルト、また何かやってるな。
公開裁判の前日に、相場を操作して混乱を起こす。
それで、レギス・レジャーの信用を落とそうとしているのか?
だが——それも、見抜いてる。
俺は、胸の奥で大きく頷いた。




