相場の掲示板#1
公開裁判の前日——レギス・レジャーの窓口には、朝から騒ぎが起きていた。
「どういうことだ! 昨日と相場が違うじゃないか!」
一人の商人——エルンスト——が、怒鳴っていた。
「申し訳ありません。相場は毎日変動します」
窓口担当のダリウスが、説明しようとした。
だが、エルンストは聞く耳を持たなかった。
「昨日はクラウン1枚が25シルバだったのに、今日は24シルバだと! 1枚も損するじゃないか!」
「それは……市場の相場が下がったからです」
「市場の相場? そんなもの、誰が決めてるんだ!」
「それは……」
ダリウスは、言葉に詰まった。
俺は、カウンターの奥からエルンストのところに行った。
「エルンストさん、落ち着いてください」
「お前は……レオンか」
「はい。何があったんですか?」
「何があったも何も! 昨日と今日で相場が違うんだ!こんなの、詐欺じゃないか!」
「詐欺ではありません。相場は、日々変動します」
「なぜだ!」
「需要と供給のバランスが変わるからです」
俺は、紙に簡単な図を描いた。
「たとえば、クラウン金貨を欲しい人が多ければ、クラウンの価値が上がります。逆に、シルバ銀貨を欲しい人が多ければ、シルバの価値が上がります」
「……よくわからん」
「では、別の例で。パンを考えてください」
「パン?」
「はい。もし街にパンを買いたい人が百人いて、パンが五十個しかなければ——パンの値段は上がりますよね?」
「ああ、それはわかる」
「逆に、パンが200個あって、買いたい人が50人しかいなければ——パンの値段は下がります」
「なるほど……」
「両替も同じです。クラウンを欲しい人が多ければ、クラウンの価値が上がる。シルバを欲しい人が多ければ、シルバの価値が上がる」
「じゃあ……昨日と今日で、何が変わったんだ?」
「たぶん、昨日は多くの商人がクラウンを欲しがっていた。でも、今日はシルバを欲しがる人が多い」
「……そうなのか」
エルンストは、少し納得したように頷いた。
だが——まだ不満そうだった。
「でも、それなら相場を事前に教えてくれよ。そうすれば、損しないで済む」
「事前に……」
俺は、少し考えた。
相場を事前に知る——それは、難しい。
なぜなら、相場は需要と供給で決まるから。
事前にはわからない。
だが——少なくとも、現在の相場を公開することはできる。
「エルンストさん、提案があります」
「提案?」
「毎日の両替相場を、公開掲示板に貼り出します」
「公開掲示板?」
「はい。街の中央広場に、掲示板を設置します。そこに、その日の両替相場を貼り出す。誰でも見られるようにします」
「それなら……わかりやすいな」
「ええ。そうすれば、相場がいくらか——誰でもすぐにわかります」
「なるほど……」
エルンストは、満足そうに頷いた。
「じゃあ、それを頼む」
「わかりました」
俺は、エルンストに頭を下げた。
そして——実務長のところに行った。




