時間代という名#6
その日の夕方、俺は窓口で商人たちに告知した。
「皆さん、お知らせがあります」
商人たちが、集まってきた。
「三日後、コナト月三〇日に、セブン・ヴォルトの公開裁判が開かれます」
「公開裁判!?」
「場所は、街の中央広場です。午前三ベルです」
「誰でも見られるのか?」
「はい。公開ですから、誰でも見られます」
「よし、行くぞ!」
商人たちは、興奮した様子だった。
だが——その中に、一人だけ不安そうな顔をしている者がいた。
商人クラウス。
彼は、セブン・ヴォルトと取引がある商人だ。
「レオン殿、ちょっといいか?」
「はい、何でしょう」
クラウスは、俺を脇に連れて行った。
そして、小声で言った。
「公開裁判……大丈夫なのか?」
「大丈夫とは?」
「セブン・ヴォルトは、まだ力を持っている。もし、セブン・ヴォルトが裁判に勝ったら……」
「勝ったら?」
「お前たちが、潰されるかもしれん」
「……」
俺は、クラウスを真っ直ぐ見た。
「潰されても、構いません」
「何?」
「正しいことをするなら、リスクは覚悟しています」
「だが……」
「クラウスさん、あなたはセブン・ヴォルトを信用していますか?」
「……いや」
「では、なぜ彼らと取引を?」
「……他に選択肢がなかったからだ」
「今は、あります」
俺は、窓口を指差した。
「レギス・レジャーがあります。約束札、預かり札、時間代——全部、透明です」
「……」
「だから、安心してください。公開裁判で、真実が明らかになります」
クラウスは、しばらく黙っていた。
そして——小さく頷いた。
「……わかった。お前を信じる」
「ありがとうございます」
俺は、クラウスの肩を軽く叩いた。
その夜、俺は宿で公開裁判の準備をしていた。
証拠を整理し、説明の順序を考える。
まず、罠の銀貨の証拠。
次に、壁の穴の証拠。
そして、セラドの自白。
これらを、順序立てて説明すれば——民衆も理解できるはずだ。
だが——セブン・ヴォルトも、反論してくるだろう。
どんな反論が来るか、予想して対策を立てる必要がある。
たとえば——
「罠の銀貨は、レギス・レジャーが勝手に作ったものだ。証拠にならない」
→反論:「罠の銀貨の特徴は、事前に記録している。侯爵様の調査官も確認している」
「壁の穴は、ネズミが開けたものだ」
→反論:「穴の縁に銀の粉が付着している。ネズミが銀貨を運ぶことはできない」
「セラドの自白は、強要されたものだ」
→反論:「調査官の立ち会いのもとで自白している。強要の証拠はない」
俺は、反論と対策を紙に書き出した。
そして——もう一つ、重要なことを考えた。
民衆の心を掴む方法。
公開裁判では、証拠だけでなく、民衆の感情も重要だ。
民衆がレギス・レジャーを支持すれば、勝てる。
逆に、セブン・ヴォルトを支持すれば、負ける。
では、どうすれば民衆の心を掴めるか?
——わかりやすく、簡潔に説明する。
民衆の多くは、複雑な話を理解できない。
だから、できるだけ簡単な言葉で、短く説明する。
そして——感情に訴える。
「セブン・ヴォルトは、あなたたちの金庫から銀貨を盗んだ」
「あなたたちの信用を裏切った」
「これを許せますか?」
——こういう問いかけをすれば、民衆は怒る。
そして、レギス・レジャーを支持する。
俺は、紙に説明の台本を書き、何度も読み返した。
——これなら、民衆に伝わるはずだ。
あとは、当日しっかり話すだけだ。
俺は、紙を畳んで机の引き出しにしまった。
窓の外では、鐘が鳴っていた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
五回。
午後五ベル。
三日後が、勝負だ。
公開裁判で、セブン・ヴォルトを裁く。
そして——この街の金融を、完全に掌握する。
俺は、拳を握りしめた。
翌日——銀章暦三二年、コナト月二八日——街中に、ある噂が広がった。
「セブン・ヴォルトが、民衆に金を配ってるらしいぞ」
「金を配る?」
「ああ。『公開裁判で、セブン・ヴォルトを支持してくれたら、シルバ5枚やる』って」
「5枚も!?」
俺は、その噂を聞いて、顔をしかめた。
——やっぱり、来たか。
セブン・ヴォルトの買収作戦。
民衆を金で釣って、支持を集める。
だが——それも、想定内だ。
俺は、ミラに言った。
「ミラさん、街中に告知を貼ってください」
「告知?」
「ええ。『公開裁判で買収を受けた者は、後で罰せられる』——そう書いてください」
「わかりました」
ミラは、告知文を書いて、街中に貼りに行った。
俺は、窓口で商人たちに説明した。
「皆さん、セブン・ヴォルトが買収をしているようです」
「ああ、聞いたぞ」
「ですが、買収を受ければ、後で罰せられます。侯爵様の命令です」
「本当か?」
「はい。公開裁判は、公正に行われなければなりません。買収は、公正さを損ないます」
「なるほど……」
商人たちは、納得したように頷いた。
俺は、心の中で呟いた。
——セブン・ヴォルト、お前たちの手口は読めてる。
金で民衆を釣ろうとしても、無駄だ。
公正さを守る——それが、俺たちの武器だ。
あと二日。
公開裁判まで、あと二日。
俺は、準備を続けた。




