表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界金融帳実務録 ~転生銀行員が金融知識で成り上がる~  作者: しじむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/60

時間代という名#5

『ルナの織物』に着くと、ちょうどアデル様が店から出てくるところだった。


「アデル様」


俺は、声をかけた。

アデル様は、振り向いて俺を見た。


「あら……レオンさん?」


「はい。お久しぶりです」


「どうしたんですか? 何か用事ですか?」


「はい。侯爵様に、お会いしたいんです」


「父に……?」


アデル様は、少し驚いたように俺を見た。


「何かあったんですか?」


「セブン・ヴォルトの裁きが、延期され続けています」


「延期……」


「はい。評議会が、圧力に屈しているようです」


「……そうなんですか」


アデル様は、困った顔をした。


「父も、それは知っていると思います」


「では、なぜ動かないんですか?」


「それは……評議会の自治を尊重しているからです」


「自治……」


「はい。評議会は、商人と貴族の自治組織です。侯爵が直接介入すると、自治が崩れます」


「ですが、評議会が機能していないなら——」


「それでも、父は慎重です」


アデル様は、小さくため息をついた。


「父は、街の秩序を大切にしています。だから、簡単には動きません」


「なるほど……」


俺は、少し考えた。

侯爵が動かないなら——別の方法が必要だ。


「アデル様、提案があります」


「提案?」


「公開裁判を開いてもらえませんか?」


「公開裁判……?」


「はい。評議会の密室ではなく、街の広場で公開裁判を開く。民衆の前で、セブン・ヴォルトの不正を明らかにする」


「それは……」


アデル様は、少し迷ったように俺を見た。


「父が、認めるでしょうか……」


「認めてもらえるように、説得します」


「どうやって?」


「証拠があります」


俺は、懐から罠の銀貨の記録を取り出した。


「これが、セブン・ヴォルトの不正の証拠です。そして——」


俺は、もう一枚の紙を取り出した。


「これが、評議会の延期通知です。三回も延期されています」


「三回……」


「はい。これは、明らかに不当です。民衆も、それを知れば怒るでしょう」


「……」


アデル様は、しばらく黙っていた。

そして——頷いた。


「わかりました。父に伝えます」


「ありがとうございます」


「ただし……約束はできません」


「それでも構いません」


俺は頭を下げた。

アデル様は、護衛を連れて馬車に乗り込んだ。

馬車は、城に向かって走っていった。

俺と実務長は、その様子を見送った。


「これで、動いてくれるといいんだが……」


実務長が呟いた。


「動いてくれます」


俺は、確信を持って言った。


「アデル様は、正義感が強い方です。必ず、侯爵様を説得してくれます」


「そうか……」


実務長は、少し安心したように頷いた。


その日の午後——午後二ベル——城から使者が来た。


「レギス・レジャーの実務長殿とレオン・ミナト殿、侯爵様がお呼びです」


「本当ですか!」


俺は、目を輝かせた。


「すぐに参ります」


俺と実務長は、城に向かった。


城は、街の中央にある大きな石造りの建物だ。


門をくぐり、謁見の間に通された。

謁見の間は、広く、天井が高い。

奥には、侯爵——アルフレート——が座っていた。

白髪を整え、威厳のある顔をしている。

その隣には、アデル様が立っていた。


「レギス・レジャーの実務長、ローデリク・グラントと、行員レオン・ミナト——参りました」


実務長が、膝をついて頭を下げた。

俺も、同じように頭を下げた。


「顔を上げよ」


侯爵の声が、響いた。

俺たちは、顔を上げた。


「娘から聞いた。セブン・ヴォルトの裁きが、延期され続けていると」


「はい、侯爵様」


実務長が答えた。


「三回も延期されております」


「ふむ……」


侯爵は、腕を組んだ。


「評議会の自治を尊重したいが……これは、明らかに不当だな」


「はい」


「公開裁判を開け、と?」


「はい、侯爵様」


俺が、前に出た。


「評議会の密室では、圧力に屈します。ですが、民衆の前で裁けば、圧力は無力になります」


「民衆の前で……」


侯爵は、少し考えた。


「それは、前例がないぞ」


「ですが、必要です」


「なぜだ?」


「セブン・ヴォルトの不正は、街全体に影響を与えています。金庫から銀貨を盗む——それは、街の商人全員への裏切りです」


「……」


「だから、裁きも公開すべきです。民衆が見ている前で、不正を明らかにし、裁く。それが、街の秩序を守る道です」


侯爵は、しばらく黙っていた。

そして——頷いた。


「わかった。公開裁判を開こう」


「本当ですか!」


「ああ。三日後——コナト月三〇日、午前三ベルに、街の中央広場で開く」


「ありがとうございます!」


俺と実務長は、深く頭を下げた。


「ただし、条件がある」


「条件?」


「ああ。公開裁判では、双方が証拠を提示する。セブン・ヴォルト側も、弁明の機会を与える」


「それは当然です」


「そして、判決は民衆の声も参考にする」


「民衆の声……?」


「ああ。公開裁判だからな。民衆が、どちらが正しいと思うか——それも、判断材料にする」


「わかりました」


侯爵は、立ち上がった。


「では、準備せよ。三日後だ」


「はい」


俺たちは、城を出た。

外に出ると、実務長が言った。


「レオン、やったな」


「はい」


「だが、これからが本番だ」


「はい」


「セブン・ヴォルトも、黙ってはいないだろう。民衆を味方につける作戦を立ててくるはずだ」


「民衆を味方に……」


「ああ。たとえば——『レギス・レジャーは、不当に高い時間代を取っている』とか、『セブン・ヴォルトは、街の商人を支えてきた』とか——そういう宣伝をするだろう」


「なるほど……」


「だから、お前も準備しろ」


「はい」


俺は、拳を握りしめた。


三日後の公開裁判——それが、勝負だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ