時間代という名#2
実務長の部屋をノックすると、中から声がした。
「入れ」
俺は扉を開けて入った。
実務長は、机に向かって書類を読んでいた。
「レオンか。どうした?」
「実務長、利息の計算について相談があります」
「利息の計算?」
「はい。商人たちが、計算方法を理解できていません」
「……ああ、そうだろうな」
実務長は、苦い顔をした。
「複利は、わかりにくい」
「ですから、わかりやすい表を作りたいんです」
「表?」
「はい。借入額と期間を見れば、利息がすぐにわかる——そういう表です」
「なるほど……」
実務長は、少し考えた。
「だが、このまま複利で計算するのか?それとも単利か?」
「それを、相談したかったんです」
「ふむ……」
実務長は、腕を組んだ。
「複利の方が、商人たちには難しい」
「はい」
「単利なら、簡単だが……うちの利益が減る」
「そうですね……」
俺は、紙に計算を書いた。
「たとえば、100枚を一年間借りた場合——」
「複利(月利1パーセント):100枚×(1.01)の12乗=約112.7枚」
「単利(月利1パーセント):100枚+(100枚×1パーセント×12ヶ月)=112枚」
「差額:0.7枚」
「0.7枚……」
実務長は、計算を見た。
「確かに、差は小さいな」
「はい。短期の借入なら、複利と単利の差はほとんどありません」
「なるほど……」
「ですから、提案があります」
「提案?」
「短期(一年以内)は単利、長期(一年以上)は複利——こう分けてはどうでしょう」
「短期と長期で分ける、か……」
実務長は、少し考えた。
「それは、いい案だな」
「ありがとうございます」
「それとだが、一つ問題が起こりそうだ」
「問題?」
「ああ。利息を取ることに、反対する者がいる」
「反対……?」
「ああ。宗教勢力だ」
実務長は、声を低めた。
「街には、『聖なる光の教会』という宗教組織がある」
「聖なる光の教会……」
「ああ。彼らは、『利を取るのは罪だ』と主張している」
「利を取るのは罪……」
俺は、少し驚いた。
現代でも、イスラム教には利息禁止の教えがある。
この世界にも、似たような宗教があるのか。
「ですが、利息がなければ、貸し出しができません」
「そうだ。だから、俺たちは利息を取っている」
「教会は、それを知っているんですか?」
「知っている。だが、今まではセブン・ヴォルトが主なターゲットだった。セブン・ヴォルトは高利だからな」
「なるほど……」
「だが、お前たちが約束札や預かり札で市場を広げたことで——教会の目が、こちらにも向き始めている」
「それは……まずいですね」
「ああ。だから、気をつけろ」
実務長は、俺を真っ直ぐ見た。
「利息を『利息』と呼ぶな」
「利息と呼ぶな……?」
「ああ。別の言葉を使え。たとえば——『時間代』とか」
「時間代……」
俺は、その言葉を反芻した。
「金を借りる時間に対する対価——という意味ですね」
「そうだ。それなら、教会も文句を言いにくい」
「なるほど……」
「そして、時間代の計算を、できるだけ透明にしろ」
「透明?」
「ああ。誰が見ても、計算方法がわかるようにする。そうすれば、『不当に高い利を取っている』と言われにくい」
「わかりました」
俺は頭を下げた。
「時間代の表を作ります。そして、計算方法も公開します」
「頼んだぞ」
実務長は、再び書類に目を戻した。
俺は、部屋を出た。
そして——事務室に戻り、時間代の表を作り始めた。
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【時間代計算表(短期・単利方式)】
借入額 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 6ヶ月 | 12ヶ月
シルバ50枚 | 0.5枚 | 1枚 | 1.5枚 | 3枚 | 6枚
シルバ100枚 | 1枚 | 2枚 | 3枚 | 6枚 | 12枚
シルバ150枚 | 1.5枚 | 3枚 | 4.5枚 | 9枚 | 18枚
シルバ200枚 | 2枚 | 4枚 | 6枚 | 12枚 | 24枚
シルバ500枚 | 5枚 | 10枚 | 15枚 | 30枚 | 60枚
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計算方法:
時間代 = 借入額 × 月利1% × 借入月数
例:
シルバ100枚を3ヶ月借りた場合
時間代 = 100枚 × 1% × 3ヶ月 = 3枚
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「これなら、わかりやすいですね」
ミラが、表を見て言った。
「ええ。商人たちも、すぐに理解できるはずです」
「でも、レオンさん」
「はい?」
「『時間代』って、何ですか?」
「利息の別名です」
「なぜ、利息と呼ばないんですか?」
「……宗教上の理由です」
俺は、実務長から聞いたことを説明した。
ミラは、少し不安そうな顔をした。
「教会が、反対してくるんですか……」
「かもしれません。だから、できるだけ透明にして、文句を言われないようにします」
「わかりました……」
ミラは、頷いた。
俺は、表を窓口に貼り出した。
そして——商人たちに説明した。
「皆さん、これから利息のことを『時間代』と呼びます」
商人たちが、ざわついた。
「時間代?」
「何だそれ?」
「ええ。金を借りる時間に対する対価です」
俺は、表を指差した。
「この表を見てください。借りた金額と期間を見れば、時間代がすぐにわかります」
「おお……わかりやすいな」
「計算方法も公開しています。誰でも確認できます」
「それなら、安心だ」
商人たちは、納得したように頷いた。
ルートヴィヒも、表を見て満足そうだった。
「これなら、わかる。ありがとう、レオン殿」
「どういたしまして」
俺は、微笑んだ。
だが——その日の午後、問題が起きた。




