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異世界金融帳実務録 ~転生銀行員が金融知識で成り上がる~  作者: しじむ


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42/60

街道の魔物#3

午後零ベル、俺は冒険者ギルドに向かった。

冒険者ギルドは、街の西側にある大きな建物だ。


中に入ると、武装した冒険者たちが集まっていた。

受付には、若い女性が座っていた。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」


「ギルドマスターに会いたいんですが」


「ギルドマスター……用件を教えていただけますか?」


「輸送護衛の契約について、相談したいんです」


「輸送護衛……少々お待ちください」


そう言うと、受付の女性は奥に引っ込んだ。


しばらくして、大柄な男が出てきた。

髭を蓄え、傷だらけの顔をしている。


「おう、お前が相談したいって奴か?」


「はい。レギス・レジャーのレオン・ミナトです」


「俺は、ギルドマスターのブルーノだ。で、用件は?」


「輸送護衛の契約を見直したいんです」


「見直す?」


「はい。今の契約は、曖昧すぎます。護衛の人数、費用、責任範囲——それらを明確にしたいんです」


「ふむ……」


ブルーノは、腕を組んだ。


「じゃあ、こっちに来い」


彼は、奥の部屋に俺を案内した。

部屋には、大きな机と、壁一面に地図が貼られていた。

地図には、街道や村の位置が描かれている。


「これが、グラン・バルト周辺の地図だ」


ブルーノが、地図を指差した。


「街道は、全部で五本ある。東、西、南、北、それに北東だ」


「はい」


「で、それぞれの街道に、危険度がある」


ブルーノは、地図の脇に書かれた表を指差した。


----------------------------------------

【街道危険度表】

東街道: 危険度中(魔物出現率: 月に三〜五回)

西街道: 危険度低(魔物出現率: 月に一〜二回)

南街道: 危険度高(魔物出現率: 月に七〜十回)

北街道: 危険度中(魔物出現率: 月に四〜六回)

北東街道: 危険度低(魔物出現率: 月に一〜三回)

----------------------------------------


「これを見れば、どの街道が危ないか、わかるだろ?」


「はい。東街道は危険度中、ですね」

「ああ。今朝の襲撃も、東街道だ」


「グリュンハイムへは、東街道を通るんですか?」


「そうだ。東門から10リル先だからな」


「護衛は、何人必要ですか?」


「危険度中の街道なら、最低三人だ。できれば四人」


「二人では、足りないんですね」


「ああ。二人だと、魔物の群れに対応できない」


ブルーノは、地図の別の場所を指差した。


「魔物は、群れで動く。狼型なら、三匹から七匹の群れだ。二人の冒険者じゃ、五匹の群れには勝てない」


「なるほど……」


「で、護衛費用だが——」


ブルーノは、別の紙を取り出した。


----------------------------------------

【護衛費用表】

危険度低: 1人あたりシルバ3枚(最低2人)

危険度中: 1人あたりシルバ5枚(最低3人)

危険度高: 1人あたりシルバ7枚(最低4人)

----------------------------------------


「これが、基本料金だ」


「わかりました」


「ただし、輸送する金額が大きければ、追加料金がかかる」


「追加料金?」


「ああ。シルバ200枚以上なら、1割増し。500枚以上なら、2割増しだ」


「なぜですか?」


「金額が大きいと、盗賊に狙われやすい。魔物だけじゃなく、人間の敵も来る。だから、警戒が必要になる」


「なるほど……」


俺は、計算した。


----------------------------------------

東街道、危険度中。

最低三人、1人あたり5枚。

基本料金:5枚×3人=15枚。

輸送額200枚なら、1割増し。

総額:15枚×1.1=16枚半。

----------------------------------------


「では、今朝の輸送なら、護衛費用は16枚半必要だったんですね」


「そうだ。だが、お前たちは10枚しか払わなかった。だから、二人しか雇えなかった」


「……申し訳ありません」


「いや、謝る必要はない。契約が曖昧だったのは、俺たちの責任でもある」


ブルーノは、肩をすくめた。


「で、これからはどうする?」


「この費用表を使わせてください。そして、契約書を作ります」


「契約書?」


「はい。護衛の人数、費用、責任範囲——それらを明記した契約書です」


「なるほど……それなら、トラブルが減るな」


「ええ。そして、もう一つお願いがあります」


「何だ?」


「事故率を教えてください」


「事故率?」


「はい。過去一年間で、輸送中に魔物に襲われて銀貨を失った回数を」


「ああ……ちょっと待ってろ」


ブルーノは、棚から古い帳面を取り出した。

ページをめくりながら、数えていく。


「……去年一年間で、輸送護衛の依頼は120回あった」


「はい」


「そのうち、魔物に襲われたのは15回」


「15回……」


「で、銀貨を失ったのは……4回だ」


「4回ですか」


「ああ。残りの11回は、何とか撃退できた」


俺は、計算した。


----------------------------------------

総依頼数:120回

事故発生(銀貨喪失):4回

事故率:4÷120=約3.3パーセント

----------------------------------------


「わかりました。ありがとうございます」


「おう。他に何か?」


「いえ、これで十分です」


俺は頭を下げた。


「ありがとうございました」


「おう。また何かあったら、来てくれ」


ブルーノは、豪快に笑った。


俺は、冒険者ギルドを出た。

そして——レギス・レジャーに戻る途中、考えた。


事故率が3.3パーセント。

つまり、100回輸送すれば、3回は事故が起きる。

平均輸送額を200枚とすると——


----------------------------------------

総輸送額:200枚×100回=20,000枚

総損失:200枚×3回=600枚

損失率:600÷20,000=3パーセント

----------------------------------------


だから、保険料を輸送額の5パーセント取れば——


----------------------------------------

保険料収入:20,000枚×5パーセント=10,000枚

補償支出:600枚

利益:400枚

----------------------------------------


——これなら、運用できる。


俺は、拳を握りしめた。

輸送保険の仕組みができた。

あとは、実務長に提案して、導入するだけだ。


その日の午後——俺は実務長に報告した。


「実務長、冒険者ギルドと話してきました」


「どうだった?」


「護衛費用と事故率がわかりました」


俺は、紙に書いた計算を見せた。

実務長は、それを読んで頷いた。


「なるほど……保険料を5パーセント取れば、利益が出るのか」


「はい。ただし、事故率が想定より高くなれば、赤字になります」


「では、どうする?」


「最初は、慎重に運用します。保険料を6パーセントに設定して、余裕を持たせます」


「6パーセント……」


「それでも、セブン・ヴォルトよりは安いです」


「セブン・ヴォルト?」

「ええ。彼らも、輸送保険を提供していると聞きました」


「……そうなのか?」


「はい。ヨアヒムさんから聞きました」


俺は、午前中にヨアヒムと話したことを思い出した。


「セブン・ヴォルトの輸送保険は、保険料が1割だそうです」


「1割……高いな」


「ええ。だから、俺たちが6パーセントで提供すれば、商人たちは俺たちを選びます」


「なるほど……」


実務長は、満足そうに頷いた。


「よし。輸送保険を導入しよう」


「ありがとうございます」


「ただし、条件がある」


「条件?」


「保険を使うには、俺たちが指定する護衛を雇うこと。冒険者ギルドの基準を満たす人数と装備をでな」


「それは当然です」


「それから、引き継ぎ記録を必ず残すこと」


「はい」


「よし。じゃあ、契約書の書式を作ってくれ」


「わかりました」


俺は、事務室に戻り、新しい契約書を作り始めた。


----------------------------------------

【輸送護衛契約書】

契約日: 銀章暦___年___月___日

依頼者: _____________

輸送先: _____________

輸送額: シルバ___枚


護衛条件:

街道: ___街道(危険度: ___)

護衛人数: 最低___人

護衛費用: 一人あたりシルバ___枚

総費用: シルバ___枚


輸送保険:

保険加入: □ あり □ なし

保険料: 輸送額の六パーセント(シルバ___枚)

補償額: 輸送額の全額


責任範囲:

第一区間(レギス・レジャー→___): 責任者___

第二区間(→): 責任者___

第三区間(→輸送先): 責任者


引き継ぎ記録:

各区間の引き継ぎ時に、必ず記録を残すこと。


署名:

依頼者: _____________

レギス・レジャー: _____________

冒険者ギルド: _____________

----------------------------------------


「これでどうでしょう」


俺は、ミラに見せた。


「わあ……すごく詳しいですね」


「ええ。これなら、トラブルが起きても、誰の責任か明確にできます」


「なるほど……」


ミラは、契約書を読みながら頷いた。


「そういえば、レオンさん」


「はい?」


「ある商人が、『遠隔地への送金方法がない』って困ってたんです」


「遠隔地?」


「はい。たとえば、グラン・バルトから別の街——ノルトハイムとか——に送金したい場合、どうすればいいんでしょう」


「ノルトハイム……それは、どれくらい離れてるんですか?」


「リルで言うと、50リルくらいです」


「50リル……」


俺は、少し考えた。

50リル——それは、徒歩で三日か四日かかる距離だ。

そんな遠距離を、銀貨を持って移動するのは危険だ。

魔物だけでなく、盗賊にも狙われる。


「それは……難しいですね」


「ですよね……」


ミラは、困った顔をした。


「その商人、どうしても送金しないといけないらしくて……」


「どうしても?」


「はい。ノルトハイムに住む息子に、仕送りをしたいんだそうです」


「なるほど……」


俺は、考えた。


遠隔地への送金——これには、現代で言う為替のような仕組みが必要だ。

たとえば、グラン・バルトで金を預けて、ノルトハイムで引き出す。

そのためには——


「ミラさん、ノルトハイムにレギス・レジャーの支店はありますか?」


「いえ、ないです」


「じゃあ、提携してる金融機関は?」


「……わかりません」


「なるほど……」


——これは、すぐには解決できない問題だな。


だが——将来的には、考える必要がある。


「ミラさん、その商人の名前を教えてください。後で、詳しく話を聞きます」


「わかりました」


ミラは、メモを取った。

俺は、窓の外を見た。

午後の日差しが、街を照らしている。

セブン・ヴォルトとの戦いは、まだ続く。

だが——一つ一つ、仕組みを作っていけば、必ず勝てる。


輸送保険、遠隔地送金——


これが、次の戦場だ。

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