街道の魔物#2
ノックをして、部屋に入る。
実務長は、書類を読んでいた。
「レオンか。どうした?」
「実務長、ヨアヒムさんが魔物に襲われました」
「何だと!?」
実務長は、立ち上がった。
「詳しく話せ」
俺は、ヨアヒムから聞いたことを説明した。
実務長は、険しい顔で聞いていた。
「……シルバ200枚か」
「はい」
「それは……痛いな」
実務長は、腕を組んだ。
「どこへの輸送だった?」
「東門から10リル先の村——グリュンハイムへの送金です」
「グリュンハイム……あそこは、最近魔物が出ると聞いていたが……」
「護衛は付けていたんですか?」
「ああ。冒険者二人を雇った。だが、足りなかったようだな」
「足りなかった……」
「魔物の群れが五匹なら、冒険者は三人か四人必要だった」
「では、なぜ二人だけだったんですか?」
「……金だ」
実務長は、苦い顔をした。
「冒険者を雇うには、金がかかる。一人につき、シルバ5枚だ。二人で10枚。三人なら15枚、四人なら20枚」
「20枚……」
「輸送する金額が200枚だから、護衛費用が20枚では、一割になる。それは高すぎる——そう判断したんだ」
「ですが、結果的に200枚を失いました」
「……そうだな」
実務長は、深くため息をついた。
「わたしの判断ミスだ」
「いえ、実務長だけの責任じゃありません」
俺は、言った。
「仕組みが不十分だったんです」
「仕組み?」
「はい。輸送の責任が曖昧だったんです」
「曖昧……?」
「ええ。もし魔物に襲われて銀貨を失った場合、誰が責任を取るのか——それが決まっていませんでした」
「……確かに」
「ヨアヒムさんは、『自分の責任だ』と言っていました。でも、それは違います。彼は、命をかけて銀貨を守ろうとしました。責任を取るべきは、仕組みを作らなかった俺たちです」
「……」
実務長は、黙った。
そして——しばらくして、小さく頷いた。
「お前の言う通りだ」
「だから、輸送の仕組みを作り直しましょう」
「どうやって?」
「まず、輸送の責任を区間ごとに分けます」
「区間ごと?」
「はい。たとえば、レギス・レジャーから東門まで——これが第一区間。東門からグリュンハイムまで——これが第二区間。それぞれの区間で、責任者を決めます」
「なるほど……」
「そして、区間の引き継ぎごとに、記録を残します。誰が、何を、いつ、どこから受け取って、どこまで運んだか——それを全部記録します」
「引き継ぎ記録、か……」
「ええ。引き継ぎ記録があれば、どの区間で問題が起きたか、すぐにわかります」
「確かに……」
「次に、護衛の人数を明確にします。輸送する金額と、街道の危険度に応じて、必要な護衛の人数を決める」
「それは……どうやって決める?」
「冒険者ギルドに相談します。彼らは、街道の危険度を一番よく知っています」
「なるほど……」
「そして、護衛費用を事前に見積もります。見積もりを見て、輸送するかどうかを判断する」
「見積もり、か……」
実務長は、少し考えた。
「だが、護衛費用が高すぎたら、輸送できなくなるぞ」
「その場合は、別の方法を考えます」
「別の方法?」
「ええ。たとえば、複数の輸送をまとめる。三つの村への送金を、一度にまとめて運べば、護衛費用を分担できます」
「なるほど……それは、いい案だな」
「それから——」
俺は、もう一つの案を言った。
「輸送保険を作ります」
「輸送保険?」
「はい。もし輸送中に銀貨を失った場合、保険で補償する——そういう仕組みです」
「保険……」
実務長は、眉をひそめた。
「それは、どうやって運用するんだ?」
「輸送する人から、少額の保険料をもらいます。たとえば、200枚を輸送する場合、保険料として5枚もらう」
「5枚……」
「そして、もし輸送中に銀貨を失ったら、保険で200枚を補償します」
「だが、保険料が5枚で、補償が200枚なら、赤字じゃないか?」
「1回だけならそうです。では、100回輸送して、そのうち3回だけ事故が起きるなら——」
俺は、計算を紙に書いた。
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保険料収入:5枚×100回=500枚
補償支出:200枚×3回=600枚
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「……それでも、赤字だな」
「ですから、保険料を調整します。事故率が3パーセントなら、保険料を7枚にすれば——」
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保険料収入:7枚×100回=700枚
補償支出:200枚×3回=600枚
利益:100枚
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「なるほど……」
実務長は、納得したように頷いた。
「だが、事故率は、どうやって計算する?」
「過去の記録を調べます。そして、冒険者ギルドにも相談します」
「わかった。じゃあ、お前に任せる」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
そして——心の中で、計画を練り始めた。
輸送の仕組み。
区間ごとの責任分け。
引き継ぎ記録。
護衛の人数の明確化。
輸送保険。
——これらを組み合わせれば、安全に銀貨を運べるようになる。
そして——セブン・ヴォルトの独占を、また一つ崩せる。




