街道の魔物#1
偽造約束札の騒動から二日後——レギス・レジャーの窓口は、いつもより静かだった。
告知が効果を発揮し、商人たちは番号のない約束札を受け取らなくなった。
セブン・ヴォルトの偽造約束札は、流通が止まった。
だが——その静けさは、嵐の前の静けさだった。
午前三ベル、建物の扉が勢いよく開いた。
一人の男が駆け込んできた。
名前はヨアヒム。レギス・レジャーの使送——銀貨を輸送する担当者だ。
だが、今の彼は泥だらけで、服は破れ、額から血を流していた。
「実務長! 大変です!」
ヨアヒムは、息を切らしながら叫んだ。
俺とミラは、すぐに駆け寄った。
「ヨアヒムさん、どうしたんですか!」
「魔物に……襲われたんです……」
「魔物?」
「はい……街道で……」
ヨアヒムは、その場に崩れ落ちた。
俺は、ミラに言った。
「ミラさん、消毒薬と包帯を持ってきてください」
「はい!」
ミラが駆けていった。
俺は、ヨアヒムを支えて椅子に座らせた。
「落ち着いてください。何があったんですか?」
「……東門の街道で、銀貨を輸送中に……魔物の群れに襲われました……」
「魔物の群れ……」
「はい……狼型の魔物が五匹……護衛の冒険者が二人いましたが……一人が重傷を負って……」
「銀貨は?」
「……失いました」
ヨアヒムは、俯いた。
「シルバ200枚……運んでいた袋を、魔物に奪われました……」
「200枚……」
俺は、息を呑んだ。
200枚——決して小さくない額だ。
「護衛は、どうなりましたか?」
「一人は軽傷で、何とか戦えました。もう一人は……足を噛まれて、動けなくなって……わたしが背負って、何とか街まで逃げてきました……」
「その冒険者は、今どこに?」
「冒険者ギルドに運びました……」
ヨアヒムは、震える声で言った。
「すみません……わたしの責任です……」
「いえ、あなたの責任じゃありません」
俺は、ヨアヒムの肩を軽く叩いた。
「魔物に襲われたのは、不可抗力です」
「でも……銀貨を失って……」
「それは、後で考えましょう。まず、あなたの傷を手当てしてください」
ミラが、消毒薬と包帯を持って戻ってきた。
俺たちは、ヨアヒムの額の傷を拭き、包帯を巻いた。
幸い、傷は浅い。
「ヨアヒムさん、今日はもう休んでください」
「でも……実務長に報告を……」
「俺が報告します。あなたは休んでください」
「……すみません」
ヨアヒムは、疲れた顔で頷いた。
俺は、実務長の部屋に向かった。




