約束札の番号#2
午前四ベル、俺は窓口の前に立って、集まった商人たちに説明した。
「皆さん、お待たせしました。約束札を担保にした貸し出しについて、新しいルールができました」
商人たちは、俺を見た。
「今後、レギス・レジャーが担保として受け入れる約束札は、この書式で発行されたものだけです」
俺は、書式の見本を掲げた。
「番号が振られていて、発行者の印章が押されていて、支払先が明記されている——これが条件です」
「番号を振る?それは、どうやるんだ?」
ある商人が聞いた。
「約束札を発行するときに、レギス・レジャーに持ってきてください。俺たちが番号を振って、台帳に記録して、確認印を押します」
「それには、金がかかるのか?」
「はい。手数料として、シルバ一枚いただきます」
商人たちが、ざわついた。
「一枚も取るのか!」
「高すぎるだろ!」
俺は、手を上げて静めた。
「確かに、手数料はかかります。だが、その代わり、約束札の信用が上がります」
「信用?」
「ええ。レギス・レジャーが確認した約束札なら、偽造の心配がありません。だから、他の商人も安心して受け取れます」
「……なるほど」
「そして、もし約束札を担保に借りたいときも、審査が早くなります。番号があれば、すぐに台帳で確認できますから」
商人たちは、少し納得したように頷いた。
「じゃあ、今持ってる約束札は、どうすればいいんだ?」
「既に持っている約束札も、ここに持ってきてください。俺たちが確認して、番号を振ります」
「それも、一枚かかるのか?」
「いえ、既存の約束札については、最初の一ヶ月は無料で番号を振ります」
「そうか……じゃあ、持ってくるよ」
商人たちは、少しずつ納得し始めた。
そして——窓口に、約束札を持った商人たちが並び始めた。
俺とミラは、一枚ずつ約束札を確認し、番号を振っていった。
最初の約束札は、商人トビアスが持ってきたものだった。
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【約束札】
私、商人ヴォルフガングは、トビアスにシルバ30枚を支払うことを約束します。
支払期日: 銀章暦三二年カマド月一五日
署名: ヴォルフガング
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「これは、ヴォルフガングさんの筆跡ですか?」
「ああ、間違いない」
「印章はありますか?」
「いや、ない……」
「では、後でヴォルフガングさんに来てもらって、印章を押してもらってください」
「わかった」
俺は、約束札に番号を書き込んだ。
『RL-三二-コ-〇〇〇一』
そして、台帳に記録した。
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番号: RL-三二-コ-〇〇〇一
発行日: (トビアスに確認して記入)
発行者: ヴォルフガング
支払先: トビアス
金額: シルバ30枚
支払期日: 銀章暦三二年カマド月一五日
状態: 発行中
備考: 印章未押捺、要追加
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「これで、番号が振られました。ヴォルフガングさんが印章を押しに来たら、俺たちが確認印を押します」
「ありがとう」
トビアスは、約束札を受け取って去っていった。
次の商人——先ほどのハンス——が来た。
「さっきの約束札、確認できましたか?」
「いえ、まだです。ギルバートさんに確認を取ります。少し待ってください」
「……そうですか」
ハンスは、少し不満そうだったが、待つことにした。
俺は、ミラに言った。
「ミラさん、ギルバートさんのところに行って、この約束札を確認してもらえますか?」
「わかりました」
ミラは、約束札を持って外に出た。
その間、俺は他の約束札の番号振りを続けた。
午前五ベルを過ぎた頃、ミラが戻ってきた。
だが——様子がおかしい。
「レオンさん……大変です」
「どうしたんですか?」
「ギルバートさんが、『そんな約束札は発行していない』って言うんです」
「え……?」
俺は、ハンスのところに行った。
「ハンスさん、この約束札は誰からもらったんですか?」
「え……それは……」
ハンスは、口ごもった。
「友人からです。友人がギルバートさんから受け取ったものを、俺が買い取ったんです」
「友人の名前は?」
「それは……言えません」
「言えない?」
「ええ……その友人とは、秘密の取引なので……」
——怪しい。
俺は、ハンスを真っ直ぐ見た。
「ハンスさん、正直に言ってください。この約束札、偽物じゃないですか?」
「ち、違います!」
ハンスは、慌てて否定した。
「本物です!ギルバートさんが勘違いしてるんです!」
「では、ギルバートさんと直接会って、確認してください」
「それは……」
ハンスは、明らかに動揺していた。
「……わかりました。確認してきます」
そう言って、ハンスは約束札を持って逃げるように去っていった。
俺は、ため息をついた。
「偽物でしょうね」
ミラが言った。
「ええ。たぶん、ハンス自身が偽造したか、誰かに騙されて買わされたか」
「怖いですね……」
「だから、番号管理が必要なんです」
俺は、台帳を見た。
「番号がなければ、偽造し放題です。でも、番号があれば——台帳で確認できます」
「そうですね……」
ミラは、少し安心したように頷いた。
その日の午後、窓口には次々と約束札を持った商人が現れた。
中には、セブン・ヴォルトで発行された約束札を持ってくる者もいた。
「これ、セブン・ヴォルトで作ってもらったんですけど、番号を振ってもらえますか?」
俺は、約束札を見た。
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【約束札】
発行者: 商人エドゥアルド
支払先: 持参人
金額: シルバ80枚
支払期日: 銀章暦三二年ツチオ月一日
発行手数料: シルバ24枚(金額の3割)
セブン・ヴォルト印: (七つ星の印章)
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——手数料が3割?
俺は、目を疑った。
「これ、手数料が24枚もかかってるんですか?」
「ええ……セブン・ヴォルトは、そういう料金なんです」
「高すぎませんか?」
「でも、他に選択肢がなかったので……」
商人は、肩をすくめた。
俺は、約束札をよく見た。
書式は、しっかりしている。
印章も押されている。
だが——支払先が「持参人」になっている。
「この約束札、支払先が『持参人』になってますね」
「はい。セブン・ヴォルトでは、そういう形式なんです」
「これだと、盗まれたら誰でも使えますよ」
「え……そうなんですか?」
「ええ。だから、俺たちの書式では、支払先を明記します」
「なるほど……」
「この約束札は、担保として受け入れられません。セブン・ヴォルトに戻して、書式を変えてもらってください」
「わかりました……」
商人は、がっかりした顔で去っていった。
俺は、その約束札についてミラに話した。
「ミラさん、セブン・ヴォルトの手数料、3割ですよ」
「高いですね……」
「しかも、持参人払いにして、リスクを高めてる」
「わざと、ですか?」
「たぶん。リスクが高ければ、商人たちはセブン・ヴォルトに頼らざるを得なくなります」
「なるほど……」
ミラは、少し怒ったように眉をひそめた。
「ひどいですね」
「ええ。だから、俺たちがもっとちゃんとした仕組みを作らないと」
俺は、拳を握りしめた。
セブン・ヴォルトは、高い手数料で商人を搾取している。
そして、リスクの高い約束札を流通させている。
——これを止めなければ。
その日の夕方——午後三ベル——実務長が俺を呼んだ。
「レオン、ちょっといいか」
「はい、何でしょう」
「侯爵様から返事が来た」
「本当ですか!」
俺は、実務長の部屋に駆け込んだ。
机の上には、一通の手紙が置かれていた。
封蝋には、侯爵家の紋章が刻まれている。
「読んでくれ」
実務長が言った。
俺は、手紙を開いた。
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レギス・レジャー実務長殿
報告書、確かに受領いたしました。
金庫の不一致およびセブン・ヴォルトの関与について、重大な関心を持っております。
ただし、現時点では証拠が不十分です。
評議会を動かすには、より確実な物証が必要です。
引き続き調査を進め、追加の証拠を収集してください。
証拠が揃い次第、正式な調査を命じます。
グラン・バルト侯爵 アルフレート
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「証拠が不十分、か……」
俺は、少しがっかりした。
「まあ、そうだろうな」
実務長が言った。
「壁の穴だけでは、セブン・ヴォルトが犯人だという決定的な証拠にはならん」
「では、どうすれば……」
「現行犯で押さえるしかない」
「現行犯?」
「ああ。セブン・ヴォルトが、実際に金庫から銀貨を抜いているところを押さえる」
「それは……難しいですね」
「ああ。だが、他に方法がない」
実務長は、腕を組んだ。
「お前、何かいい案はあるか?」
俺は、少し考えた。
そして——ある案が浮かんだ。
「金庫に、罠を仕掛けましょう」
「罠?」
「ええ。特別な印を付けた銀貨を、金庫に入れておきます。もしその銀貨がセブン・ヴォルトの倉庫から見つかれば、決定的な証拠になります」
「印を付けた銀貨……」
実務長は、少し考えた。
「それは、いい案だな」
「ただし、セブン・ヴォルトに気づかれないように、慎重にやらないと」
「ああ。じゃあ、お前に任せる」
「わかりました」
俺は頭を下げた。
そして——心の中で、計画を練り始めた。
特別な印を付けた銀貨。
それを、金庫の壁の穴の近くに置いておく。
セブン・ヴォルトが抜けば、その銀貨は倉庫に行く。
そして——倉庫を調査すれば、証拠が見つかる。
——よし、これで行こう。
俺は、短く息を吐いて、顔を上げた。
焦る必要はない。
仕掛けを置いて、相手に動かせる。
勝負は、証拠が揃った時だ。




