約束札の番号#1
フェリクスへの貸し出しから五日後——レギス・レジャーの窓口には、約束札を持った商人たちが列を作っていた。
「この約束札を担保に、借りたいんです」
「私もです。取引先からもらった約束札があるんですが……」
「期日まで待てないので、今すぐ現金が欲しいんです」
窓口は、今まで以上に混雑していた。
俺とミラは、必死に対応していた。
だが——問題が次々と浮上していた。
「レオンさん、この約束札、本物でしょうか……?」
ミラが、不安そうに一枚の紙を見せてきた。
紙には、こう書かれていた。
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【約束札】
私、商人ギルバートは、持参人にシルバ100枚を支払うことを約束します。
支払期日: 銀章暦三二年クモリ月一日
署名: ギルバート
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「持参人に、ですか……」
俺は、眉をひそめた。
「これは、誰でも持って来れば支払われるってことですね」
「はい……でも、本当にギルバートさんが書いたのか、確認できないんです」
「筆跡は?」
「わかりません……ギルバートさんの字を見たことがないので」
「なるほど……」
俺は、約束札をよく見た。
紙は普通の羊皮紙。
インクも、街でよく使われているもの。
印章もない。
——これでは、偽造し放題だ。
「ミラさん、この約束札を持ってきた商人は?」
「名前はハンス。革商人です」
「ハンスさんは、信用できる人ですか?」
「うーん……よく知らないです」
「では、ギルバートさんに確認を取りましょう。本当にこの約束札を発行したのか」
「わかりました」
ミラは、ハンスのところに行って、待ってもらうように伝えた。
俺は、他の約束札も確認し始めた。
窓口に持ち込まれた約束札は、今日だけで十枚以上。
だが——どれも書式がバラバラだ。
ある約束札は、支払先が明記されている。
別の約束札は、「持参人に」と書かれている。
さらに別のものは、金額が曖昧に書かれている(「シルバ50枚程度」など)。
——これは、管理できない。
俺は、実務長のところに行った。
「実務長、約束札の管理について相談があります」
「どうした?」
「今のままでは、偽造や紛失のリスクが高すぎます。書式を統一して、管理する仕組みを作らないと」
「書式を統一、か……」
実務長は、腕を組んだ。
「だが、約束札は商人が自由に発行するものだ。俺たちが書式を指定できるのか?」
「指定はできなくても、推奨はできます」
「推奨?」
「ええ。レギス・レジャーが認める約束札の書式を作ります。その書式で書かれた約束札なら、担保として受け入れる。それ以外は、受け入れない」
「なるほど……」
実務長は、少し考えた。
「それなら、できるかもしれんな。で、どういう書式にする?」
「まず、番号を振ります」
「番号?」
「ええ。約束札ごとに、固有の番号を付ける。そうすれば、偽造や二重使用を防げます」
「固有の番号……それは、誰が振るんだ?」
「俺たちです。商人が約束札を発行するときに、レギス・レジャーに持ってきてもらう。俺たちが番号を振って、台帳に記録する」
「なるほど……」
「次に、支払先を明記します。『持参人に』ではなく、特定の人物名を書く」
「それは、なぜだ?」
「持参人払いだと、誰でも持って来れば支払われます。盗まれたり、偽造されたりするリスクが高い」
「確かに……」
「最後に、発行者の印章を押してもらいます。印章があれば、本人が発行したことの証明になります」
「印章、か……」
実務長は、頷いた。
「いい案だな。じゃあ、その書式を作ってくれ」
「わかりました」
俺は、事務室に戻り、新しい書式を作り始めた。
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【レギス・レジャー認定約束札 書式】
約束札番号: RL-三二-コ-〇〇〇一
発行日: 銀章暦三二年コナト月九日
私、(発行者名)は、(支払先名)に対し、下記の金額を支払うことを約束します。
金額: シルバ___枚
支払期日: 銀章暦___年___月___日
発行者署名: _____________
発行者印章: (印)
レギス・レジャー確認印: (印)
確認者: _____________
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「これなら、管理しやすいですね」
ミラが、書式を見て言った。
「番号が付いてるから、台帳で追跡できます」
「そうです。そして、この書式で発行された約束札だけを、担保として受け入れます」
「でも……商人たちは、わざわざここに来て番号を振ってもらうんですか?」
「ええ。手数料として、シルバ1枚もらいます」
「手数料……」
「はい。番号を振って、台帳に記録して、確認印を押す——そのサービスの対価です」
「なるほど……」
ミラは頷いた。
「じゃあ、台帳も作らないといけませんね」
「ええ。約束札台帳を作りましょう」
俺は、新しい台帳を作った。
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【約束札管理台帳】
番号 | 発行日 | 発行者 | 支払先 | 金額 | 支払期日 | 状態 | 備考
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「状態の欄には、『発行中』『担保預かり』『支払済』『期限切れ』などを記録します」
「わかりました」
「そして、約束札を担保として預かるときは、この台帳に『担保預かり』と記録します」
「はい」
「支払期日が来たら、支払われたかどうかを確認して、『支払済』か『期限切れ』を記録します」
「なるほど……」
ミラは、台帳を見ながら頷いた。
「これなら、約束札の流れが全部わかりますね」
「そうです」
俺は、台帳を棚に置いた。
「じゃあ、さっそく商人たちに説明しましょう」




