金庫の穴#4
翌朝——俺は実務長の部屋にいた。
机の上には、昨夜書いた証拠リストと対策メモが広げられている。
実務長は、それを読みながら、険しい顔をしていた。
「……レオン、これは本当か?」
「はい。昨夜、セラドの会話を聞きました」
「セブン・ヴォルトが、金庫から銀貨を抜いている、と」
「はい。しかも、ヴィクターも協力しています」
実務長は、深くため息をついた。
「……まいったな」
「信じられませんか?」
「いや、信じるよ。お前は嘘をつくような奴じゃない」
実務長は、俺を見た。
「だが、問題は証拠だ」
「証拠?」
「ああ。会話を聞いただけでは、証拠として弱い。お前が『聞いた』と言っても、相手は『そんな会話はしていない』と否定すればおしまいだ」
「……なるほど」
「だから、物証が必要だ。セブン・ヴォルトが、実際に金庫から銀貨を抜いた——その証拠を押さえなければならない」
「わかりました。では、金庫とセブン・ヴォルト倉庫の壁を確認しましょう」
「壁?」
「ええ。もし本当に銀貨を抜いているなら、何らかの方法で金庫に接近しているはずです。壁に穴があるとか、隠し扉があるとか」
「なるほど……」
実務長は立ち上がった。
「じゃあ、今すぐ確認しよう」
俺と実務長は、金庫に向かった。
金庫の中には、まだ昨日数えた銀貨が積まれている。
実務長は、金庫の奥——セブン・ヴォルト倉庫との境界になっている壁を調べ始めた。
石造りの壁で、一見すると頑丈そうだ。
だが——よく見ると、壁の下の方に、小さな隙間がある。
「これは……」
実務長が、隙間を指差した。
「穴だな」
「穴、ですか?」
俺も近づいて見た。
確かに、石と石の間に、小さな穴が開いている。
直径は、指が一本入るくらい。
「この穴、最初からあったんですか?」
「いや……こんな穴、今まで気づかなかった」
実務長は、穴に指を入れようとした。
だが、指は入らなかった。
「狭いな……だが、銀貨なら通るかもしれん」
「試してみましょう」
俺は、手近にあったシルバ銀貨を一枚取り、穴に近づけた。
銀貨は、斜めにすれば穴を通った。
「……通りますね」
「ああ……これで、銀貨を向こう側に送れる」
実務長は、顔を険しくした。
「セブン・ヴォルトの倉庫側から、この穴に針金か何かを通して、銀貨を引っ掛けて抜いたんだろう」
「なるほど……」
俺は、穴の周りをよく観察した。
穴の縁には、微かに銀の粉が付着している。
銀貨が擦れた跡だ。
「これは、物証になりますね」
「ああ。だが、まだ足りない」
「足りない?」
「ああ。この穴が、セブン・ヴォルトが開けたものだという証拠がない。もしかしたら、最初からあった穴かもしれない」
「ですが、実務長は今まで気づかなかったと——」
「それは、俺の落ち度だ。証拠にはならん」
実務長は、腕を組んだ。
「もっと確実な証拠が必要だ」
「では……」
俺は、少し考えた。
「セブン・ヴォルトの倉庫の中を確認しましょう」
「セブン・ヴォルトの?」
「ええ。もし彼らがこの穴を使っているなら、倉庫側にも痕跡があるはずです」
「だが、倉庫の中に入るには、セブン・ヴォルトの許可が必要だぞ」
「許可をもらいましょう」
「どうやって?」
「正面から頼みます。『金庫の点検をしたいので、倉庫の壁も確認させてください』と」
「……断られるぞ」
「断られたら、それはそれで怪しいです。逆に、すんなり許可してくれたら、証拠を隠してる可能性があります」
「なるほど……」
実務長は、少し考えた。
「わかった。やってみよう」




