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異世界金融帳実務録 ~転生銀行員が金融知識で成り上がる~  作者: しじむ


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31/60

金庫の穴#3

その日の夕方——午後四ベル——ようやくグレアムが戻ってきた。


彼は、少し汗をかいていて、息が荒い。


「グレアムさん、どこに行ってたんですか?」


俺が声をかけると、グレアムは不機嫌そうに答えた。


「ちょっと、鑑定士のところに行ってたんだ」


「鑑定士?」


「ああ。お前らが担保の評価をしてるだろ? それで、鑑定士に相談してたんだ」


「何の相談ですか?」


「……俺の私物を、担保として預けられるか、ってな」


グレアムは、俺を睨んだ。


「お前が俺を疑ってるから、証明してやろうと思ったんだよ。俺が不正なんかしてないって」


「それは……」


俺は、少し戸惑った。

グレアムは、自分の無実を証明するために、私物を担保に出そうとしていたのか?


「グレアムさん、そんなことしなくても——」


「いいや、する」


グレアムは、懐から小さな袋を取り出した。


「これは、俺の妻の形見だ。銀の指輪だ」


袋の中には、確かに銀の指輪が入っていた。


「これを担保に、シルバ23枚借りる。そして、足りない分はそれで穴埋めする。それで、俺が盗んでないことを証明する」


「グレアムさん……」


「どうだ? それでいいだろ?」


グレアムは、強い口調で言った。

だが——その目は、少し潤んでいた。

俺は、胸が痛んだ。

グレアムは、疑われたことで傷ついている。

そして、必死に無実を証明しようとしている。

だが——それは、本当に必要なのか?


「グレアムさん、その指輪は大切なものですよね」


「……ああ」


「なら、担保に出す必要はありません」


「だが——」


「俺は、あなたを疑ってるわけじゃないんです。ただ、仕組みが不十分だったから、問題が起きた。それを直したいだけなんです」


グレアムは、黙った。

そして——しばらくして、小さく頷いた。


「……そうか」


「はい。だから、これからは金庫の出入りをちゃんと記録します。それで、こういう問題が起きないようにします」


「わかった……」


グレアムは、指輪を懐にしまった。


「すまんな、レオン。俺も、ちょっと感情的になってた」


「いえ、こちらこそ」


俺は頭を下げた。


「疑うような言い方をして、申し訳ありませんでした」


「いや、いいんだ……」


グレアムは、少し疲れた顔をした。


「俺も、もっとちゃんと記録すべきだったな」


「これから、一緒に仕組みを作りましょう」


「ああ……」


グレアムは、小さく笑った。

そして——休憩室に向かった。

俺は、その背中を見送った。

そして——ふと、疑問が浮かんだ。


——待て。


グレアムが盗んだわけじゃないなら、誰が盗んだんだ?

それとも——そもそも、盗まれたわけじゃないのか?


俺は、もう一度金庫の前に戻った。

そして——金庫の周囲をよく観察した。

金庫は、石造りの壁に埋め込まれている。

頑丈な鉄の扉で、鍵がなければ開かない。

だが——金庫の横に、もう一つ扉がある。

セブン・ヴォルトの倉庫の扉だ。

七つ星の印章が刻まれている。


俺は、その扉に近づいた。

扉は閉まっている。

だが——耳を澄ますと、中から微かに音が聞こえる。

人の声だ。


「……だから、もっと慎重にやれ」


「わかってる。だが、レオンとかいう新入りが邪魔だ」


「あいつは、放っておけ。どうせ、すぐに潰れる」


——これは……


俺は、扉に耳を押し当てた。

声は、セラドのものだ。

そして、もう一人——聞き覚えのない男の声。


「次は、いつやる?」


「明日の夜だ。鐘楼のヴィクターが、締め時間を早めてくれる。その隙に、金庫から少しずつ抜く」


「少しずつ、か……」


「ああ。一度に大量に抜くと、バレる。だが、少しずつなら、誤差として処理される」


「なるほどな……」


——やっぱりか。


セブン・ヴォルトが、金庫から銀貨を抜いている。

そして——ヴィクターも協力している。

俺は、その会話を記憶に刻み込んだ。

そして——静かにその場を離れた。

足音を立てないように、事務室に戻る。

ミラが、心配そうに俺を見た。


「レオンさん、どこに行ってたんですか?」


「ちょっと、確認してました」


「確認?」


「ええ。金庫の周りをね」


俺は、ミラに小声で言った。


「ミラさん、これから言うことは、誰にも話さないでください」


「え……はい」


「セブン・ヴォルトが、金庫から銀貨を抜いてます」


「え!?」


ミラは、目を見開いた。


「本当ですか!?」


「ええ。さっき、セラドの声を聞きました」


「どうしましょう……」


「まず、証拠を固めます。そして、実務長に報告します」


「わかりました……」


ミラは、少し震えた声で答えた。

俺は、ミラの肩を軽く叩いた。


「大丈夫です。仕組みで、追い詰めます」


「仕組み……」


「ええ。今回の件で、金庫の管理をもっと厳しくします。そうすれば、セブン・ヴォルトも手を出せなくなります」


「はい……」


ミラは、少し安心したように頷いた。

俺は、机に戻り、紙に書き出した。


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【証拠リスト】

1. 金庫の不一致:シルバ23枚

2. セラドとヴィクターの関係(鐘楼の帳面)

3. セブン・ヴォルトの倉庫と金庫の位置関係

4. セラドの会話(金庫から少しずつ抜く計画)

----------------------------------------


そして——対策も書き出した。


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【対策】

1. 金庫出入記録帳の導入(立会人必須)

2. セブン・ヴォルト倉庫との壁を確認(穴や隙間がないか)

3. 金庫の鍵を変更(セブン・ヴォルトが合鍵を持ってる可能性)

4. 実務長に報告し、評議会への訴えを準備

----------------------------------------


——これで、準備は整った。


明日、実務長に報告する。

そして——セブン・ヴォルトとの本格的な戦いが始まる。

俺は、紙を畳んで机の引き出しにしまった。

窓の外では、鐘が鳴っていた。


ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。

六回。


午後六ベル——午前零ベル。

一日の終わりだ。

だが——俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。

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