金庫の穴#2
実務長の部屋をノックすると、中から声がした。
「入れ」
俺は扉を開けて入った。
実務長は、書類を読んでいた。
「レオンか。どうした?」
「実務長、金庫の鍵は誰が持っているんですか?」
「金庫の鍵?」
実務長は顔を上げた。
「俺とグレアムだ。なぜだ?」
「金庫の実数が、帳面より23枚少ないんです」
「23枚?」
実務長の顔が、一気に険しくなった。
「本当か?」
「はい。ミラと一緒に数え直しましたが、間違いありません」
「……そうか」
実務長は立ち上がった。
「すぐに確認する。案内してくれ」
俺は実務長を金庫まで案内した。
実務長は金庫の中を確認し、帳面を見た。
そして——しばらく黙っていた。
「……確かに、合わないな」
「はい」
「グレアムには聞いたのか?」
「聞きましたが、覚えてないと言われました」
「覚えてない、か……」
実務長は、腕を組んだ。
「だが、グレアムは長年この仕事をしてる。不正をするような男じゃない」
「では、他に誰が金庫を開けた可能性がありますか?」
「……俺は、今日は開けてない」
「では、鍵を誰かに貸しましたか?」
「いや、貸してない」
「グレアムさんは?」
「それは……わからんな」
実務長は、少し困った顔をした。
「グレアムに聞いてみるしかない」
「わかりました」
俺は、再びグレアムのところに向かった。
だが——休憩室に行くと、グレアムはいなかった。
「グレアムさん、どこに行ったか知りませんか?」
俺は、休憩室にいた別の行員に聞いた。
「ああ、グレアムなら、さっき外に出ていったぞ」
「外?」
「ああ。『ちょっと用事がある』って」
「……そうですか」
俺は、嫌な予感がした。
金庫の不一致が発覚した直後に、外出?
それは——逃げたのか?
いや、まだ決めつけるのは早い。
だが——このタイミングは、怪しい。
俺は、実務長のところに戻った。
「実務長、グレアムさんが外出したそうです」
「外出?」
「はい。『用事がある』と言って」
実務長の顔が、さらに険しくなった。
「……まずいな」
「まずい、ですか?」
「ああ。もし本当にグレアムが不正をしていたとしたら——今、証拠を隠してる可能性がある」
「証拠……」
「ああ。盗んだ銀貨を、どこかに隠すとか」
「なるほど……」
俺は、少し考えた。
「実務長、グレアムさんの私物を確認してもいいですか?」
「私物?」
「はい。もし銀貨を隠しているなら、保管箱や机の中にあるかもしれません」
「……それは、不当な詮索になりかねんぞ」
「ですが、金庫の不一致は重大な問題です。確認する必要があります」
実務長は、しばらく悩んだ。
そして——頷いた。
「わかった。だが、俺も立ち会う。勝手に調べるな」
「はい」
俺と実務長は、グレアムの保管箱に向かった。
保管箱は、事務室の片隅にある。
実務長が鍵を開け、中を確認した。
中には、着替えや私物が入っている。
だが——銀貨は見当たらない。
「ないな……」
実務長が呟いた。
「机も確認しましょう」
俺は、グレアムの机に向かった。
机の引き出しを開ける。
中には、帳面や筆記用具が入っている。
だが——やはり、銀貨はない。
「……ここにもないですね」
「そうか……」
実務長は、少しほっとしたような顔をした。
「じゃあ、グレアムは無実か」
「いえ、まだわかりません」
「まだわからない?」
「ええ。銀貨がここにないだけで、無実とは限りません。どこか別の場所に隠してる可能性もあります」
「……そうだな」
実務長は、再び険しい顔になった。
「では、どうする?」
「金庫への出入りを、もっと詳しく記録する仕組みを作ります」
「仕組み?」
「はい。誰が、いつ、何のために金庫を開けたか——そして、何枚取り出して、何枚戻したか。それを全部記録します」
「それは……面倒じゃないか?」
「面倒ですが、必要です。そうしないと、今回のような問題が再発します」
実務長は、少し考えた。
「……わかった。やってみろ」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
そして——事務室に戻り、新しい帳面を作り始めた。
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【金庫出入記録帳】
日付 | 時刻 | 開錠者 | 目的 | 取り出し枚数 | 戻し枚数 | 差引 | 署名 | 立会人
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「この形式で記録します」
俺はミラに説明した。
「金庫を開けるたびに、この帳面に記録する。そして、必ず立会人を置く」
「立会人、ですか?」
「ええ。一人で金庫を開けるのではなく、必ず誰かが見ている状態にする。そうすれば、不正ができなくなります」
「なるほど……」
ミラは頷いた。
「でも、グレアムさんが納得するでしょうか?」
「納得しなくても、やります。これは、組織のためです」
俺はそう言って、帳面を棚に置いた。
そして——窓の外を見た。
午後三ベルの鐘が鳴った。
窓口の締め時間だ。
だが——グレアムは、まだ戻ってこない。
——どこに行ったんだ?
俺は、少し不安になった。




