表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界金融帳実務録 ~転生銀行員が金融知識で成り上がる~  作者: しじむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/60

金庫の穴#1

セラドが去ってから三日後の午前——窓口の業務は順調に進んでいた。


トーマへの貸し出しは街で噂になり、他の商人たちもレギス・レジャーに相談に来るようになった。


「保証人がいなくても、担保があれば借りられるんですか?」


「利息は月に1パーセント?それなら返せます!」


窓口には、毎日のように新しい商人が並んだ。

俺とミラは、一件一件丁寧に話を聞き、担保の評価を進めていった。

引き継ぎ簿も定着し、帳面が合わない日はゼロが続いている。

実務長も満足そうで、ベルナルドも「よくやっている」と褒めてくれた。


だが——その日の午後、問題が起きた。


午後二ベル。


ミラが金庫の前で、青ざめた顔で立っていた。


「レオンさん……大変です」


「どうしたんですか?」


「金庫の実数が、合わないんです」


「合わない?」


俺は急いで金庫の前に行った。

ミラは帳面を開いて、指差した。


「帳面では、シルバが1,423枚あるはずなんですけど……実数を数えたら、1,400枚しかないんです」


「23枚足りない?」


「はい……」


俺は金庫の中を確認した。

確かに、銀貨の山が少し少ない気がする。


「もう一度数えてみましょう」


「はい」


俺とミラは、金庫の中の銀貨を全部取り出して、一枚ずつ数え直した。


1枚、2枚、3枚……

10ティク後、再び結果が出た。


「……1,400枚です」


ミラが言った。


「やっぱり、23枚足りません」


「おかしいな……」


俺は引き継ぎ簿を確認した。

今日の午前中、窓口で受け取った銀貨は全て記録されている。

金庫に納入した時刻も記録されている。

そして、金庫から払い出した記録も——


——待て。


俺は、ある行に目を留めた。


----------------------------------------

午前五ベル 金庫方グレアムが金庫を開錠 目的:両替用の小銭準備

----------------------------------------


グレアム——金庫方の担当者だ。

五十代の男で、長年この仕事をしている。

だが——この記録、詳細が書かれていない。

何枚取り出したのか、何に使ったのか、それが不明だ。


「ミラさん、グレアムさんはどこですか?」


「たぶん、休憩室だと思います」


「呼んできてください」


「はい」


ミラが駆けていった。

俺は、引き継ぎ簿をもっと詳しく確認した。

過去三日間の記録を見ると——グレアムが金庫を開けた記録が、何度かある。

だが、どの記録も詳細が曖昧だ。

「両替用」「支払い準備」「確認作業」——理由は書いてあるが、金額が書かれていない。


——これは、まずい。


金庫への出入りを記録する仕組みが、不十分だったのか。


しばらくして、ミラがグレアムを連れてきた。

グレアムは、少し不機嫌そうな顔をしていた。


「何だ、レオン。忙しいんだが」


「グレアムさん、今日の午前五ベル、金庫を開けましたよね?」


「ああ、開けたが?」


「何のためですか?」


「両替用の小銭を準備するためだ。窓口から頼まれたんでな」


「何枚取り出しましたか?」


「……覚えてないな」


「覚えてない?」


「ああ。いちいち数えてないんでな」


グレアムは、腕を組んだ。


「それがどうした?」


「金庫の実数が、帳面より23枚少ないんです」


「23枚?」


グレアムの顔が、少し険しくなった。


「それは……俺のせいじゃないぞ」


「では、誰のせいですか?」


「知らん。俺は、ちゃんと仕事をしてる」


「でも、記録が曖昧です。取り出した枚数も、戻した枚数も書かれていない」


「そんなもの、いちいち書く必要があるか?」


「あります」


俺は、グレアムを真っ直ぐ見た。


「金庫の管理は、記録が全てです。記録がなければ、何が起きたのかわからない」


「……ちっ」


グレアムは舌打ちをした。


「お前、新入りのくせに偉そうだな」


「偉そうにしてるつもりはありません。ただ、事実を確認してるだけです」


「事実、ねえ……」


グレアムは、俺を睨んだ。


「じゃあ、お前が調べればいいだろ。俺は知らん」


そう言って、グレアムは休憩室に戻っていった。

俺は、ため息をついた。


——これは、厄介だな。


金庫番を疑うような形になってしまった。

だが、事実として、23枚足りない。

そして、グレアムの記録が曖昧なのも事実だ。


「レオンさん……どうしましょう」


ミラが不安そうに言った。


「グレアムさん、怒ってましたけど……」


「大丈夫です。まずは、他の可能性を確認しましょう」


「他の可能性?」


「ええ。グレアムさん以外にも、金庫を開けた人がいるかもしれません」


「でも、金庫の鍵は、グレアムさんと実務長しか持ってないですよ」


「本当に、その二人だけですか?」


「……たぶん」


ミラは少し自信なさげに答えた。


「じゃあ、確認してみましょう」


俺は、実務長の部屋に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ