保証人の壁―担保という武器#3
翌朝、俺は事務室でトーマを待っていた。
ミラが窓口で彼を案内してくれた。
「レオンさん、トーマさんが来ました」
「ありがとうございます。どうぞ、こちらへ」
トーマは緊張した面持ちで、椅子に座った。
「あの……借入の件、どうでしょうか?」
「結論から言うと、貸し出しは可能です」
「本当ですか!」
トーマの顔が、ぱっと明るくなった。
「ありがとうございます!」
「ただし、条件があります」
「条件?」
「はい。まず、金額はシルバ50枚です」
「50枚……ですか」
トーマは少し困った顔をした。
「希望は200枚だったんですけど……」
「最初は50枚です。これをきちんと返済できたら、次は100枚、その次は200枚——そうやって、少しずつ増やしていきます」
「なるほど……」
「次に、返済方法です。一括返済ではなく、毎月分割で返してください」
「毎月、ですか?」
「はい。たとえば、50枚を5ヶ月で返すなら、毎月10枚ずつ返す。そうすれば、負担も軽くなります」
「それは……助かります」
「そして、利息ですが——」
俺は、事前に計算しておいた数字を見せた。
「月に1パーセントです。利息は最終月にまとめて支払ってもらいます。」
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【返済表(−=支払、+=受取)】
前提:
- 借入:元本 シルバ50枚、月利1%
- 元本返済:毎月10枚(1〜4ヶ月目)、最終月に残10枚
- 利息:当初元本50枚に対して複利で発生、利息は最終月に一括支払
- 最終月利息:シルバ未満四捨五入
│月│期首元本│元本返済│利息支払│期末元本│
│ 0 │ 0 │ 0 │ 0 │ 50 │
│ 1 │ 50 │ −10 │ 0 │ 40 │
│ 2 │ 40 │ −10 │ 0 │ 30 │
│ 3 │ 30 │ −10 │ 0 │ 20 │
│ 4 │ 20 │ −10 │ 0 │ 10 │
│ 5 │ 10 │ −10 │ −3 │ 0 │
最終月利息の根拠(参考):
利息総額(未丸め)= 50 × ((1.01)^5 − 1) = 2.550502505
最終月利息(シルバ未満四捨五入)= 3
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「50枚を5ヶ月で返すなら、総額で53枚になります。」
「月に1パーセント……」
トーマは計算した。
「それなら、セブン・ヴォルトよりずっと安いです!」
「セブン・ヴォルトは、どれくらい取るんですか?」
「最初に3割、それに月に5パーセントです。50枚借りたら、最初に15枚取られて、残りの35枚に月5パーセントの利息がつくんです」
「それは……ひどいですね」
「だから、誰も借りたくないんです。でも、他に選択肢がなくて……」
トーマは苦い顔をした。
「レオンさんの条件なら、ちゃんと返せます。お願いします」
「わかりました。では、担保の確認をしましょう」
俺は、トーマに倉庫の権利書を見せてもらった。
権利書には、評議会の印章が押されていて、倉庫の場所と広さが記載されている。
「この倉庫、評価額はどれくらいだと思いますか?」
「うーん……シルバ300枚くらいだと思います」
「では、鑑定士に正式に評価してもらいます。評価額の7割まで貸せるので、300枚なら210枚まで可能です」
「本当ですか!」
「ただし、最初は50枚です。実績を積んでから、増額します」
「わかりました!」
トーマは何度も頭を下げた。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
「では、契約書を作りましょう」
俺は、新しい契約書の書式を作った。
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【貸出契約書】
契約日: 銀章暦三二年ムギサ月二七日
借入者: トーマ(ルンデル商会)
貸出額: シルバ50枚
利息: 月1パーセント
返済方法: 毎月10枚ずつ、5ヶ月で完済
担保: 倉庫(東門近く、10リル四方)権利書
返済予定:
1ヶ月目(コナト月一七日): 10枚
2ヶ月目(カマド月一七日): 10枚
3ヶ月目(クモリ月一七日): 10枚
4ヶ月目(ツチオ月一七日): 10枚
5ヶ月目(トシメ月一七日): 10枚+利息1.5枚
署名: トーマ
承認者: レオン・ミナト(レギス・レジャー)
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「これにサインしてください」
トーマは、契約書を読んで、サインした。
俺もサインし、実務長の承認印をもらった。
「では、シルバ50枚をお渡しします」
俺は金庫から銀貨を取り出し、一枚ずつ数えてトーマに渡した。
トーマは、銀貨を大切そうに袋に入れた。
「ありがとうございます。必ず返します」
「期待してます」
トーマは深く頭を下げて、窓口を離れた。
俺は、契約書の控えを帳面に添付した。
そして——ミラに声をかけた。
「ミラさん、これから毎月、トーマの返済状況を記録してください」
「わかりました。どうやって記録しますか?」
「こういう帳面を作りましょう」
俺は、新しい帳面を作った。
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【返済実績帳】
借入者: トーマ(ルンデル商会)
貸出日: 銀章暦三二年ムギサ月二七日
貸出額: シルバ50枚
返済予定額: 51.5枚
返済記録:
1ヶ月目(コナト月一七日): 予定10枚 / 実績___枚 / 遅延___日
2ヶ月目(カマド月一七日): 予定10枚 / 実績___枚 / 遅延___日
3ヶ月目(クモリ月一七日): 予定10枚 / 実績___枚 / 遅延___日
4ヶ月目(ツチオ月一七日): 予定10枚 / 実績___枚 / 遅延___日
5ヶ月目(トシメ月一七日): 予定11.5枚 / 実績___枚 / 遅延___日
総合評価: (完済後に記入)
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「これで、返済の実績が見える化されます」
「見える化……」
「ええ。きちんと返済できれば、次の貸し出しがしやすくなる。逆に、遅延が多ければ、貸せなくなる」
「なるほど……信用が、記録になるんですね」
「そうです」
俺は、返済実績帳を棚に納めた。
「これが、信用の仕組みです」




