採用試験と合わない帳面#11
二日目。
俺は、今度はグレンの隣に座った。
グレンは老人で、長年この仕事をしている。
だが——正直、やる気が感じられない。
窓口に商人が来ても、秤も使わず、目視だけで判断する。
「はい、受け取った。次」
記録も、ほとんど書かない。
俺は、様子を見ながら、タイミングを計った。
そして——昼休み前、グレンが休憩に入るとき、声をかけた。
「グレンさん、引き継ぎをお願いします」
「引き継ぎ?んなもん、いらん」
「いえ、必要です。実務長の指示です」
「……めんどくせえな」
グレンは舌打ちをした。
だが、俺は引き下がらなかった。
「これを見てください。昨日、俺が使った引き継ぎ簿です」
俺は引き継ぎ簿を見せた。
グレンは、面倒くさそうに目を通した。
「……で?」
「これを使ったおかげで、帳面が完璧に合いました。一枚も狂わなかったんです」
「……それが?」
「グレンさんは、今まで帳面が合わなくて困ったことはないですか?」
「……まあ、あるが」
「その原因の一つは、引き継ぎがないからです。誰が、何を処理したか——それが記録されてないから、ミスが起きる」
「……」
「だから、これを使ってください。最初は面倒ですけど、慣れれば楽になります」
グレンは、しばらく黙っていた。
そして——ため息をついた。
「……わかったよ。やってやる」
「ありがとうございます」
俺は、グレンに引き継ぎ簿を渡した。
グレンは、渋々ペンを取り、記録を書き始めた。
だが——その字は、震えていて読みにくい。
そして、内容も曖昧だ。
商人……何人か
銀貨……たくさん
金庫……入れた
——これじゃ、意味がない。
俺は、もう一度声をかけた。
「グレンさん、もう少し詳しく書いてもらえますか?商人の名前と、枚数を」
「……知るか。覚えてねえよ」
「じゃあ、次からは、その場で書いてください」
「……ちっ」
グレンは、また舌打ちをした。
だが——午後の業務では、少しずつ改善が見られた。
商人が来るたびに、メモを取るようになった。
まだ不完全だが、ないよりはマシだ。
俺は、その様子を見守りながら、思った。
——人を変えるのは、時間がかかる。
だが、諦めなければ、少しずつ変わる。




