採用試験と合わない帳面#9
午後、俺が戻ってくると——窓口の前で、エリーゼとある穀物商が揉めていた。
「だから、さっき革袋のまま預けたって言ってるだろ!」
「でも、帳面にないんです……」
「嘘をつくな!確かに預けたぞ!」
俺は割って入り、短く聞いた。
「午前中ですね。担当は?」
「たぶん……ダリウスさんの時間帯です」
俺は引き継ぎ簿を開く。
——ない。
商人の名前も、シルバの枚数も記録されていない。
俺は商人に確認した。
「今の運用は、窓口の帳面に書くだけです。あなたの手元に残るものは受け取っていませんね?」
「もらってない。預けたらそっちが書くもんだろ!」
「その通りです。確認します」
俺はダリウスを探し、休憩室で問いただした。
「午前中、シルバを預けに来た穀物商を覚えていますか?革袋で、帽子は黒。声が大きい」
ダリウスは渋い顔でうなずく。
「来た気はするが……忙しくて、帳面に書き忘れた」
俺はため息を飲み込み、即座に指示した。
「推測で書かないでください。金庫方に当たって、現物で確定します」
金庫方に確認すると、黒紐の革袋が一つ保管されていた。
中身を数える。
「シルバ25枚」
ダリウスに引き継ぎ簿への追記をさせ、俺は窓口へ戻った。
「確認できました。午前中にシルバ25枚、確かにお預かりしています。申し訳ありません、記録漏れでした」
商人は鼻を鳴らした。
「だろうが!」
エリーゼがほっと息を吐く。
俺は小声で言った。
「……窓口記録だけの運用は限界だ。次は、揉めない形に変える」
そして、自分の窓口に戻った。




