採用試験と合わない帳面#5
その夜、俺は宿で引き継ぎ簿の書式を改良していた。
五年前の書式は良かったが、もっと改善できる余地がある。
たとえば、処理済みの商人の名前だけでなく、受け取った銀貨の状態(色、傷、音)も記録する。
そうすれば、後で偽貨が見つかったときに、誰から受け取ったかが追跡できる。
次に、金庫への納入時刻も記録する。
担当者が受け取った銀貨を、すぐに金庫に納めているか——それとも、しばらく手元に置いているか。
それを記録すれば、横領や紛失のリスクを減らせる。
俺はペンを走らせながら、改良版の書式を作った。
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【引き継ぎ記録】
日付:
時刻:
交代前担当者:
交代後担当者:
処理済み商人(名前/受領額/銀貨状態/備考):
1.
2.
3.
金庫納入時刻:
金庫納入額:
未処理案件:
特記事項:
担当者署名:
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——これなら、より詳細に記録できる。
俺は満足して、ペンを置いた。
そして——窓の外を見た。
街は静かで、遠くで鐘楼の鐘が鳴っている。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
六回。
夜の六ベルだ。
——今日も、鐘の間隔が不規則だったな。
昼の六ベルから、夜の六ベルまで——本来なら六ベル分の時間が経過してるはずだ。
だが、体感的には、もっと長く感じた。
つまり、鐘楼の担当者が、鐘を鳴らすタイミングを間違えている。
あるいは——意図的にズラしている?
いや、それは考えすぎか。
だが——もし、誰かが意図的に締めの時間を操作していたら?
たとえば、ある商人に便宜を図るために、締め時間を少し延ばす。
あるいは、逆に早める。
そうすれば、特定の商人だけが有利になる。
——これも、調べる必要があるな。
俺はそう思いながら、ベッドに横になった。
明日の試練は、偽貨の鑑定だ。
ダリウスから学んだ知識を活かせば、クリアできるはずだ。
そして——その次は、いよいよ実務の試練だ。
帳面を、完璧に合わせる。
それが、俺の最大の挑戦になる。




