トンネルで
夏休みのある日、大学のサークルで作ったグループラインにメッセージが来た。
「今度の日曜日に肝試しをしよう、か。まあ、暇だからいいか。じゃあ、OKと返事を出してっと」
こうして、俺はその肝試しに参加する事にした。肝試しの場所は近くの山にある使われなくなったトンネルだ。
集合場所はその山のふもとにあるコンビニで、トンネルまでは歩いて1キロほどだろうか。
めったに客が来ないコンビニの駐車場に車を停める。時間は集合時間10分前の21時50分。
一応、コンビニで適当な物を購入し、しばらく停めさせて欲しいとお願いしておいた。
暫くすると、サークル仲間が3人到着した。俺は懐中電灯を持つと、車の外へと出る。
名前は仮に加藤(眼鏡女)、佐藤(痩せた女)、久保(背の高い男)とし、俺を含めて4人となる。
「よぉ、久しぶりだな。夏休みはバイトか?」
など、雑談しながらトンネルへと向かう。アスファルトの道は2車線で、山奥では無いためそれなりに車は通るはずだが、時間が時間なので今は一台も通らない。
街灯はあるが、距離が結構遠いため普通に暗いので、懐中電灯が無かったら思ったよりも怖かったかもしれない。
多少の恐怖を感じながら、トンネルが見えてきた。トンネル内は普通にライトが点いていてそれなりに明るい。
「お、あれがトンネルか。普通のトンネルじゃん」
と久保が言うと、加藤が訂正する。
「違うよ。私達が入る予定なのはその隣の使われなくなった方のトンネル」
加藤が指さしたトンネルは、言われなければ気が付かないほどボロボロで、入り口に蔦がぶら下がっていて暗い中だとそこに入口があるとは気が付かないほどだった。
「結構雰囲気あるね。どれくらいの長さがあるの?」
佐藤が加藤へ聞く。
「そこのトンネルと同じ長さのはずよ。多分、500メートルくらい」
トンネルは少し曲がっていたので、向こう側の出口が少しだけ見える程度だったが思ったよりも近いと感じた。走れば数分もかからず抜け出せるだろう。
「せっかく男女で2人ずつだし、ペアで入ろうぜ」
「いいねー、さんせー」
久保の提案に佐藤が賛成する。俺も反対する理由は無いし、加藤も特に反対しなかった為、男女同士でじゃんけんする。勝った者、負けた者同士がペアとなる。
じゃんけんの結果、久保と佐藤。俺と加藤のペアになった。正直、佐藤の方が好みだったのだが、別に加藤の事が嫌いというわけでは無いので文句は言わない。
「雰囲気を出すために、懐中電灯はペアで1個にするぞ。2個はどうせ帰りに回収するからその辺に置いておけばいいだろ」
「そうだねー。じゃあ、私達が先に入るから数分経ったら入ってきてねー。せっかくだし、出来るだけゆっくりと歩いて行こうよ」
「ああ。そう言う事で、先に行くわ」
久保がそう言って佐藤と手を繋いで入っていく。なんだあいつら、いつの間にそんなに仲良くなったんだよ。いや、元々仲がいい方だったから、これをチャンスにしたって事か?
久保たちが隣のトンネルに比べ、車1一台分くらいの幅しかない狭く暗い場所へと足を踏み入れていく。
電灯の明かりがゆらゆらと揺れているのがわかる。あいつらが入ってから3分くらい経った。普通ならもう向こう側に出たころだろう。叫び声も何も聞こえなかったから、特に何も無かったのだろう。
「じゃあ、俺達も入るか」
「ええ。暗いから、うまく先の足元を照らしてね」
「分かった」
俺が懐中電灯を持ち、トンネルに入る。水はけが悪いのか、最近雨も降っていないのに水たまりができているようだ。
真っ暗な壁にそっと触れると、まるでスポンジのようにぐっしょりしていた。恐らく苔に覆われているのだろう。
俺は懐中電灯で数メートル先を照らしながら前に進む。
さっきのあいつらがうらやましかったので、俺は左手をそっと加藤の方へ出すと、彼女もそっと握り返してくれた。
「そこ、足元気を付けて」
「この壁のシミ、顔に見えないか?」
と、話しながらゆっくりと歩いていたが、出口はすでに見えている距離まで着ている、
トンネルの終わりに差し掛かった時、急に加藤が俺の手を振りほどいた。あいつらに見られるのが恥ずかしかったのだろうか。
だが、横を見ると加藤の姿が無い。どうしたのかとトンネルの中を照らすと、加藤がうずくまっていた。なんだ、転んだだけか?
「大丈夫か?」
俺が加藤に手を貸そうとトンネル内に戻ろうとしたところ、先にトンネルを抜けていた2人が引き留めてきた。
「おい、行くな!」
「行くなって・・・、加藤を助けないと」
「普通の転び方じゃ無かったよ! なんか、ひっぱられた感じだった!」
2人が必死に叫ぶので、怪訝に思ってうずくまる彼女の足元をライトで照らす。
そこには、加藤の足首を掴む白い手が見えた。
「な・・・んだ、あれ・・・」
2人も、照らされた真っ白な手首を見て固まっている。こういう時に限って車は一台も通らない。
数分経っても、加藤に変化が無い。立ち上がる様子が無いどころか、一言も話さない。
「おい、加藤! 歩けそうならこっちにこい!」
俺が加藤にそう叫ぶが、うずくまったまま動かない。
「け、警察呼ぶ? 私、電話するから」
佐藤がそう言って携帯を取り出す。
「え・・・。圏外になってる! なんで!」
「お、俺のも圏外だ!」
「俺のもだ・・・」
契約会社がそれぞれ違うのにすべて圏外。それだけでも異常なのに、3人の携帯の画面が一斉に消える。充電は確かに残っていたのに。
それどころか、懐中電灯までチカチカと瞬きだした。完全な暗闇になったらとてもじゃ無いがトンネルの中へ入る勇気はない。明かりのあるうちにと思い、俺は加藤の元へと駆け寄る。
「俺の手を掴め!」
俺が加藤へ手を出すと、加藤はすぐに俺の手を握る。だが、その手はとても冷たく、粘土質でどう考えても人間の手に感じられなかった。
助ける為に出した手だったが、俺はすぐに加藤のてを振り払ってしまう。
「なんで・・・?」
加藤の口からうらみがましい声が響く。
「どうして・・・? なんで私なの・・・?」
加藤はそのまま、誰に話しかけているのか分からないが独り言をつぶやく。
「助けて、・・・助けてよ!」
加藤が顔を上げると、そこには誰だか分からない顔があった。明らかに加藤じゃない誰かの顔だ。
「ひっ!」
後ろから佐藤の息を飲む声が聞こえる。
「おい、逃げるぞ!」
久保の声に、俺もトンネルから出る。出る寸前に
「どうして、私を―――!」
という声が聞こえたが、不思議とトンネルから出た瞬間その声が途切れた。
ばくばくと鳴る心臓を押さえ、俺達3人は明るい方のトンネルへと逃げた。
「な、なんだったんだ、あれ・・・」
「あ、携帯、繋がるみたい・・・。けど・・・」
「ああ、警察になんて説明すりゃいいんだ」
俺達3人は、どうすればいいか迷う。もう一度トンネルを確認しに行く度胸は無い。
「ねえ、おかしいよ、これ・・・」
「何が?」
「私達、誰の誘いでこのトンネルに来たか覚えてる?」
「そりゃあ・・・誰だっけ? 誰かから、肝試しに行こうってラインが来たから俺はOKの返事出したけど」
「ああ。肝試しに誘ったのは俺だけど、この場所にしようって言ったのは誰だ?」
「私、ラインを確認したけど、誰もこのトンネルに行こうって言ってないの」
「なんだって?」
俺も自分の携帯を確認するが、確かに時間やコンビニに集合と書いてあるが、どこにもここのトンネルに行こうとは書いてない。
さらに言えば、このライングループのやりとりの中に加藤の返信なんて一度もなかった。
じゃあ、さっきまで一緒に居たあいつは、一体・・・。




