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ショートショート→ショートへ  作者: 斉藤一


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お仕置き部屋

俺は工藤卓也。運悪く、就職氷河期に就職する羽目になった大学生だ。


卒業が近づく中、友人たちはやっとの思いで内定を取っていっていた。


俺はと言うと、もう何十社受けたか分からないほど面接を受けているのだが、内定が取れない。


母親にも、「どこでもいいから働いてよね。絶対、ニートなんてさせないからね」と何度も釘をさされている。


別に働きたく無いわけでは無いが、どこの会社も競争率が高くて内定がもらえないだけだ。


「はぁ、まじでこのままじゃ内定が無いまま卒業式を迎えちまう。なあ、どこかいいところ無いか?」


俺は友人の田中直樹に聞いてみる。こいつも俺と同じ何十社と面接を受け、何とか1社から内定をもらっていた。


「おいおい、いいところがあったら俺が行ってるって」


「まあ、そうだろうな」


「あー、でも1社だけ内定貰えそうだった所があったんだ。ただ、もっといい条件の会社の面接日と重なってたから最終面接行かなかったんだけど」


「へー、どんなところだ?」


「確か、普通の営業関係の会社だったと思うぞ。確か、電話番号は登録してあったから・・・」


直樹は携帯を取り出して電話帳を確認する。そして、目的の電話番号を俺に教えてくれた。


「でも、募集してたのは営業なんだがいいのか?」


「この際、どこでもいいよ。よっぽどやばいところならすぐ退職して他を探すわ」


「分かった。じゃあ、頑張れよ」


直樹から激励を受け、俺はその会社へ電話する。3コールの後、受付らしい女性の声が聞こえた。


「はい。○○株式会社、受付担当の佐藤です」


「あ、すいません。僕は○○大学の学生で工藤って言います。あの、社員の募集ってまだやっていますか?」


「少々お待ちください。今、人事部の方へお繋ぎします」


「はい、お願いします」


俺はその後、電話を替わった人事部の課長さんと話し、面接することになった。


そして、とんとん拍子に話が進み、最終面接もクリアして無事内定が貰えた。


そのお礼に、俺は直樹にご飯を奢る事にした。


「いやー、直樹のおかげで何とか卒業前に就職する事が出来たよ」


「お、内定が貰えたのか? よかったな。けど、紹介した手前、俺ももう一度その会社について調べたんだけど、結構離職率高いみたいだぞ?」


「まあ、営業なんて向かないやつはすぐに辞めるだろうからな。俺は取り合えず就職したという結果を得られただけでもいいよ。ダメそうなら、今度はハローワークで職探しするわ」


「そんならいいけど。まあ、とりあえず就職を祝って乾杯!」


「ああ、乾杯!」


俺は直樹と乾杯し、その日はぐっすりと寝ることが出来た。


そして、あっという間に初出社の日が来た。同期は5人。4人が男で女が1人。その紅一点の子の容姿は正直平均以下だったから同期で取り合いにはならないだろう、なんていう失礼な事を考えながら入社式を終える。


それからは研修の日々が続いた。


自社の商品知識はもちろんの事、マナーや態度など営業に必要そうなものは何週間も研修を受けさせられ、身に付けさせられる。


まあ、研修内容はどこの会社でもやってそうな物ばかりで、これだけでブラック企業だと判断できない。


研修自体は県外の研修施設へ新人全員がまるっと入れられていたので、同期とは仲良くなった。


この研修自体も、県外出張扱いで別途お金が貰えるという事だったし、悪くない。


研修が終わると、俺に先輩が指導係として着くことになった。加藤先輩は入社5年目でベテランとまではいかないが、それなりに営業実績をあげている方らしい。


「加藤先輩、今日もよろしくお願いします」


「ああ。お前もそろそろ営業に慣れたか?」


「はい。最近はあまり緊張する事も無くなりました。先輩の営業態度は本当に参考になります」


「ああ、これからも一緒に頑張っていこうな」


この数か月は先輩の営業に着いて行く、いわゆるかばん持ちの日々が続いた。


と言っても、ただ何も考えずに着いて行けばよかったのは最初の数回だけで、それ以降は先輩と一緒に商品資料を作ったりする仕事もあった。


入社から半年たった頃、俺達新人たちに初めてノルマを課せられた。


まあ、まだ新人なのでノルマが達成できなくても特に何も無いと言われたが、達成出来たらボーナスが出るらしい。


「先輩、ボーナスってどれくらい貰えるんですか?」


「まあ、歩合制だが、1億くらい契約を取れば100万くらい貰えるぞ」


「100万?! マジですか?!」


「ああ、マジマジ。つっても、そんなん新人が取れるわけ無いけどな」


「まあ、そうですよね」


「とりあえず、俺が教えたことを理解して、きちんと一人でやって行くんだぞ。俺はもう自分のノルマは最低限達成してるからいいが、見ろよあいつを。あいつはまだノルマの半分も達成してないらしい」


加藤先輩があごで指した先輩社員を見る。その人は、すごい目の下にクマがあった。資料作りや、アポイントを取る電話を取ったりと忙しそうだ。


「あの人、大丈夫なんですか?」


「どうだろうな。あいつはいつもぎりぎりだから、今回もそうなんだろうな」


「えっと、助けたりしないんですか?」


「相当余裕があるならそれもアリだが、後の事を考えると他人を助けている場合じゃない」


「そうなんですか? ノルマが達成できなかったら怒られるんですかね?」


「ははっ、そんなもんならみんなこんなに一生懸命、寝る間も惜しんで働かないだろう」


そして、ノルマの締め切りが近づくと、ノルマを達成していない先輩たちは死に物狂いで働いていた。目を血走らせて、見ているこっちが怖い。そんな顔で営業なんて出来るのだろうかと思うほどだ。


「先輩、どうしてあんなにみんな必死になっているんですか?」


「あれ? 知らなかったのか? なら、知っておく必要があるな。もし連続で2回ノルマを達成できなかったら、お仕置き部屋に入れられるんだ」


「お仕置き部屋……ですか? 今のご時世に、そんな暴力行為なんて働いたら、すぐにパワハラで訴えられて労働基準監督署がくるでしょう?」


「いや、暴力されたりはしないぞ。なにせ、その部屋に入るのはノルマを達成できなかった奴が一人だけで入るんだからな」


てっきり、お説教部屋なのかと思ったらそうじゃ無いみたいだ。それなら、大して怖くないのでは?


「お前、大したこと無さそうとか思っただろ。俺も実際に中へ入ったことが無いから知らないが、入れられた奴は漏れなく会社を辞めている。噂だと、心身喪失状態だったらしいぞ。だから、中で何があったのか俺も聞いてないし、知りたくも無い。ただ、会社を辞めようとするやつもそこに入れられるから、何が何でもノルマを達成し続けるしかないんだよ」


先輩はそう言って忙しそうに歩いて行った。それからしばらくして、あの目の下にクマを作っていた先輩が会社に来なくなった。噂では、ノルマが2回連続達成出来なかったらしい。


「先輩、あの人はお仕置き部屋に入れられたんですかね?」


「まあ、会社をやめたのならそうなんだろうな」


「普通に退職届を出すんじゃだめなんですか?」


「言っただろ、会社を辞めようとするとお仕置き部屋へ入れられるって。だから、定年以外に無事に会社を辞める方法なんて無いんだよ」


俺は普通に無断欠勤で逃げたりできるんじゃないかと思ったが、先輩には言わなかった。


1年が経ち、俺達も普通にノルマが課されるようになった。と言っても、達成不可能なノルマではなく、新人に合わせたノルマだ。それでも、何もしなくても達成できるものじゃ無く、きちんと働かなければならない。


ノルマの達成期限は半年である。そして、半年後、同期の一人がノルマが未達成だった。俺は、気になったのでそいつを飯に誘った。


「なあ、お前、今回のノルマを達成できてなかっただろ? 会社からなんか言われたか?」


「ああ。部長に呼び出されて説教されたよ。くそっ、あのハゲ部長め、ぎりぎりパワハラになら無さそうなラインで人をけなしやがって。だから毛が無いんだよ!」


「ぶっ、お前、それ部長に言ってやれよ」


「んなこと言ったら、さすがにクビになるって俺にも分かるわ」


「・・・一つ聞いていいか? お仕置き部屋について何か言われたか?」


「は? お仕置き部屋? 俺は普通に誰も使ってない会議室で怒られたぞ」


「そうなのか?」


「ああ。けど、次はないぞって脅されたから、次は頑張るしかないがな。今回はちょっとさすがにさぼり過ぎたか」


同期はお仕置き部屋の事を知らなかった。じゃあ、あの話は加藤先輩がノルマを達成させるための脅しの話だったのだろうか? けれど、目の下にクマを作っていた先輩は実際に会社に来ていないし、先輩たちのノルマに対する恐れは本物だと思う。


半年後、同期は2回目のノルマは達成していた。代わりに、他の同期が未達成となっていた。そして、俺も未達成だ。これは、俺が取った営業を1回目にノルマ未達成だった同期に譲ったからだ。


俺はそれが無くても達成できる予定だったが、ノルマ期限ぎりぎりでキャンセルが入ったのだ。


同期が言っていた通り、部長によるパワハラぎりぎりの説教を受け、けなしを思い出して笑いを堪えた後、無事退室できた。確かに、お仕置き部屋の話しは全くでなかった。


もう一人のノルマ未達成の同期である女性の柄本は、俺とは違う部署だったので、違う上司から説教を受けたようだ。ちょうど廊下をすれ違った時、様子がおかしいことに気づいた。


「なあ、何か厳しいことを言われたのか? パワハラを受けたなら、訴えればいいと思うぞ」


「ううん・・・。私、今回の営業成績がすごく悪くて・・・。課長から、次に未達成だったらお仕置き部屋へ行けって言われたの」


「お仕置き部屋? それって、どこにあるの?」


俺は興味本位で尋ねてみる。けれど、柄本は首を振っている。


「場所は知らないわ。けど、先輩に聞いたら、そこに入れられたら死ぬって言われたの」


「まさか。俺も聞いたけど、会社を辞めただけって聞いたよ」


俺は出来るだけ柄本を怖がらせないように話をして、どの先輩から死ぬって聞いたのか聞いてみた」


「私の指導係だった先輩よ」


俺はその先輩に話を聞きに行く事にした。柄本の先輩は、40歳くらいのいかにもキャリアウーマンっぽい格好をした女性だった。名前は谷矢さんらしい。


俺は金曜日の仕事終わりに、谷矢さんを待つ事にした。帰りはバスらしく、いつも同じ時間に退社する事を柄本から教えて貰っていた。


会社から出てくる谷矢さんに話しかける。


「すいません、谷矢さんですか? 俺は柄本の同期で工藤って言います。ちょっと話を聞きたいんですけど」


「あら。柄本ちゃんの同期? まあ、バスが来るまでならいいわよ」


「ありがとうございます。じゃあ、時間も無いので率直に聞きますけど、お仕置き部屋ってどこにあるんですか?」


「・・・なんでそんな事を知りたいの?」


「僕、今回ノルマ未達成だったので、次回未達成ならお仕置き部屋いきって言われました」


俺は嘘をついてそう答える。谷矢さんは、驚いた顔をした後、険しい顔をした。


「柄本ちゃんもそう言われたって言われていたわ。まったく、会社は私達社員の事を何だと思っているのかしら。あんな、行ったら死ぬって言われている場所へ入れるだなんて」


「行ったら死ぬんですか? それだと、事件になりませんか?」


「私も実際にはどうなるのかは知らないわ。けど、私の同期も一人その部屋に入れられたんだけど、会社を辞めた後も連絡がつかなくて、家へ行ってもすでに誰も住んでいなかったの。だから、私は彼女が死んだと思っているのよ」


「なるほど・・・。それで、場所は知っているんですか?」


「知っているわ。けど、誰も気味悪がっていかないわよ? そこは掃除すらしなくていいって言われてる場所だし」


「場所を教えてください」


「興味本位で見に行くのは勧められないわよ。実際に、何人も会社を辞めてるのは本当だし。まあ、その部屋のせいかどうかは分からないけど」


「でしたら、教えてください」


俺は何とか谷矢さんから場所を教えて貰った。俺はすぐに会社に戻り、教えて貰った場所へと向かう。すでに社員はほとんど退社しているので、俺が見つかる事も無かった。


「ここがその部屋か」


その部屋は、5階の階段を降りた先、4階にあった。一度5階に行かないといけないので、普通に過ごしていたらそんな階段があるなんて知る事は無いだろう。


問題の部屋は、どうみてもただの書庫で、ドアには鍵すらかけられないようだ。こんな出入り自由なところで、本当に何があるんだろう?


俺は興味本位で入ってしまった。中は雑多な本が並べられているだけだった。まるで、暇つぶしをするための様な―――


「あ、もしかしてここってサボリ部屋だったとか? だから新人には近づけさせないよう噂を流したとか」


なんだ、そうだったのかと勝手に納得した。先輩たちは仕事に疲れたらここで休憩してたんじゃないかな。お仕置き部屋行きは、罰としてここの掃除をさせられるとかかな。


じゃあ、出るかと思ってドアを見ると、ドアノブが無かった。そもそも、俺はドアを閉めた覚えはない。


「なんで……」


鍵は確かにかかっていないけど、これじゃあ内側から出ることは出来ない。さらに、ついていた明かりが消えた。


そういえば、点けた覚えのない電気がはじめから点いていた。使っていない部屋に電気が点いているわけがない。


「誰か!」


だが、もともと誰も来ない場所だから叫んでも誰にも聞こえないみたいだ。


「そうだ、窓から叫べば誰かに聞こえるかも」


この部屋には窓があり、今は分厚いカーテンで覆われている。窓へ駆け寄り、カーテンを開ける。


するとそこには女性の事務服を着た下半身が垂れ下がっているのが見えた。


「うわぁっ!」


まさか、上の階で首つりか? 俺は腰を抜かしつつも窓から目を離せない。座ったことによって視線の角度が変わり、女性の上半身付近まで見えるようになってしまった。


嫌な事に、徐々にその女性の姿が下がってきている様に見える。体が動かなくて目を背けることも出来ない。徐々に顔が見え――


その時、電話が震えた。見ると、先輩から「まだ帰らないのか? 先に行くぞ?」とメールがきていた。そのおかげか、体が動くようになっていた。


「そうだ、今日は先輩とご飯を食べに行く予定を入れていたんだった! 先輩に助けを呼ぼう!」


何故そのことを忘れていたのか分からないけれど、すぐに先輩に電話した。幸い、その電話で変な声が聞こえたり、勝手に切れたりしなかった。


先輩はまだ会社内に居た様で、すぐに着てくれてドアを開けてくれた。


「へぇ、初めて入ったけどこんな部屋だっ……た……ぎゃーー!!」


先輩は俺の背後の窓を見て、叫んで逃げて行った。俺は振り向く勇気がなく、先輩を追って部屋を出て逃げた。


先輩はそのまま会社を出て、二度と会社へ来る事無く退職した扱いとなった。


先輩が何を見たのか、今になっては分からないが、俺も振り向いていたら同じ様になっていたのだろうか。


俺はそれからも会社へ来ている。あの部屋送りになるのが怖くて退職すらできない。


俺が見た女性は、恐らくノルマを達成できなくて上司に怒られ、自殺したのではないかと思っている。その恨みが、あの部屋に入るものへ向けられるのだろうと。

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