私が寄生虫
「私の愛は、こういう愛なの。わかる?」
永遠とも思える長い時間が過ぎ、マリーローズの唇が離れて、私は床に崩れ落ちた。唇を触る。マリーローズの、姉の唇の感触がまだ残っている。柔らかくて、羽のようで、けれど決して離れず消えないキスの感触。吐き気がする。
「私のファーストキスだよ。アンナは?」
「…っ!」
「そう、もちろんアンナも初めてだよね。だからすごく嬉しい」
マリーローズは本当に嬉しそうに笑う。
「私たちは、姉妹で双子で…」
「わかってるわ。でもだからって、私があなたを愛してはいけないという理由にはならないでしょ?」
「アンナのこと、昔からずっとずっと好きなんだもの」と、マリーローズは子どものような無邪気さで言う。目には狂った光を宿しながら。
「みんなが私を聖女様聖女様って呼ぶけど、アンナだけはマリーって呼んでくれる。誰も私に注意しないけど、アンナは早く起きろとかリオネルを殿下って呼べとか注意してくれる。だから私には…私がまともでいるためにはアンナが必要なの」
あなたはもうまともじゃない。私がそばにいたってまともじゃない。そう言いたいけど、声が喉に詰まる。
「みんなアンナのことを寄生虫だって言うけど、違う。私のほうが、アンナがいなきゃ生きていけない寄生虫なの。みんなが馬鹿で気づいてないだけだよ、おかしいよね」
マリーローズは私の前に屈み、「寄生虫なんて呼ばせてごめんね」と優しく私の身体を抱く。けれどその謝罪には何の心も入っていない。周りにそう呼ばせて放置していたのは彼女で、彼女がそう仕組んだのだから。
私を一人にして、マリーローズしか頼る存在がいないようにさせて。
「私はアンナがいなきゃ生きていけない。だからアンナにもそうなってほしいな。それで、アンナと一生一緒にいるためには結婚しないとね?でも今のままじゃできないでしょ」
マリーローズは「でも大丈夫だよ」と微笑む。患者に向けるような、慈愛に満ちた聖女の微笑み。
「いいことを考えたの。聖杯を使えばいいんだよ」
だからか。だから好きでもない王太子殿下を遠ざけなかったのか。
王家直系の男子のみが使えるというイルミナ王国の聖杯。不可能だと思えるような願いでも、必ず叶えてくれるという。
「アンナを男にすれば、私たち結婚できるよね?騎士服も似合ってたし、楽しみだね」と笑いかけられて、私はとっさに「逃げなければ」と思う。けれど足が震えて動けない。怖い。
「大丈夫だよ、アンナ。私たち二人だけで、ちゃんと幸せになれるから」
「リオネルが早く聖杯に願いをかけてくれるように、もう一回頼まなきゃ」とマリーローズは立ち上がる。
「アンナは聖杯の用意ができるまで、ここを出ちゃだめだからね」
マリーローズの声は、祈りのように穏やかだった。
「アンナが男になったら、またキスしようね」




