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不幸な少女は神になる  作者: カモノハシ


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序章-4


 ラキは跳ねる心臓を抑えながら、シンとした自室の空間にさえ若干の恐怖を覚え、心配そうにすり寄って来たハッピーを優しく撫でた。


 


 「やな夢…」


 


 それから少し経ち、ラキの呼吸の震えがようやく落ち着いてきたかと言ったその時、ラキの頬をすーっと冷気が伝った。



 冷気の量は尋常ではなく、窓が開いているのかと思わせるほどであった。


 この家はオンボロと呼ぶのに相応な建物だが、それでも窓や扉を閉めている時に外気そのままが流れてくることはない。


 ラキは自室の窓に目をやるが、やはりその窓は開いてなどいなかった。



 (まあ今日は雪が降っていたし)



 ラキは自分をそう納得させて目を瞑ったが、恐怖で上手く寝付けず、ハッピーを抱きしめる事にした。



 シンとする世界を紛らわそうと、ハッピーのフワフワとした毛に耳を擦り付けたが、その時ラキの耳にはある不穏な音が飛び込んできた。




…ギィ…ギィ。


 


 これはまさしくこの家の階段を登る音だ。



 「おばあ…ちゃん?」



 ラキは目を凝らして暗闇の中で時計を見つめ、今の時間を確認する。



 まさしく真夜中、老夫婦であるはずがない。



 老夫婦はどちらも、いつもラキと同じくらいの時間に眠るはずなのだ。



 ラキは足音の行先に耳を傾ける。



…ギィ…ギィ



 程なくして足音は階段を登る音から、廊下を歩く音に変わった。



 そして…ペタ…と、ラキの部屋の前で立ち止まったかのように、足音は止んだ。



 恐怖でラキの震えが激しくなっていく。



 ハッピーもラキの恐怖を感じとり、扉を凝視している。




 そして間も無く…カチャ…と、部屋のドアノブが捻られた。




 「ワン!ワン!」



 その瞬間、ハッピーが咄嗟に立ち上がると、扉に向かって吠え出した。



 ラキはハッピーのその声に驚いて、ベッド沿いの壁に頭をぶつける。



 扉を開けようとしていた相手もその声に怯んだのか、僅かに手が止まった。



 しかし、それでも扉を開けることを辞めることはなく、ドアノブは遂に最後まで回された。



 「わん!わん!」



 なおも吠え続けるハッピーの声が家中に響き渡る。



 そして遂にその扉が開かれるかと思った瞬間…



 廊下の奥の方から老婆の声が聞こえてきた。



 「あんた、ウチのワンちゃんに何か用事かい?」



 ラキはハッとして、その2人 (であろう)の会話に耳を澄ませた。



 ハッピーもまた、その気配を感じとったのか、咄嗟に大人しくなる。




 「…おや、どうも、ご婦人。夜分遅くに失礼。少し人を探していて…ね。」



 その声色は老婆でも老爺でもない。明らかにラキの知らない声だ。



 そしてその声は、年齢は愚か、性別すら判断できない不思議な声であった(話し口調は人を小馬鹿にしている男性のようなものであった)。



 そして老婆とその謎の人物の会話は進む。




 「この部屋に人は居ないよ。昔失った子供の部屋なんだ。今は犬の寝床になってるのさ」




 「ク…クク…そうか。それは失礼。…確か…男の子だったか。あの…瞳の青い…」



 老婆の声色が僅かに変化した。震えているような、不安を感じているように。



 「へぇ、覚えているのかい。なら話は早いね。アンタも知ってんだろ。ウチには他に子供なんて居ないんだってこと。」



 「なるほど確かに…貴女にはもう子供は居なかったか。しかし、ならこの幼女の香りはどこから…」



 謎の人物が爪で扉を叩いているのか、コッコッという音が聞こえてくる。



 「…そりゃ、アタシからだろうね。」



 先ほどまでと違い、老婆が力強く言い放つ。



 するとそれを聞いた謎の人物は紳士とは程遠い、高い声で高らかに笑った。


 「ハハハ!」



 そしてこう続けた。



 「なるほど、私からしたら貴女も幼女同然!ハハハ、そうだった!私は貴女を迎えに来たのだった!」



 老婆はその嘲笑のような返答に遅れを取ることなく、口を開いた。



 「そうだろう。じゃあほら、私と行くよ。」



 「ククク…いいだろう。そのユーモアに免じて今回はそういう事にしてやろう。」



 そうして扉前の二人は会話が終わると、一緒に階段を下って行くような足音を立て始めた。



 間も無く一階の玄関の扉が開く音が聞こえ、足音もそれと共に消えていった。



 ラキは家の中が静まり返っていることを確認すると、急いでベッドから跳ね起き、階段を駆け足で降りていった。



 そして玄関の扉を開き外を見回すが、真っ白なその村に二人の姿は見つけられなかった。




 降り積もっている雪には二人の足跡さえ残っていなかった。

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