序章-1
この物語の主人公は、幼い赤毛の少女。
彼女の名前はラキという。
その少女は元気で明るくて、いつも笑顔でいるような楽しい子だった。
彼女の住む村の大人たちもまた、そんなラキを見かけるといつも笑顔になる。
「ラキちゃんは本当に元気だねぇ」
大人たちはラキを見てよくこう言った。
その時いつも、ラキは得意げな顔をする。
そんな様子でラキが暮らしているのは、山あいの小さな村。
地図に名前が載るかどうかも怪しい、ひっそりとした場所。
電気もまだなければ、派手な娯楽もない。
駆ける風や稲の靡く音を皆は楽しんでいる。
そんな、静かで穏やかな村だった。
ラキは、二人の老夫婦と暮らしていた。
ラキと老夫婦の間に血の繋がりはないが、ただそれだけの事だと皆考えていた。
「おはよう、ラキ。今日はいい天気だよ」
「お婆ちゃんおはよう。ホント?やったあ!」
ラキは外で遊ぶ事が大好きだ。
だから、この日のような久しぶりの青天の日は、寝起きにも関わらず外に飛び出していく。
遊び相手は……
「お外行くよ、ハッピー!」
愛犬のハッピーだ。
ハッピーは肉親のいないラキを気に掛けて、老夫婦が貰ってきた犬だった。
さて、ラキは外で遊ぶのが大好きだと言ったが、老婆はそのラキを眺めているのが大好きだった。
「ふふ……」
お気に入りの椅子に座り、お茶を飲みながら窓越しにラキとハッピーを眺めて老婆はつい微笑む。
そして老婆はラキの長い健康を願う。
今は亡き、かつての息子のようにはなって欲しくない、と。
老婆はラキにその息子の分まで深く愛情を注いだ。
そしてラキもまた、その愛に素直に応えるように育っていた。
ラキとハッピーは今日もまたボール遊びをしている。
ラキがボールを投げ、ハッピーがそれを拾いに行く。
ハッピーはボールを持ってくると首を大きく振って、咥えたボールをラキに投げ返そうとするが、思わぬ方向にスポーン!と飛んでいく。
ハッピーはボールを見失いキョロキョロとしている。
そしてラキはそれを指さしてケラケラと笑うのだった。
ハッピーはその後ボールを見つけ、拾うと、今度はラキの元に駆け寄り、ラキが差し出す手のひらの上にボールを置いた。
「おー!えらいえらい!」
ラキはハッピーの頭や顎をわしわしと撫でる。
ふわふわで白いハッピーの毛は綿のようで、落ち着く。
ハッピーはラキがまだ赤ん坊の頃から、ずっとそばにいる。兄妹のようなものだった。
ふと、風が駆けて草の匂いを巻き上げる。
空を流れる雲が少し、少しだけ速くなる。
「……ずっとこのままでいたいな」
ラキはハッピーにそう話しかけた。
ラキは信じていた。願っていた。
この平凡な幸せが終わらない事を。
……ただ。この先その希望は叶わない。
この時、とある1人の『死神』がラキを見つけてしまったから。




