カチカチ山・雨たぬきの物語【たぬき祭り参加作品】
アンマンマン様(https://mypage.syosetu.com/1303803/)主催の【たぬき祭り参加作品】です。
遅ればせながら、1作書かせていただきました!(*´▽`*)<主催者のアンマンマン様、ありがとうございます!
昔々、カチカチ山で悪さをして命を落とした一匹のタヌキがおりました。
・・・けれど、そのタヌキにはひとりの息子がいたのです。
息子のタヌキは、父のようになってはいけないと、ひっそりと人里近くの山に住みながら、村人たちの農作業を手伝ったり、薪を集めたりと、一生懸命に働いていました。
自分の正体がバレてはいけない。
「悪いタヌキの子だ」と言われてしまったら、また人間たちに憎まれてしまうから。
だから、彼はいつも黙って働き、名前すら名乗りませんでした。
他の者より抜きでた働き者の『たぬき』。
村人たちはそんなタヌキを、「働き者の“他ぬき”」と親しみを込めて呼んでいました。
けれど、ある日──
あの時のウサギと、助けられたおじいさんが村にやってきました。
そして、ふとした拍子に息子タヌキの正体が知られてしまったのです。
「アイツは、あの悪いタヌキの息子じゃ!」
ざわめき、怒号、恐怖。そして村人たちは、夜の山へ松明を持ってタヌキを追いました。
タヌキは「ちがう、ぼくは悪くない……」と叫びながら、深い山へと逃げていきました。
しかし、その年は雨がまったく降らず、山はカラカラに乾いていました。
松明の火が枯葉に燃え移り、あっという間に山火事になってしまったのです。
「た、助けてくれぇ!」
「火が!火がこっちに来るぞ!」
逃げ惑う村人たち。タヌキは山のてっぺんでそれを見ていました。
──自分のせいで、また誰かが傷つくのか?
タヌキは決意しました。
「ぼくが、雨になる!」
そして空に向かって大きく吠えると、彼の体はふわりと変化し、もくもくとした雨雲になって空へとのぼっていきました。
激しい炎に向かって、雨を降らせるタヌキ雲。
けれど火の勢いはすさまじく、どんどん水分を失っていきます。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
身体中の水分を喪いながらも、タヌキは必死に火を消そうとします。
そして、涙を流しながら、タヌキはひたすら雨を降らせ続けました。
その涙が、火の最後のひとかけらを、静かに消し去ったのです。
──気がつくと、村人たちは無事でした。
燃えかけた木々と多くの命は雨で救われ、あたりには静寂が戻っていました。
そして、そこには──
ふたたびタヌキの姿に戻った彼が、地面に横たわっていました。
「もっと……もっと、みんなと一緒にいたかったな……」
静かにそう言って、タヌキは笑顔のまま、息を引き取りました。
村人たちは泣きました。
ウサギも、かつて父にひどい目に遭わされたおじいさんも、みな、涙をこぼしました。
「おまえは、立派だったよ」
「もう、悪いタヌキの子じゃない。おまえは、わしらの仲間じゃ」
そう言って、タヌキを丁寧に埋葬しました。
父タヌキの墓も隣に建て、こう書かれた碑をたてました。
『ここに眠るは、かけがえのない“他ぬき”。
罪を越え、涙で山を守り、みんなと心をつないだ友。
われら、彼を忘れぬ。』
こうしてタヌキは、唯一無二の『他ぬき』になったのでした。
(おしまい)
たくさんのご感想を頂きまして、とても嬉しく思います。皆様、ありがとうございます!m(_ _)m
心の善悪は不変ではなく、立場や状況によって容易く変わっていくものです。
どうか、皆が幸せになる道が見つかりますように…(*人´ω`*)