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マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜  作者: 我島甲太郎
第三章 朱夏の南国と不死鳥の塔

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第84話 パイレーツオブギース亭

 海都カナンの西にある温泉街、少し海から離れたこの場所は古くから中央大陸西部へと向かう旅人の宿場町として親しまれていた。


 元々この辺りはオーガの集落があった場所だったので、アモロ共和国ができて海都カナンが発展した後もここでは地主のオーガを中心として宿や旅館が営まれている。


 およそ800年の寿命を持つオーガはヒューマンやバードマン、獣人のような100年程度の寿命を持つ短命種と比べても子供の数が少ない。


 時代が進んで職業の多様化が進み、地元を出て探索者になろうとする若者が増えたことで、この温泉街にあるオーガの宿や旅館の後継者問題は深刻化を始めていた。



 迷宮塔イーラの探索者ギルドを出た俺達は、バスに乗り海都カナンの西にある温泉街までやってきていた。


 この辺りは観光地ということもあり和風情緒(あふ)れる街並みにはビルのような景観を破壊する高層建築はなく、源泉から沸き上がる白い湯気が遠目にもよく見えた。


「んー、なんか変な匂いがするにゃ」

「俺、温泉に入るのは中学の修学旅行以来だから楽しみだったんだよね」

「中学というと、お主の故郷にある高等学校のことじゃったか」


 この世界の小学校である初等学校は5~10歳まで、中学校に当たる高等学校は10歳~15歳になっている。


 15歳で成人した後はおおむね働きに出るので、それ以上の高等教育を求める場合は高いお金を払って数少ない世界各地の大学に通うことになる。


 そしてネフライトの魔道学院に至っては、論文を送って向こうの学者に認められなければ受験することすらできない。


 まあ、あの国は建国以来ずっと鎖国しているのでしょうがない。

 外部から変な人間を招き入れて世界樹を切り倒されでもしたらコトだからな。


「そうだね。そこでは3年の義務教育が課せられていたんだけど、一度だけ教師と学生だけで国内旅行に行ける機会があるんだ。建前は勉強の為ってことになっているけど、要はただの観光旅行さ」


 中学では広島に行って迷子になり、高校では沖縄に行って遊び倒したっけな。

 俺はもう会えない友人のことを思い出して、少しだけ望郷の念に駆られた。


「それならあちしも高等学校の時に行ったことがあるにゃ。バストリアスの雪山でスノボ遊びをしたにゃ。楽しかったからまたいつか行きたいにゃー」


 バストリアスは中央大陸の北にあるティアラキングダムの街だな。

 近くの山の山頂からネフライトの世界樹が見えるので、ティアラキングダムでは結構人気の観光スポットらしい。


「なんだ、どこもやることは変わらないんだな」

「わしは学校には通ったことがないからのう。二人が(うらや)ましいわい」

「なあに、思い出はこれからたくさん作ればいいさ。そうだろう?」

「ハルト……」


 俺がアンバーの小さな手を握ると、彼女はポッとほっぺを赤く染めた。

 我慢できずにそっと彼女に顔を寄せるが……。


「アンタら、そういうのは宿でやって欲しいにゃ」


 呆れ顔のミュールに止められた。

 人の往来(おうらい)だもんね、バカップルみたいな真似は(ひか)えた方がいいか。


「ごめんよミュール。行こうかアンバー」

「そうじゃのう。ミュールよ、いつものように案内を頼めるか?」

「これがあちしの仕事にゃ。誰にも渡さないにゃ」


 俺とアンバーは手を繋いで、「みるだむ カナン」を見ながら先を歩いているミュールの背中を追って歩き出した。



 途中の売店で鬼ノ湯饅頭などを買い食いをしながら温泉街の中心地へと向かった俺達は、日が傾いた頃にようやく目的地のパイレーツオブギース亭に到着した。


 旅館の外観は大きな武家屋敷のようになっていて、白い漆喰(しっくい)が塗られた瓦屋根の外壁で広い敷地が囲まれている。


 入口の門には「紀元前四百九十年創業 旅館鬼瓦」という大きな看板が掲げられていて、その横に「パイレーツオブギース亭」という看板が並んでいた。


 俺達は開け放たれていた門から中に入ると、松の木なんかが脇に植えられている石畳で舗装された道を歩いて武家屋敷の入口にある大きな引き戸を引き開いた。


「うわ、何だこりゃ」


 旅館の玄関から入ってすぐ見える真正面の壁に、海賊服を着て右目に眼帯をしたオーガの男が描かれたでかい肖像画が飾られていた。


「ん-、どこかで見た顔だにゃ。どこだったかにゃ……?」

「海賊王ギースの肖像画じゃな。お主もジョニアート美術館で見たじゃろう」

「そう言えばそうだったにゃ。あちしもうっかりしてたにゃ」


 周りを見渡すと、高級な旅館の装いに似つかわしくない(いかり)だの網だのといった船舶(せんぱく)グッズがあちらこちらに置かれている。

 イクコさんは生粋のギースオタクと聞いてはいたが、ここまでとはな……。


 俺達が玄関の土間で話していると、着物を着たオーガのお姉さんがやってきてこちらに挨拶してきた。


「皆様ようこそいらっしゃいました。当旅館は創業3000年の歴史を持つ『旅館鬼瓦』……改め『パイレーツオブギース亭』でございます。宿泊のお手続きを致しますから、どうぞ靴を脱いでお上がりください」


 俺達は靴を脱いで下駄箱に仕舞うと、高そうなスリッパを履いて玄関の近くにある受付へと足を運んだ。


 高級感漂う木製のカウンターに立ったオーガのお姉さんに、アンバーはポーチから取り出した旅館の無料宿泊券を差し出しながら話し掛ける。


「わしらはアクアマリンからきた探索者じゃ。お主らには悪いがしばらくタダで泊めさせて貰うつもりじゃが、よいな?」

「ええ、もちろんです。アンバー様にハルト様、お二人のことは叔父様から伝え聞いています。娘のモモが大変ご迷惑をお掛けしたようで……」


 どうやら彼女が暴れん坊6歳児、モモちゃんの母親のサクラさんだったらしい。

 確かに、そう言われてみると何となく面影はあるように思える。


 モモちゃんも成長したらこれくらいの美人さんになるのだろうか。

 これは将来、オーガの少年タケシくんのライバルが多くなりそうな予感がする。


「お主がモモの母親のサクラか。謝らんでよい、わしはモモのやることを迷惑だと思ったことなど一度もないからのう」

「モモちゃんのおかげで俺は好き嫌いがなくなったよ。胃腸も強くなったしいいことずくめだね」

「申し訳ございません!」


 モモちゃんは鬼の隠れ家亭にやってくるまでの間にどれだけこの旅館で暴れ回ったのだろうか。

 サクラさんの堂に入った謝り方を見て、俺は心の底から畏怖(いふ)を感じた。


「どーでもいいけどにゃ、あちしは早く温泉に入りたいにゃ」

「申し訳ございません! すぐに宿泊のお手続きを始めますから、皆様はギルドカードのステータスを確認できる状態にしてお待ち頂けますか?」


 そう言いながらサクラさんはカウンターの下から台帳を取り出した。

 俺達がステータスを表示して彼女に見せると、サクラさんはサラサラと開いた台帳に書き込んでいく。


「……宿泊のお手続きが終わりましたので、皆様を客室までご案内させて頂きます」


 俺達はサクラさんに案内されて、魔道行燈(あんどん)の柔らかな(あか)りに照らされている木の廊下を歩いていく。


 広い廊下に並ぶ障子で仕切られた部屋の入口の上にはそれぞれ赤狼の間、鱗亀の間、鬼蜘蛛の間……などと書かれた木製の看板が見える。


 どうやらこの旅館の客室の名前はイーラ迷宮に出現する魔物をモチーフにしているようだ。

 奥に進むごとに障子の影絵が強そうな魔物に変わっていった。


 屋敷の外にある渡り廊下を通って、離れ屋敷の入口の前でサクラさんがこちらに振り返った。


「こちらが皆様のお部屋、ゴールデンハムマンの間でございます。部屋の向こうは貸し切りの露天風呂となっておりますので、どうぞご自由にお楽しみください」


 部屋の入口の上にある看板には金鼠の間と書かれている。

 アンバーが金箔のハムマンの影絵が貼られた豪華な障子を引き開けると、部屋の中は広い畳敷きの和室になっていた。

 宿泊客が落ち着いて過ごせるように考え抜かれた、優しい雰囲気の和室だ。


「いい匂いがするにゃー」


 踏込(部屋の入口)でスリッパを脱ぎ捨てて部屋に入ったミュールが畳に()いつくばって、い草の香りを楽しんでいる。


「おー、これはいい和室だ。これ、本当にタダで泊まっちゃっていいんですか?」

「この部屋は宿泊料が余りにも高額過ぎる為、宿泊されるお客様がほとんどおりませんので何も問題はございません」

「ちなみにおいくら万メルなんです?」

「……1泊10万メルです」

「たっか!」


 俺の言葉にサクラさんは困ったような笑みを浮かべた。


「先代の遺言で値下げすることができないんです。ですから、こうして叔父様の選んだ信頼できるお客様だけをお泊めしているわけです。たまには使わないと部屋が傷んでしまいますからね」


 サクラさんの言い分では俺達は親父さんに信頼されているらしい。

 それは……とても嬉しい話だ。


「これは凄いにゃ! 二人とも、早く早く!」


 部屋の奥の引き戸を開けて外の露天風呂に続く脱衣所の中を物色していたミュールが、脱衣所から顔を覗かせて俺達を呼んでいる。


「ミュールが呼んでおるわい。わしは先に行っておるからのう、ハルトはサクラから話を聞いておいておくれ」


 アンバーはそう言って部屋に上がると、ミュールのところへ向かっていった。


「じゃあすいませんがサクラさん、この旅館での過ごし方を教えて貰えますか?」

「そうですね、まずはお食事のお時間ですが――」


 俺はサクラさんから必要な情報を聞き出すと、彼女にお礼を言って和室の中に上がり込んだのだった。

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