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マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜  作者: 我島甲太郎
第二章 ティアラキングダムの秘宝

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第63話 ラブソングを君へ

 アルビノの天使に懲罰室へ連行されていくガルムを俺達が見送ると、流れ続けていたサクレアの曲が終わり城の中庭が静寂(せいじゃく)に包まれた。


 俺達の目の前に、ばさりと羽音を立てて二人のバードマンが降り立つ。

 ファルコとサクレアの二人だ。


「ずっと空から見てたぜ、二人ともよくやったな!」


 ファルコが頑張った俺達にお褒めの言葉をくれた。

 その隣でサクレアはその黄金色に輝く美しい翼を胸に当て、俺達に向かって深く礼をした。


「ファルコから話は聞きました。私を助ける為だけに、はるばるこのジャスティンまでやってきてくださったと……」

「なあに、ただのついでじゃ。そこまで(かしこ)まる必要などどこにもないぞ。のう、ハルトよ」

「ああ。俺達は正義の味方、Bランク探索者パーティー『こん棒愛好会』だ。そこに悪がいる限りどこからでも駆け付けるさ」

「サクレア、無事で何よりだ」


 俺達がサクレアに格好付けていると、ガルムの部下を外の護送車に搬送していたゴブリン兵を(まと)めていたイチゴロクニがこちらにやってきた。


「歓談もいいガ、先にあの邪魔な氷を片付けてくれないカ」


 彼の指差す先には城の出入口を塞ぐ巨大な氷塊があった。

 先ほど俺が撃ち込んだアイシクルカノンである。


「ああごめん、イチゴロクニ。アンバー、頼めるか?」

「仕方がないのう」


 アンバーはダッシュで氷塊に近付くといかずち丸を振るってあっという間に氷塊を砕いて通れるようにしてくれた。

 軍服を着たゴブリン兵達がぞろぞろと列を成して城の中に侵入していく。


「お前達の仕事はこれで終わりダ。バルコニーに行って飯でも食っているといイ」

「だってさ、行こうかアンバー」

「そうじゃな、ミュールとも合流せねばならんしのう」


 俺とアンバーはゴブリン兵に紛れて城の中に入っていった。

 ちなみにファルコとサクレアは空を飛んで先にバルコニーへ行っている。


 赤褐色の城の入口ホールは吹き抜けになっていて、正面には巨大な階段があった。

 俺達はゴブリン兵の一人に案内されて城の上層にあるバルコニーまでやってきた。


 そこではガルムに捕まっていた獣人の女性達が、ガルムの食べていた豪勢な料理を前に楽しそうにおしゃべりをしていた。


 ガルムはやることをやっていたようで、女性達の中には腹が大きく膨れている者や小さな赤子を抱えている者が何人もいた。


「—―荒野を駆けるあちしらの車に向かってチューブニオンデスワームの群れが襲ってきたのにゃ! そこであちしが車を飛び出して、襲い掛かるワームの群れをばっさばっさと――」


 どうやらミュールはそんな彼女達に旅の自慢話をしているようだった。


「ミュール、嘘を話すのはやめろよ。チューブニオンデスワームが襲ってきたのはお前が巣の近くで迂闊(うかつ)にイツカデーツを取り出したからだろう」

「にゃにゃ!? オマエら、いつから聞いていたのかにゃ!?」

「今からだよ……」


 俺が呆れていると、赤毛のワーキャットの女性が俺達に声を掛けてきた。


「ミュールの母のチュールです。娘がとんでもないご迷惑をお掛けしたようで……本当に申し訳ございません」


 ミュールのお母さん、とても美味しそうな名前ですね。

 いな〇食品に怒られないかな。


「彼女は確かにトラブルメーカーだけどね、決して悪い人間じゃないことだけは知っているから。お母さんも余り気にしないで欲しい」

「ミュールがアクアマリンにきたおかげで、わしらがジャスティンの窮状(きゅうじょう)を知ることができたのは事実じゃからのう。それを思えばむしろ大手柄(おおてがら)じゃ」

「そうですか……」


 俺達の言葉にチュールは納得していない様子だった。


「みなさんは地下牢に捕えられていたと聞いていましたが、大丈夫でしたか?」

「ええ、ガルムは娼館の支配人をしていたこともあって女性の扱いだけは上手でしたから。むしろ贅沢(ぜいたく)のし過ぎで太ってしまったくらいです」


 そう言ってチュールは少しポッコリとしたお腹を()でていた。

 それ本当に肥満なのかな、おめでたとかじゃなくて?


「だってさミュール。お前も捕まっておけば贅沢三昧(ぜいたくざんまい)できたってのに、勿体(もったい)ないことをしたな」

「ハルトはあちしのことを何だと思ってるのかにゃ!?」

「飯のことしか頭にない駄猫だよ」

「酷いにゃ! あちしだってみんなの為にあんなに頑張ったのに……!」


 彼女が何か頑張っていたことなんてあったっけ。


 ……何も思い当たらない。

 人質救出作戦も戦力的にはクロ一人で十分だっただろうし。

 非常に悲しいことだが、彼女はこの先もペット枠になりそうである。


「立ち話をしてないで、お前らも早くこっちにきて飯を食おうぜ!」


 俺達が立ち話をしているとバルコニーの大テーブルの前、それもガルムが座っていたであろう豪華な椅子に座るファルコがこちらに呼び掛けてきた。

 ファルコの隣に寄り添うようにして腰掛けたサクレアが小さく翼を振っている。


「ファルコが呼んでおるわい。ゆくぞお主」

「ああ、そうだな」


 俺達はファルコ達の近くにあった適当な椅子に座り夕食を取ることにした。

 この大人数じゃ流石に足りないかと思ったが、すぐにこの城に勤めているゴブリンメイド達が新しい料理を作って持ってきてくれた。


 俺達がおしゃべりをしながらワイワイと宴会をしていると、近くに見える探索者ギルドの屋上の鐘がゴーン、ゴーンと音を立てて鳴り響いた。


「ガルムのやつ、もう音を上げたのかにゃ。早いにゃー」

「アンバー、これは?」

「ダンジョンマスターの代替わりを告げる鐘の音じゃのう。まあそういうことじゃ」


 第一級懲罰は月光教のテロリストなんかを対象にしたガチの拷問だからな……。

 すべての情報を引き出されて廃人になったガルムがゴブリンに引き渡されて処分されたのだろう。


 意地さえ張らなければ慈悲(じひ)の死だけで許されたというのに、愚かな男だ。

 俺がガルムの冥福を祈っていると、フライドチキンを片手に持ったミュールがバルコニーの手すりに移動して身を乗り出した。


「ジャスティン市民達が城の中庭にどんどん集まってきてるにゃ! おーい!」


 下に向かって手を振るミュールに釣られて俺達も手すりに移動して見渡してみると、確かに沢山の市民がマジックボムで穴の開いた城門を通って集まってきていた。

 ファルコの隣に立つサクレアの姿を見た市民達がワッと大きな歓声を上げる。


「皆様お待ちかねのようです。少し早いですが即席のコンサートと行きましょうか」

「いいのか、サクレア」

「ええ、これが私の仕事ですから」


 尋ねた俺にふわりと笑みを浮かべたサクレアはバルコニーから飛び立った。

 どこからともなくイントロミュージックが流れ始める。

 ジャスティン城を舞台にしたサクレアのライブコンサートが始まったのだ。


「あちしは幸せ者にゃ……」

「サクレア、大きくなったな……!」


 手すりにもたれかかって(ほう)けているミュールの隣で、生まれて初めてサクレアの晴れ舞台を見たファルコが感動に涙を流している。

 お前はサクレアの父ちゃんか。


「このような特等席でサクレアのライブを鑑賞できるとはのう。わしらも頑張った甲斐があったというものじゃ」

「そうだな……」


 サクレアの本気の歌唱スキルが乗った生の歌声は、マジックディスクで再現されたものとは比べ物にならないほどに素晴らしい音色だった。

 一度聞けば誰もが(とりこ)になる、幸福の詰まった音の津波が押し寄せてくる。


 ライザの原画といい、極まったスキルは時に世界さえも塗り替える。

 あらかじめ心の準備をしていなければ、俺もミュールのようになっていただろう。


「お前達、楽しんでいるか?」


 後ろから掛けられた声に振り返ると、そこにはクロとイチゴロクニが立っていた。

 イチゴロクニの額には大きな瞳を模した刻印が刻み込まれている。

 まごうことなきダンジョンマスターの証だ。


「お前達のおかげでこの迷宮都市ジャスティンは救われタ。礼を言ウ」

「なに、お主らが居なければわしらも相当な苦労をしたじゃろう。……礼はドフス鋼のこん棒でよいぞ」

「アンバー、最後の一言は余計だと思う」

「ハルト、大きな仕事には確たる報酬がなければいかんのじゃ。そうでなければ返せもせぬ恩を抱えたまま悶々(もんもん)とした日々を送ることになるからのう」

「本当にそれだけでいいのカ?」

「わしらは『こん棒愛好会』じゃ。最高のこん棒を期待しておるぞ」

「分かっタ。ジャスティン(いち)の鍛冶師に依頼をしよウ」


 まあ、金の為にやったことじゃないし別にいいか。

 次の「わしとこん棒7」のネタにもなるだろうしな。

 俺はどうでもいいことを棚に上げて、サクレアのライブに集中することにした。



 サクレアのライブコンサートが始まって2時間が経ち、いよいよコンサートも大詰めになった。

 この城の中庭にはジャスティン中の市民が集まっているのではないかと思うくらいに人の山ができている。


 城壁の上にはバードマンが腰掛け、探索者ギルドの屋上にはゴブリンの群れ。

 それだけではなく、近くの建物の屋上にすら人の姿があった。


 最後の曲が終わりイントロミュージックが止まると、青白い月に照らされた中庭がシーンとした静寂(せいじゃく)に包まれる。

 両翼をはためかせ空に浮かぶサクレアが、観衆に大きな声で語り掛ける。


「皆様、本日は私のジャスティン城を舞台にしたライブコンサートにお越しいただき誠にありがとうございます。最後になりますが、ここ迷宮都市ジャスティンのダンジョンマスターの代替わりを記念してこの特別な曲をお届けしようと思います」


 サクレアはバルコニーに視線を向けて満点の笑みを浮かべた。


「うふふ、歌いますね。『ラブソングを君へ』」


 イントロミュージックとともにサクレアの美しい歌声が天に響き渡る。

 そしてそのサクレアの歌声に乗せられた魔力が、青く輝く一筋の光となってバルコニーの方へゆっくりと流れていく。


 その光の流れの先にいたのは、一人のバードマンの男。

 運び屋ファルコだった。


 サクレアは夢中で歌いながらファルコのもとへ飛んでいき、バルコニーの手すりにその鳥足を乗せて両翼を差し出した。

 それに対してファルコは――


「長い間待たせて、悪かったな」


 —―サクレアの両翼に自らの両翼を重ねて、そう告げた。

 バルコニーの手すりから飛び立ったサクレアの瞳から零れ落ちた大粒の雫が、青白い月明かりに照らされてキラキラと輝きながら風に乗って消えていく。


 15年の時を越え、分かたれていた比翼は(ちぎ)られた。


 曲が終わり音楽が止むと、一瞬の間を置いて大きな歓声が沸き上がる。

 迷宮都市ジャスティン中の市民に見届けられて、二人の愛は永遠のものとなった。

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