第47話 バニーガーデン
歓楽街の路地裏にある空き地でミュールと話している間に夜も更けてしまった。
俺達もそろそろ明日のことを考えて行動しなければならないだろう。
「ところでミュールよ、お主は今どこに泊まっておるのじゃ?」
「あちしは今日この街にきたばかりだから、まだ宿は決まってないにゃ」
「一つ聞くけど、ここにくるまではどこで寝ていたんだ?」
「お金ないからそこら辺の屋根の上で寝てたにゃ」
「道理で臭いと思ったよ! 風呂くらい入れ!」
こいつ、猫のくせに洗ってない犬の匂いがするんだ……。
俺の言葉にミュールは腕をぶんぶん振って言い訳を始めた。
「あちしだって毎日水浴びはしてるにゃ! これはアレにゃ、魔道列車に隠れた時にアルビオンシープの家畜車に乗ったのが原因だと思うにゃ」
「ふむ、それは追手の探知スキルをごまかすのが目的か?」
「そうにゃ。明日ここのダンジョンでお金を稼いでからクリーニングとか色々しようと思ってたんだけど、いきなりこんなことになって申し訳ないと思ってるにゃ」
それもこれも早とちりな性格をしているこの猫娘が原因なんだけどな。
故郷でもちゃんと生活できていたのか心配である。
いや、きっと友達がフォローしてくれていたのだろう。
俺はそう思いたかった。
「よし分かった。お主、今日はわしらの宿に泊まるといい。この名刺を出してわしの名前を言えば、後は親父さんが面倒を見てくれるじゃろう」
そう言ってアンバーは鬼の隠れ家亭の名刺をミュールに差し出した。
名刺を受け取ったミュールは喜びの表情を浮かべる。
「助かるにゃ! あちしも久しぶりにふかふかのお布団で眠りたいと思っていたところだったのにゃ!」
「お主、宿までの道は分かるか?」
アンバーの質問に、ミュールは腰のポーチから一冊の冊子を取り出して答えた。
どうやらマジックバッグを買える程度には探索者として活躍していたらしい。
「昼に貰った『みるだむ』があるから大丈夫だと思うにゃ。それで、オマエらはまだ宿には帰らないのかにゃ?」
「わしらはホテルで予約を取っておったからのう。悪いが一緒には帰れんのじゃ」
「それは悪いことしたにゃ、早く夜ご飯を食べに行くといいにゃ」
ミュールは俺達が夜のディナーに行く予定だと勘違いしているようだ。
「うむ、そうさせて貰うわい。ではのミュール、明日の朝に宿で落ち合おうぞ」
「アンバーにハルト、また明日にゃ!」
ミュールはぴょんぴょんと近くの壁で三角飛びをすると、建物の屋上を渡って行ってしまった。
俺はハムマンチェアから立ち上がるとぐーんと背伸びをした。
そして肩を回しながら、ハムマンチェアに座るアンバーに問い掛ける。
「アンバー、この流れでデートの続きをするつもりなの?」
「明日からきっと四層に行くよりも忙しくなるからのう。ハルト、お主は嫌か?」
「嫌じゃないに決まっているさ」
俺はハムマンチェアから立ち上がったアンバーに軽いキスをする。
彼女はこれから起こるであろうイベントに期待してほっぺたを赤くした。
「んふふ、楽しみじゃのう……」
手を恋人繋ぎにした俺達は、路地裏を抜けて夜の歓楽街に戻っていくのだった。
……おっと、これを忘れるところだった。
空き地に戻った俺はミュールの二本の小太刀を封印した石の箱を拾ってポーチに仕舞った。
これは明日、ミュールに会いに行く前に中から取り出しておくとしよう。
それからしばらく、俺達は再び腕を組んで夜の歓楽街を練り歩いていた。
夜9時過ぎということもあり、道行く人々の多くは酒の匂いを漂わせている。
今もキャッチのお兄さんが、泥酔して道で寝ている酔っ払いにキュアポイズンの杖を使って魔石代を強請っているのが見えた。
当然、デート中の俺達はそんなものは無視である。
少し歩くと、今夜の目的地である高級娼館バニーガーデンに辿り着いた。
俺とアンバーは、歓楽街の一等地に建てられた派手な建物の前に立つガードマン達にギルドカードを提示する。
「予約されていたアンバー様にハルト・ミズノ様ですね。どうぞお入りください」
店の中は広いキャバレーみたいになっていて、スケベなバニースーツを着た見目麗しい女性達が男性客を接待していた。
紳士服を着たボーイに案内された俺達はそのまま店の奥の階段を上っていく。
そして俺達は三階にある一つの扉の前で、ボーイから部屋の鍵を渡された。
「ごゆっくりどうぞ」
俺達が部屋の中に入ると、中はまるで城の寝室のような豪華な作りになっていた。
部屋の中央にはジャイアントサイズのでかいダブルベッドが置かれており、奥にはガラス張りの広い浴室も見えている。
「おほーっ! すっごいのう!」
「これが『サキュバス・グループ』のラブホテルか……とんでもないな」
バニーガーデンはこの街一番の高級娼館だが、事前に前金を支払って予約をすることでカップル客でも利用することができるのである。
ここは一泊数万メルもするからな、いっぱい楽しまなきゃ損しちゃうぜ。
「ハルト、まずはお風呂に入るぞ!」
「どうして? お風呂には夕方入ったばかりじゃないか」
俺はアンバーを背中から抱きしめると、首筋のうなじに鼻をうずめてすぅーっと匂いを嗅いだ。
汗と女の子の匂いが入り混じったいい香りだ。
「や、やめんか……!」
「嫌なら抵抗したらいいのに。アンバーの筋力なら余裕だろう?」
俺は背後からアンバーの身に纏った服を少しずつ脱がせ始める。
カーディガンを床に落とし、ブラウスのボタンを上から一つ一つ外していく。
ブラウスを剥がすと、中からかわいい肌着が姿を現した。
俺はアンバーの背中にぴったりと胸をくっ付けると、肌着の下から手を突っ込んでお腹を撫でて彼女の体温を堪能する。
「んっ……」
「アンバー、ここは宿じゃないよ。声を抑える必要なんてないんだ」
「でも恥ずかしいのじゃ……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
肌着の下から手を抜いた俺はアンバーをベッドに押し倒すと、捲り上がったスカートから覗いた白い太ももを撫でさすった。
俺は手に魔力を込めて、彼女の皮膚の深いところまで刺激する。
古本屋を梯子して手に入れた禁書に書かれていたサキュバス仕込みの房中術スキルの力を見せてやるぜ。
「ハルト、ハルト、ハルト……あああっ!」
凄い威力だ……!
太ももでこれなら、本番で使ったらどうなってしまうんだ?
要所要所で少しずつ使わないと、彼女が壊れてしまうかもしれない。
「はっ、はっ、はぁ……ハルト、わしはもう辛抱たまらんのじゃ……!」
俺は興奮して目をハートマークにしたアンバーに逆に押し倒されてしまった。
腕の力が強くてまるで抵抗できない。
やだ、女の子にされちゃう!
「これはお主が悪いんじゃからな……!」
そしてアンバーは――。
ピピピピ、ピピピピ、ピ。ガチャ。
目覚まし時計を止めた俺はどでかいダブルベッドから身を起こすと、ぐーんと伸びをした。
隣には一糸纏わぬ姿をしたアンバーがすうすうと寝息を立てている。
まさか彼女があんなに乱れる姿を見ることができるとはな……。
確かに昨夜は特別な日になった。
特別な日だからこそ許された快楽であった。
「よし、次は恋人記念日だな!」
「んぬ……。ハルト、おはよう……」
俺が9ヵ月も先の計画を練っていると、その声で目を覚ましたのかアンバーが瞼をこすりながら起き上がってきた。
「おはよう、アンバー」
俺はアンバーに朝の目覚めのキスをした。
すると彼女はいきなり俺の口に舌を突っ込んできた。
「んぐっ!?」
どうやらまだ彼女には昨夜の余韻が残っていたようだった。
俺の頭に両手を添えてがっつりディープなキスをしてくる。
な、長い……息ができなくて苦しい……。
「……ぷはっ。ハルト、もっとぉ~」
「駄目だよアンバー、これ以上やったら我慢できなくなっちゃうよ」
「ええじゃろう、少しくらい……」
俺は心の中でアンバーとミュールを天秤にかけた。
するとガチャンと音を立ててアンバーの方に大きく天秤が傾いた。
……まあ、ちょっとくらい待たせたっていいか。
「悪い子にはお仕置きが必要だな……」
俺はアンバーをベッドに押し倒すと――。




