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第275話 聖なる母は魔性の女

 俺はシルキーに会う為、はるばるテバールまでやってきたわけだが……。

 族長の屋敷の奥の奥にあるシルキーの部屋は、まるでサキュバス・グループのラブホテルのように改装されていた。


「夫のいる身でありながら、随分(ずいぶん)と好き勝手していたようじゃないか」


 天蓋付きの大きなベッドの前に立った俺は、薄絹のようなカーテン越しにシルキーに話し掛けた。

 間接照明のある薄暗い部屋で、影のようなシルエットしか分からない。


「初めてでしたのに、ハルト先生があのようなことしたのがいけないんです……」

「それとこれとは話が別だろう。しきたりはどうした、しきたりは」

「しきたりに反するようなことはしていませんもの……」


 ご都合主義なことに、砂漠の民の間では不貞は問題視されなかったりする。

 養えるなら複数の妻を(めと)ってもいいし、人妻が不特定多数の相手と遊んでもいい。


「そんなんだから閉鎖環境で近親婚が増えて大変なことになったんだぞ」

「ですから私は探索者ギルドの力で血の繋がりを明確にし、()み子をダンジョンに還すことを禁じました。それほど守って頂けては、いないようですけれど……」


 DNA鑑定技術—―実際は魂魄認証—―は月光教の時代には既に確立されていたから、ギルドカードを使えば探索者ギルドのデータベースから簡単に血縁が辿れる。

 そのせいでギザードが殺されたりしたわけだし、一長一短ではあるけどな。


 シルキーが他の部族の有力者の家に産んだ子供を送り出すことで強固な血縁関係を築き上げることができているのも、こういったDNA鑑定技術の力によるものが大きかった。


「頭を押さえつけたところで、下が従うとは限らないさ」


 こんなヴェール越しで話していても(らち)が明かない。

 俺は天蓋のカーテンを両手で掴んで、シャッと両側に引き開いた。

 一瞬だけ呆気に取られたような表情をしたシルキーは、すぐに両手で顔を覆った。


「みっ、見ないでください……」


 絹糸のように細長い髪と、透き通るような白い肌は昔と変わらない。

 だがしかし、その肉体は幾度もの出産を経て見る影もなく変貌していた。


 肌が透けるような薄いネグリジェに包まれた三十路女のふくよかな肢体は、まさしく聖母と呼ぶに相応(ふさわ)しい。

 ……要は、生粋の巨乳党である俺の性癖対象外ということだ。


「人が長い年月を掛けて(つちか)った人生観というものは、それだけ変えがたいものだ。地下牢で生まれ育った君が、プロポーションを保つ為の運動をしなかったようにな……」


 俺は靴を脱ぎ捨てると、膝で乗り上げるようにベッドに上がり込んだ。

 そしてそのまま、顔を隠すシルキーの腕を掴んだ。


「っ……!」


 シルキーの魔力が腕を掴んだ手を伝って、俺の体内に侵入してきた。

 ふわりと立ち昇った甘い香りに、身体の芯に響くような深い(うず)きを覚える。

 俺は一切のレジストをせずに受け入れ、腕を引っ張ってシルキーを押し倒した。


 (あら)わになったのはぷくぷくと太ったまん丸なお顔と二重あご……。

 俺は驚きに見開いた赤い瞳の奥に、昔の面影を見つけていた。


「どうして……?」


 ただの訓練の成果だ。

 道中でどれだけのサキュバス嬢から房中術スキルを受けてきたと思っている。

 この程度、夜の砂漠を吹き抜ける冷たいそよ風みたいなものだ。


「君の願いを叶えたいのなら、その力で俺を屈服させてみろ」

「望むところです……!」


 枕から顔を上げたシルキーが、上から見下ろす俺に深い口づけをした。

 口内を犯すように侵入してきた舌先から注ぎ込まれた魔力の波に、脳の快楽神経が浸食されていく。


 俺は彼女に対抗するように、絡めた舌先から魔力を注ぎ込んだ。

 例え息ができなくとも構わない、俺には医療スキルの力がある。

 その気になれば、血中の酸素濃度を操作することなど造作もない。


「—―ぷはっ、はぁ、はぁ……」


 我慢比べは俺の勝ちだ。

 頬を紅潮させて荒い息をするシルキーを見降ろした俺は、上着と肌着をベッドの外に脱ぎ捨てて上半身裸になった。


「どうした、こんなものか」

「いいえ、勝負はまだ始まったばかりです……」


 ベッドから起き上がったシルキーは、俺の()いているズボンのベルトをカチャカチャと緩めると――。



 当然ながら、ここから先はダイジェストとなる。


 シルキーがどれだけヤれるか分からなかった俺はひとまず受けに回ってみたが、これがとんでもない破壊力を持っていた。


 老若男女を快楽の渦に落とし込んだ数多のテクニックを織り交ぜた(ねや)の術に、俺は一切の我慢をすることが叶わなかった。

 性癖対象外なのに感じちゃう、ビクンビクンってな感じだ。


 彼女の扱う房中術スキルは地下牢暮らしで得た人外じみた聴覚によって相手の弱点を見つけて、ピンポイントで刺激するようなとんでもない代物だ。


 俺が莫大な魔力と医療スキルの組み合わせでサキュバスの固有スキル並みに効力を引き上げているのとは対照的に、シルキーは少ない魔力を効率的に使用している。

 こいつは並みの人間じゃ、あっという間に(とりこ)にされておしまいだろう。


 だがしかし、俺には医療スキルの力がある。

 どれだけ搾り取られようとも、魔力の続く限り何度でも立ち上がれるのだ。

 そう、何度でもな。



 日が落ちて月が出ようとも、俺達の戦いは続いた。

 どうにか最初の波を耐え抜いた俺は、シルキーの魔力が切れて息切れしたタイミングを見計らい一転攻勢を仕掛ける。


 ただ快楽を与えるだけでは済ませない。

 気付かれないように少しずつ、医療スキルで彼女の肉体を改造していく。


 内臓脂肪を燃焼させてエネルギーに変えつつ、皮下脂肪を胸に寄せ集める。

 伸びたクーパー靱帯を元に戻し……おほぉ、これこれ。


「そんなっ、まだ硬く……!」


 サイズアップしたバストが性癖に突き刺さってヤる気も百倍。

 よしよし、この調子でどんどんシルキーをダイエットさせてイくとしよう。

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