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ホームレスと映画を観たハナシ

今さらながら、「ライブラリーにて」などというおもしろくないタイトルをつけてしまったものだ。なにを考えていたのだろうか。

でも、今日はそのタイトルに合った話を書こうと思うが、小タイトルは「ホームレスと映画を観たハナシ」。

こちらのほうが「ライブラリーにて」よりはおもしろいでしょ。


それはパンデミックの前のことで、その頃のホームレスは「Weird but No danger(奇妙だけれど、狂暴ではない)だから心配するな」、と案内パンフレットにも書いてあった時代。


今はキシラジンとかいう動物の手術用に使うドラックが流布しいて、ゾンビ化している人が多い。ゾンビから覚めた後が問題で、嫌悪感や厭世的になるらしく、むしゃくしゃして人に乱暴をする。狙われるのが主に東洋系の小さな女子。

ホームレスは、決して大きな若い男を襲わない。彼らはある意味、知恵が回るし、コロナにも強い。


さて、今日、私が書くのは、パンデミック前の話。

当時でも、ホームレスは、特にこの図書館周辺にはたくさんいたのだけれど、害を加えたという記事を見たことはなかった。


この図書館(サンフランシスコ公共図書館)は前の広い広場を挟んで、市庁舎と向かいあっている。市庁舎はパリのアンヴァリッド(国立廃兵院)とよく似た立派な建物。

アンヴァリッドとは廃兵院という意味で、すごい名前がついているが、ルイ十四世が戦争で心身とも傷ついた兵士のために作った施設だという。「Invalid」とは英語では、たとえばクレジットカードが使えない場合などに使う。つまり、どうにもならなくなった人達ことで、つまり今でいうホームレス的な存在だった。今ではあそこにナポレオンのピンク色の大きな大理石の墓がある。


市庁舎がパリのアンヴァリッドによく似ているのは、それをモデルに作ったからで、市庁舎を始め、この周辺の建物は「ボザール様式」と呼ばれている。

ボザールとはフランスの国立美術学校のことで、その当時、このあたりの建物はボザールに留学していたアメリカ人建築家たちによって建てられた。

1906年に大地震が起きた後も、町が一新された。サンフランシスコの別名は、火から蘇る「フェニックス」である。


その時、図書館も建築されたのだが、それが今の隣りにあるアジア美術館の建物で、この図書館は、三十年ほど前に、今の場所に、今の形に建築され、再オープンした。


だから、この図書館だけは新しいのだが、周囲になじむようなスタイルになっているから、新しいと気がつく人は少ない。なぜ場所を、わざわざ隣りに移したのかはいろいろな事情があるのだが、前の建物と大きな違いは新しい図書館には地下があることだ。


図書館の正面玄関にはいると、右手に階段があり、地下に行ける。そこには大き目のトイレがあり、主に、ホームレスが使用している。

本を読むために来た人は、セキュリティゲートをくぐり、奥その奥の、別のトイレを使用する。


そういうことはどこにも書いてないのだが、私はある体験を通して知った。


私はその図書館に映画を観に行ったことがある。

私は本を読みに行くのなら、日本人町の紀伊国屋のほうがいいと思っていたので、当時は、まだその図書館には行ったことがなかった。


ある日、女友達から、図書館で映画を見せるから、行かないかと誘われた。

「ポップコーンがもらえるんだって」

と彼女は言った。

上映される映画が「Dark Passage(邦題 潜行者)」で、ハンフリー・ボガードとローレン・バコール出演のクラシック映画で、サンフランシスコが舞台。


わたしはその頃、サンフランシスコの歴史を調べ始めたところだったので、見たいと思った。友達はポップコーンが目当てに、私は町のどの場面が使われているのかと興味がわいて、ふたりでるんるんと出かけた。あれは、何時くらいだったのかな。


中にはいると、右に大き目の階段があり、映画上映の印があったので、ふーん、下でやるのかと思いながら、曲がった階段を降りていった。

入口には小さなチラシが置いてあり、「ポップコーン」と書いてあったので、友達はそれをひらひらさせて喜んだ、


会場はなかなか立派な部屋で、見に来た人は十人以下だったかな。人々は後ろのほうに、あっちにふたり、こっちに三人と座っていて、なんだかチーズのくさった臭いがした。


いつまでもポップコーンが配られることはなく。映画が始まった。なすび顔のボガードがなぜ人気があるのかわからなかったが、バコールはすてきだった。声もいい。

これはテレビ「逃亡者」のもとになった映画とかで、無実の男が監獄から逃亡する話。男は整形手術をした直後、顔中包帯のまま、大きなトランクを持って、フィルバート通りの長い階段を上る。

これは大変。

その階段はコイトタワーの下にあるが、下から上がるのは健康な人でも、簡単ではない。


「なぜ下でタクシーを止めて上がるわけ?途中までタクシーの道があるから、あそこで降りればいいのに」

映画だねぇ、と言ってわたし達は大笑いした。

映画はとてもおもしろかったが、ポップコーンはなかった。


友達がちらしをしみじみと見て、「あっ」と叫んだ。

「これ、ポップコーンをくれるじゃなくて、ポップコーンをもってくるなと書いてある」


ええっ。

どれどれ。

たしかにそう書いてあるが、そんなことって、「普通、書く?」


と、後ろの席を見たら、ホームレスがものを食べていた。私達以外は、みんなホームレスのようだった。

ホームレスだって涼しい場所で食事をしたいし、たまには映画だってみたいものね。

ああ、つまり、これは食べ物をもってはいるな、ということなのだった。


その後、奥のトイレに行ったら、タイルが水びたしで、誰かがシャワーをしたようだった。したようだと思ったら、本当に、洗面台で、髪を洗っている人がいた。


「トイレは上の階で」

と係員が言った。


私達は隣りのアジア美術館に行けばきれいなトイレがあることを知っているので、そのまま、外に出た。その時、外がまぶしいほど明るかったので、あれは午後だったと思う。


その次に、図書館に行ったのが先日で、その時はひとり。セキュリティケーをくぐったほうにあるトイレに行った。

その時もある発見があったのだが、長くなるので、それは次回に。


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