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第2ゲーム後編

「……はっ」


 寝るつもりはなかったが意識を失っていた。おもむろに胸ポケットを除く。あの写真はまだ比較的綺麗な状態でそこにあった。良かった。


「くそ……寝てた」

「無理に起き上がらなくて大丈夫だから! まだ痛いでしょ?」


 起き上がろうとするとすぐさま連に心配された。優しい奴だ。


「向かいにいた、めちゃくちゃ強い奴が周りの人をどんどん倒してる。まだここはバレてないけど、時間の問題っていうか、最後にはあいつと戦う事になる。」

「そ、か..……」


 誰と戦うことになろうが俺は動けない。連に見放された暁には絶望だ。現に周りの参加者相手に無双しているらしい奴に勝ち目なんかあるだろうか?


「純平、僕言わなきゃいけない事があるんだ」

「え、なに」

「僕はこの戦況をかき乱す為だけに生み出されたクローンなんだ」

「は」

「ここのゲームの雑務は大体クローンにやらせてる。普通の人間も運営にいるっちゃいるけどね。どういう科学技術なんだかはわからないけど、とにかく僕はそうやって生まれた」

「..……」


 突然の独白にかける言葉が見つからないが、ただ者ではないだろうと思っていたので驚き半分、いや八割くらいといったところだ。


「オリジナルは過去のゲームの参加者。もうとっくに死んでるけど。でもその子のことは全然知らない。ちょっと戦闘訓練だけさせられて、ここに立たされてる。向かいにいるあいつ……そう、漏れなく彼もクローンだよ。特に戦闘能力が強いタイプだから、もっとゲームがおもしろくなるようにって、導入されてるだけ。普通に生きてて、武器を使いこなせる子なんていないからね。でもあいつが勝ったってしょうがない。僕らはただの舞台装置だから。あいつも、それはわかってると思う。」


 連は真実を告げていく。同じく舞台装置であるはずの連は、生き残りたいのだろうか。生存本能は、俺達と同じくあるのだろうか。


「僕の体内には爆弾が埋め込まれてる。要するに自爆タイプだ。ゲーム終了間近に爆発するように仕込まれてる。威力は今使ってる手榴弾の比じゃない..……本気で危険なやつ。僕は、ゲームの前にそもそも生き残る事なんかできない運命なんだよ。」

「..…!」

「だから、その時が来たら言うから、純平はそしたら逃げてよ、それまで僕は守るから……」


 そう言った連は無理に笑ったが、その目には涙が滲んでいたように見えた。


「お前……そんなんでいいのかよ、折角強いのに、ここまで来れたのに、そんなことより、連はめちゃくちゃ良い奴なのに、なのに……! 」


 俺はまくし立てた。しかし連は、

「いいんだ。どうしたって僕は生き残れないし、ここまで君を守れて良かった。そもそも僕は第1ゲームすらプレイしていないし、その時点でずるいんだ。ただ、一緒に先に行けなくて、ごめん」


 こんな時でも、ずっと連は微笑んでいた。俺はどうしようもない悔しさを感じた。


 途端、俺達のいる壁の裏側から銃声が響き渡る。恐らくマシンガンあたりで壁を打たれているのだろう。


「そこにいるのは分かっている!出てこい!」


 初めてその向かいにいた人物の声を聞いた。口調と叫び声からして、痺れを切らしているようだ。


「多分あいつだろ。僕が見てくるから。」

「..……気をつけろよ」


 そう言うと連はすっくと立って堂々と出ていく。


「よう、『赤』」

「『黒』、お前は生き残る気なのか」


 2人は極シンプルな名前で呼び合う。俺は2人が撃ち合っていないのを確認してそっと覗き見る。

 連と向かい合う相手は連と全く同じ顔をしていた。ただ決定的に違うのは、髪色と制服が確かに真っ黒だった。これまた、こんな制服の学校があるのかというレベルに。同じ顔なのに、純朴そうな連と違ってニタニタと笑っているのが余計に気味が悪い。


「当たり前だ。クローンが生き残ってはいけないというのはお前の持論にすぎない。そもそも、どうせ死ぬお前の負け惜しみだろ?」


 そう言ってケタケタと黒は笑う。連がギリッと歯を噛み締めたのが微かに聞こえた。

 よく見ると、黒の背後にはボロボロの少女が震えながら黒にしがみついているのがわかった。黒も、連と同じように誰かを守ってきたのだろうか。


「もう他の奴らは僕が全員やったよ。奴らの思い通りになんかならない。本当に面白い展開は僕らがやり合う事だ」


 そう言い放つと黒はこちらに向かって攻撃を始めた。俺は急いで隠れる。連には悪いが、とても体を動かせる状況ではなかった。連も武器を構えて撃ち始める。高度な戦いだ。とても素人の入る余地はないだろう。


「もうやめて黒……!! もう死んじゃうよ……」


 突然少女の泣きながら叫ぶ声が響き渡る。


「僕はそんな簡単に死なないよ。丈夫だから。痛みも感じにくい。」


 黒の攻撃が一旦止んだのでまた覗いてみると、真っ黒の制服のせいで目立ちにくいが彼の体には幾つもの撃たれた跡があった。あれだけの人数相手に無双したなら無理もない。


「いいか、赤。僕はこいつと生き残るんだ。死ぬのはお前と、隠れてるそいつだけだ。」


 そう言うと再び銃を構えてすかさず撃つ。思わぬ少女の存在に動揺していた連に1発、また1発と風穴が空く。倒れこそしないが、目を見開いて耐える連。


「連!一旦壁裏に!」


 俺はすかさず叫ぶ。


「連?お前そんな名前なんか名乗ってるのか」


 黒が撃つのを止める。確かに、少女の呼び方から黒は名前らしい名前は名乗っていないようだった。


「よりによってオリジナルのか?」

「僕は人間らしく生きてみたかった、使い捨てられたくなんか無い!!」


 連はそう叫ぶと、持っていたハンドガンを投げ捨て、ナイフに素早く持ち変える。1度空を切ったかと思うと黒の方に駆け出していった。


「随分と威勢がいいようだな!!」


 連の意志を汲み取ったかのように黒もナイフに持ち替え、2人は接近戦に繰り広げる。

 その光景は本当に恐ろしかった。俺には人の動きには到底見えなかった。本気の殺し合いだ。しかし、戦闘力特化の黒に連は押され気味にも思えた。モニターにはいつの間にかタイマーが表示されていて、もうあと5分もない。それはゲーム自体の制限時間であって連に残された時間はそれよりも少ないだろう。何度刺されても、血まみれになろうと戦いを止めない2人を見ているとどうしてもこの光景が現実のものとは思えなかった。向かいの少女が泣き崩れて倒れている姿が何とも痛ましい。

 押されていた連だったが、自分の本当の死期を悟ったか、急に押し返し少女の方へ近づく。


「うあああああああああああああああ!!!」


連は全力で叫んだ。


「くそっ..……!」


 黒が小さく呟く。すると蓮の腹辺りが光り始める。この時が来てしまった。一面が光に包まれ始める瞬間、蓮が振り返り、目が合う。






 そして、目の前の世界は白く染まる。






 距離はあったものの、全身に衝撃を感じた。次に目を開けた時には、目を開けたくなんかなかったが、惨状が広がっているだけだった。

 血の海に、誰のものかもわからぬ肉片。目を背けたくなるものだったことは間違いない。しかし、ここから目を背けてしまったら、蓮の今までの全てを否定することになるような気がして。


 俺はふらふらとそこに近づき、力なく座り込んだ。


『ゲーム終了 2人生還成功 おめでとうございます』


 モニターにそう表示されたあと、ブザーがブーーッと鳴った。


「2人……?」


 一瞬理解が出来なかった。だって目の前には、蓮も、黒も、名も知らぬ少女も、誰1人、いなくなってしまったのに。


 座り込む俺の右側から、こつこつとローファーの音が響く。


「やっほ」


 見ると、バサバサの黒髪をツインテールにした女子が、右手を軽く挙げていた。

 明らかにサイズの合っていないブレザー姿の見知らぬ女子。

 誰だ、こいつは。


「誰だ..…お前は」

「あたし? 鮫島愛子だよー、急にガチ武器で戦い始めるからさ、これは無理だわと思ってずっと芋ってた!」

「はぁ……?」

「そこの仮説トイレ。居心地サイコー。ブザー鳴ったから出てきた。」


 そう言うと、愛子は自分の来た方向を指さす。確かに、細長い箱のような仮説トイレが見える。


「すっげー、何が起こってたか全く分かんなかったけどすごいねあんた」


 本当にここで何が起きたか分かってなさそうな愛子はこの惨状を見て純平にグッドポーズを贈る。


「……蒲田純平。それにやったのは俺じゃないし、やめろ」

「ふぅん?」


 愛子は不思議そうにしていたが言及もしてこなかった。詳しく聞かれたとしても答えたくもなかった。

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