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秘密の任務

 真実は狭いダクトの中を進んでいた。

(2人の声が急にしなくなった…?)

 さっきまで普通に話していたのに。それが嘘の様に静まり返っていた。

(こんなに急にはぐれるなんて有り得ない、それともトラップとか?)

 それでも前にいたはずの2人の姿は完全に無くなってしまっているようだった。真実もまた、前に進むしかなかった。


(光……!)

 ぼんやりと下側から明かりが差し込んでいるのが見えた。しかしすぐ横に壁があり、それはこのダクトの行き止まりを意味していた。明かりのある方を除きこむと何やらごてごてとした装飾の服を着た、少年のような人物が見えた。

(人いるけど…降りるべきかしら)

 ふと自分が今まで来た方を振り返るとそこには一寸先も見えぬような闇しかなかった。真実は思わず身震いをして、せめて怪我しないようにゆっくりとダクトから降り立った。


「おやー、よく来たね、すごいね」


 狭めの部屋には同い年か、それより年下くらいに見える男の子が座っていた。さっき出会った革ジャン男とは打って変わって、白タイツにとんがり靴、ベストは縞模様、まるでサーカスに出てくるピエロのような格好だった。


「あなたも運営側ってわけ?」

「まーそんな所だね、ちなみに君達の勇姿も見させてもらったよ」


 第1ステージの管理人撃破、おめでとうと言いながらケラケラと彼は笑った。

(倒したというか、勝手に倒れたのだけどね)

と真実は思った。


「それよりもね」


 もっと大事なことがある、と言わんばかりに彼は身を乗り出した。


「君、純平と一緒にいただろう」

「いたわね…さっき何故かはぐれてしまったけど」

「それは仕方ない、あんな不安定な場所を通らせた僕らも悪いけどこの空間自体が不安定だから、そういうこともよくある」


 何がよくあるのか、うんうんと頷かれた。


「純平は多分俺のことを探しにきた。なんか言ってなかった?」


 もしかして、と真実の中でやっと話の合点がいく。純平の話していた中学の同級生。それがこの人だというのだろうか。こくりと頷くと、


「いやーあいつも馬鹿だよね、もっと馬鹿な俺のことをわざわざ迎えに来るんだからさ」

「だからあの馬鹿が死なないようにさ、君にちょっと助けて欲しいんだけど」

「はあ」


 唐突なお願いに真実は気の抜けた返事をする。


「はい、これね」


 椅子の後ろから出してきて唐突に手渡されたのはスナイパーライフル。真実はその重さに少しよろける。


「……え?」


 初めて抱える武器に真実は混乱が隠せなかった。


「第2ステージはバトルロワイヤルね。でも純平は運動なんて全然得意じゃないし、一般学生に急に武器持たせる狂ったゲームだから、多分死ぬんだよあいつ」

「で私も参加するってこと?」

「いや、君は参加しなくていい。ステージの上からそれで純平以外を狙い殺してくれないか、まあ初めて銃なんて持つ君に期待はしないけど……やってくれたらその後のゲームも参加しなくていいようにしてあげるよ」

「………」


 真実はどうしたらいいか分からなかった。自分の利益を取るとすればこの話を飲めば最終的な生存確率は飛躍的に上がる。しかし誰も撃ち抜けなかったら?間違えて純平に当たったら?そもそも人なんて撃てる?

 しかし、迷う猶予も今の真実には与えられていなかった。真実は唾とともに自身の迷いも飲み込んで答えた。


「仕方ない、やるわ」

「君ならそう言ってくれると思ってた!」


 その笑顔は不気味なほど屈託がなかった。


「あ名前言ってなかった、俺幹人ね」



 真実は幹人に連れられて第2ステージのギャラリーに降り立った。まるで体育館に付いていた狭い通路によく似た所だ。障害物だらけのステージが良く見える。


「うん、この辺で良いでしょ、柱に身を隠せば安全に動けると思うよ」

「……純平に、見られたらどう言うかな」

「あいつだったら大丈夫だと思うけどね?生きてたんだ良かったーみたいな?」


 幹人の軽さにどうしても真実はモヤモヤしてしまう。道化のような態度は真実にとってはあまり好きになれないものだった。

 簡単にスナイパーライフルの使い方を教えてくれた後、じゃよろしくねー!と言って幹人はさっさと行ってしまった。

 真実の中には疑問がいくつか残った。この空間が不安定とは?確かに人の命は軽視されすぎだし窓は無いし、武器はあるしで現実のようにはとても思えなかった。急に純平と暖とはぐれたのにも説明がつかない。

(これが終わったら、この空間の謎も誰か教えてくれるかしら?)

 真実の好奇心は刺激されることばかりであった。


「もしもしー?」


 そんな中、下から響くように聞こえる女の子の声。真実はハッとしたが、下にも人はいるし、まさかその相手は自分ではないだろうと思って身を引き、あえて相手の動向を探る。


「もしもしったら! そこの! 眼鏡のお姉さんだよ」


 これは確実に自分である。そう真実は確信して仕方なく返事をした。返事しないまま声をかけ続けられるのもたまらない。


「私?」

「そうだよ! なんでそんなところいるの? ゲームやるんじゃないんですかぁ?」


 至極真っ当な質問である。彼女の弾むような声はこの緊迫した場にはまったく似合わなかった。


「ちょっと事情があって。ゲームは参加する。」


 そう言ってスナイパーライフルをそっと前に出してみせる。まさかここまで彼女の攻撃が届くことは無いと思うが念の為の威嚇というわけだ。


「わお! 怖いね! それで私の頭をぶち抜くつもりなんだ」


 踊るようだった彼女の声のトーンが数段低くなる。彼女はジェットコースターのようにいくつもの声のトーンを使い分けていた。その瞬間彼女もまた、第1ゲームでいくつもの死線を乗り越えた人物なのだと理解した。


「必ずしもそういう訳じゃないけど」

「でもそこにいるってことはお姉さんどうせ生き残るでしょ?名前何?私鮫島愛子、高一!」

「……近藤真実、高二」

「あっはやっぱりお姉さんだ!!」


 そのままるんるんと駆け出して行ってしまう。真実が呆気に取られていると、


「元気っ子はいいよね」


 いつの間に隣に幹人に立たれている。まったく気配の感じ取れなかった真実はビクッとして驚いた。


「やっぱ君、下の戦場出たら死ぬよ」


 それだけ言い残して今度こそ闇に消えた。


「…失礼な」


 まだ動悸の止まない真実はカチャリと眼鏡を直して呟いた。

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