第1ゲーム4日目
「ほら、夜に仕事あるの忘れちゃった?」
真実さんがナイフをプラプラやっている。
「わかってるから」
「じゃあ人狼が1人減って負けるリスクが高くなって嫌になっちゃった?」
「そんなんじゃない!人の心無いのかよ」
こんな状況で煽ってくる真実さんに腹が立つ。俺は日が暮れたくらいからずっとこのキッチンで蹲っていることしか出来なかった。
「……この状況で人殺しか…」
「そう、人殺し」
今日もまたドアの前に立つ。市民に妥協なんてしない。
「開けたらすぐ刺す…開けたらすぐ刺す…」
俺はナイフを強く握りしめてドアノブを握る。今日も真実さんにはやらせなかった。いや、真実さんがやった方が上手くいくかもしれない。それでも任せることはできなかった。ノブが開かないということは、まず許されない。
ガチャ
ドアが開く。
「騎士は、自分のことは守れない…」
そこには弘美が立っていた。棒立ちのまま淡々と話し始める。
「私、大事な時期だったの。受験が控えてて、今してることも、そりゃ辛いこともあるけど、とても上手くいってないわけじゃないの、早くあんたを殺しとけば良かった、分かってたのに、あんたなんかと比べて、私ずっと才能」
弘美は捲し立てたが、俺は最後まで聞かずに刺した。弘美も相当来ていたのか、抵抗されなくて良かったと心底思った。死人に口なしだ。戯言言わないで、今は市民ならば狼に喰われるのみなのだから。
翌朝、
「くそ…弘美か……」
康行が呟く。
しかし人狼陣営のこちらとしてはあと1人殺せば終わりなのだ。ここで勝てば、海琉も救われると信じて、ここまで来たから。
「やぁ」
暖が部屋に入ってくる。
今日はもう外に出るのもやめて、ベッドの上に座って思考を巡らせていただけだった。
「よくやったと思うよ、ほんとに純平くんは」
「ああ……」
暖には悪いと思うが、今は歯切れの悪い返事しかできない。
「海琉くんと、仲良さそうにしてたからなあ。まあ、気を落としてばっかりじゃいけないよ、君」
「………」
「いや、僕はね、この理不尽すぎる世界にまだ希望を持ってる。なんせ、まだ僕らは生きてここにいる。しかも、このゲームで勝利を収めてもうすぐ終われるんだよ」
「……」
「生きてさえいれば、今までとこれからの運命を全部ひっくり返すような何かがあるかもしれない。」
「運命を……」
暖は立ち上がって伸びをする。
「僕も、相当疲れちゃってるかもしれないな」
そして振り返って、
「あ、今日の投票は奈緒さんにね。うるさかったから。」
俺は確かに疲れたり消耗していたりはしたが、まだまだ諦めちゃいなかった。大体暖の言う通りだと思っていた。これからの為にまだ死ねない。
そして最後の投票の時が来た。
「お前らのどっちかだな、いやどっちでもいいのか…」
「いい? 近藤さん、あたしたちじゃないからね」
「うん」
真実さんは相変わらず2人を睨んでるけど。
後の時間はただ5人で睨み合った。俺達は正直余裕だったけど、2人は汗が滴っているのがわかった。
投票の時間になる。
「……ちょっとっ!!!」
「割れんなよ……」
康行と奈緒の表は割れた。真美さんは勿論奈緒に入れる。奈緒に3票。これでチェックメイトだ。
「愚かだな!」
暖の笑みを隠せない声が響く。瞬間、怯えきった奈緒の首筋から血が吹き出し、勢いで身体は倒れる。
「ああ……そうか、負けたのか、俺は」
康行がフラフラと立ち上がると彼の首筋の仕組みも作動して一面血濡れになる。
俺は少し驚いた。殺されなくともゲームに負けた人間は生きている価値もないと言うことか。まさしくそれらしい。