エピローグ
俺が次に目を覚ました時、天井がやけに高かった。きちんとベッドに寝かされていて、腕には点滴と思われる管が伸びていた。粗末な、病院ぽいベッドだった。
「あ、起きた?」
視線を横に向けると海琉が突っ立っていた。今まで見ていた顔より少しやつれているようだった。
自分の腕を見ると点滴のような物に繋がれていて抜き取った。少し血が出た。周りを見渡す と、かなりの数のベッドが規則正しくびっしりと並んでいた。だが、そこには誰も寝ていなかった。それどころか、今この空間には俺と海琉しかいなかった。
「……帰ってきた?」
「うん、たぶん」
「あ、愛子は、真実さんは? 生きて帰ったんじゃ、」
「いや……もうさっさと起きて帰っちゃったんだ、純平起こそうよって言ったんだけど、もう少し寝かせてやんなよって言われちゃった」
2人に置いてかれた、と少し思った。でも2人なりの気遣いだったのか、あんな血に塗れた空間で出会って、それからまた会っても仕方ない、みたいな。そんなことないのに。
「死んだ奴はどうなったんだろうな」
「わからない……けど、あの空間が現実そのものじゃないって言うんなら本当の体がどこかにあるのかな」
「どうだろう。でももう、誰もいない」
幹人もまだここにいるのだろうか。でも彼が自ら身を投げた事だけが頭からずっと離れない。俺は、彼の死に干渉する権利があるのだろうか。
そう思うと、動けなかった。
「家に、帰りたいな」
そう、海琉が呟いた。その言葉は、俺が動き出す為の理由になった。
本当はずっとゲームが恐ろしかったんだ。ああ、そうだ、帰りたかったんだ。
もしかしたら、死んでいった奴らと本当は出会ってなんか無くて、今見えてる海琉だけが現実で、でも、そんな事は無い。
未来を託されてしまったから。俺達が悪夢を終わらせたから。だから、こんな自分の人生すらも、胸を張って生きていくべきなんだ。
今度は自分を愛せるかな。途中で棄てたくなったりしないかな。
多分、もう大丈夫だ。
「うん、帰ろう」
俺達はこの巨大な倉庫のような建物の出口へ歩いていった。海琉は泣きすぎて目がパンパンだ。二重扉になっていて、まるで体育館のような造りだ。海琉を先に歩かせて、俺は扉と扉の間で立ち止まる。
少しだけ、後ろ髪を引かれて振り向く。やっぱり誰もいない、がらんとしている。
終わった。終わったんだよ。終わらせたんだ。
そう自分に言い聞かせて、またゆっくりと前を向く。
その時だ。扉と扉の間の空間にふと目をやる。闇が拡がっている、ように見えた。
少しだけ、不自然に一筋の光が射す。
海琉がいる。
いや、正確には、最初に死んだ海琉だ。首の辺りが酸化した血で真っ黒だ。死んだ海琉が、他の死体と一緒に無作為に積まれているのだ。
少し立て掛けるように置かれ、朽ちかけている 見開いた眼と目が合ってしまう。それはたった1秒くらいだったが、永遠にも思えた。初めて全身の身の毛のよだつ思いをした。死んだ奴は眠ったままだ。海琉も1度死んだ。それを忘れるな。そう、誰かに言われたような気分になった。
「純平ー、行くよ?」
海琉に呼びかけられてやっと帰って来られた気がした。小走りで彼の元へと駆け寄る。動悸が止まらなかった。
「どうかした?」
「なんでもない」
俺にはそう答えるのだけで精一杯だった。




